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16話「はじめてのチェキ」

 半強制的な感じで手が動き、えびめしを掬い取り、口の中に運んでいった。体中が活性化されていくような錯覚さえ起こすようなそれは味だった。がふがふ食べてしまう。時間も時間でちょうどお腹空いてたからちょうどよかった。

「がふがふ」

「うーわご主人さますンごい食べっぷりですねー?」

「がふっがふっ……いや、ホント美味しいです」

「――えびめしとは、ご飯に海老などの具を入れて油炒めしソース味に仕上げた料理で、焼き飯やピラフの一種である。岡山県近辺で食されており、特に岡山市の郷土料理として有名である。なお他府県にある同名のちらし寿司の一種とは異なるものである」

 一瞬、食べる手が止まった。そして愛華さんの笑顔も、凍りついた。まあそれはさすがにオーバーリアクションだとは思うんだけど。

 それくらい唐突に、あるまさんはえびめしの説明を始めた。

「ソースに関して言えば、基本的にはピラフの一種で、具に海老を用いたものを、ドミグラスソースとケチャップ、カラメルソースなどをベースにしたえびめしソースを絡めて黒褐色に仕立てたものである。付け合せとして錦糸卵を上にのせてキャベツの千切りを添えるのが一般的である。ハンバーグやシーフードのフライを添えたり、オムライスに仕立てたり、店によってさまざまなバリエーションが存在する。えびめしソースは店それぞれの秘伝であり、さまざまな隠し味を加えているということだが、近年は家庭で手軽に作れるソースや冷凍食品なども製品化されている」

「……あの、あるまさん?」

「すみません御主人様、普段あまり検索をかけないデータベースでしたので、説明が遅れましたことを深くお詫びいたします」

 ぺこり、と深々と頭が下げられる。果たしてこれを、額面通りに受け取っていいものかなかなかに悩むところではあった。実際それほどかかるのかということと、検索とかガチで言ってるのかとか――

 だけど。

 もう4秒も頭を下げているあるまさんを見て、無粋な疑惑だったと汚れてしまった自分を遠い目で見てしまったり。むしろ穢れか?

「い――いやいやいやその御丁寧にありがとうございますっ」

「なんでご主人さままで頭下げてるんですか?」

 と愛華ちゃんに笑われてしまった、まったくだった。いつになったらぼくはあるまさんに相応しい御主人様然となれるだろうか――この発想自体痛いか?

 でもメイド喫茶で痛いとか考えてたらそもそもこれないか。

 なんて感じでえびめしを食べ終えたら既に9時近くになっていた。もう1時間半くらいいた計算だった、次の日のレポートもあるしさすがに迷惑だろうしお暇しようと考えた。

「ここってそういえば、チャージとか時間ごとのオーダー制とかってないんですか?」

「……ご主人さま、本気でこちらのシステムご存知なかったんですね?」

 ジト目で見られてしまう。3回目にしてこれだから仕方ないとはいえ、最初に会った印象を彷彿とさせる視線だった。そういう担当なのだろうか――とか勘ぐるのは、さすがに穿ちすぎだろうか?

 ちなみにあるまさんは愛華ちゃんが来た時点で、奥に引っ込んでしまった。残念だが、なるほど愛華ちゃんが料理を終えるまで相手をしててくれたわけだ。すごい行き届いてるサービス、毎回恐れ入ります。

「そうですね、申し訳ない。ただ、そういえば最初にそういう説明を受けなかった気も……」

「あーまー、あるまちゃんですしね。あるまちゃんなら仕方ないし、あるまちゃんなら許されますからね」

 その辺は全体的に賛成だったが、あの子の場合ドジっ子とかそういうのより雰囲気を大事にというか、そういう感じがしたのだがいやいま力説するようなことでもないけど。

「じゃあ説明しますと、チャージとかなにそれ美味しいの? という感じでして、ワンオーダーは各々のご主人さまのご器量とご良心に一任致します、といった感じですね」

「なるほど、すごい良心的なシステムですね」

「……ご主人さま、意外と高いスルースキルをお持ちですね?」

 言われるほどでもないと思うが、言われてみればなるほどそうなのだろうか? 自分ではコミュ障ぐらいに思っていたのだが。

「ありがとうございま……褒め言葉として受け取って、いんですかね?」

「それこそご主人さまの器とさいりょ以下略、ですねっ」

 うん、このメイドさんというか愛華ちゃんオタク決定。というかずいぶん距離感が近くてあるまさんとは一線を画していた、住み分けだろうか天然ものなのだろうか?

「なるほどなるほど、よくわかりました。じゃあ今日はこの辺で、」

「お出かけになられるんですか?」

 未だ、コンセプトを理解しきってはいないなと思える瞬間だった。お出かけっつーか帰るんだけどって思っちゃってるうちはご主人さまの資格なしかなと。

「あ、まぁ、そうですね。帰ろ――じゃねぇ、出かけようかなと」

「そういえばあるまちゃんとは、チェキとか撮りましたか?」

 チェキ?

 と一瞬思ったが、そういえばなんかポラロイド的なものだったかと思いだしかけていた。なんかテレビとかでもやってたような? でもチェキって、チェキるとかそういう意味なんだろうか?

「あ、いや撮ってないですね……というか、そういうサービスあるんですか?」

「ご主人さま、メニュー見てます?」

 そういやあんまり見てなかったはいゲームの説明書は読まないで感覚で覚えるタイプですすいませんというかあまりに豊富すぎて頼むものだけ決めたら安心して放置というかメイドさんが構ってくれるものだからゆっくり読み物みたいな雰囲気でもないというか。

「…………」

「ご主人さま、都合悪くなると黙って誤魔化そうとするクセないですか?」

「スルースキル、高いんで」

「いやそれちょっと違うし」

 なんだか愛華ちゃんとの距離感がわかってきた気がした。そういやいつの間にか愛華ちゃんになってるし。なるほどこうやってアウェイ感をとっていくところにメイド喫茶の醍醐味が以下略。

「それでチェキって、どんな感じなんですか?」

「撮ってみます?」

「……いくらですか?」

 確か以前ネットで見たまとめサイトで相場は、500が底値で700くらいが普通で1000とか1200とかヤヴァいとこでは2000とかまであったような?

「300えんぽっきりっ」

「うわやすっ」

「……ご主人さま、やっぱりスルースキル高いですね」

 愛華ちゃんがネタ的にでもよく似合ってるアイドルポーズ――ダブルピースをほっぺたにくっつけ笑顔を作っていたが、それよりもビックリだった。紅茶も400円でポットで3,4杯は飲めるからおかわりの必要ナッシングでしかもインスタントなんかじゃこれっぽっちもなし。まったくどうなってんだこの店?

 ふと、心配になった。

 そういえば、小市民なぼくとしては珍しく値段を見ずに頼んでしまったが――

「えびめしって、いくらだったんですか?」

「フードは一部を除きまして全品500円にて提供させていただいております」

「……利益出ます?」

「ほとんど出ませんね~」


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