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14話「反則的な台詞回しと、小悪魔的な笑顔」

「――ですが、その理由を三つ、百五十字以内百字以上で述べなさい」

「字数制限がピンポイントで、かつ長々と語れって強要してません?」

「制限時間は20分です、どうぞっ!」

「いや、その……たぶん、居心地いいからじゃないですかね?」

 すんなりと。

 ぼくはそれを、語っていた。

「……そう、思いますかご主人さま?」

「あ、まぁ、オレが勝手に思ったことですけど……」

 自分で自分の言葉が意外だった。こういうことを説明するのは、苦手なタイプの筈だったのだけど……それぐらい、自分でも気づかないくらいにこの空間が気に入っていたということなのだろうか?

 それとも、あるまさんが、か?

 どっちなのか、見栄とかじゃなくよくわからなかった、か?

「へぇえええ……ご主人さま、ちなみに何度目の御帰宅でしょうか?」

「え? さ、3回目ですね」

「愛華とはお会いしたことありませんよね? 以前はどの子が担当させていただきましたか?」

「あるまちゃ――さんに、色々と面倒を……」

「へー、あるまちゃんですかぁ」

 すごいニヤニヤっぷりだった、露骨になに考えてるかわかってしまう。だけど否定すべきかどうか、正直よくわからなかった。まあ実際あるまさん目当てと言えなくもないわけだし。

 すると愛華さんは後ろ手を組んでこちらを見上げるようにして、

「あるまちゃん、かわいーですよねー」

「いやまぁ……そう、ですね」

「あるまちゃん、気に入っちゃいましたか?」

「いやまぁ……そう、ですね」

「ありゃりゃ? ずいぶんハッキリ認めるんですねぇ?」

「そ、そうですかね?」

 なんだか変なタイミングで感心されてしまった。ぼくはぼくでどうしたらいいかわからないからぽりぽり鼻なんて掻いていると、

「へーふーんほー」

「あの……そろそろ、メニューいいですか?」

「おりょ? そうだ忘れてましたねー」

 今さらながらのようにメニューを渡される。片手で、気軽に。なんだか以前のHexenhausとは内装含めずいぶん雰囲気が違っていた。実際ここまで変わってコンセプトだとかは大丈夫なのだろうか? と無用の心配までしてしまう。

 メニューを広げる。

 内容まで、変わってるじゃないか。

「……っへぇ」

 思わず感嘆の息。それは、まるで今ブームの御当地グルメの見本市のようだった。名古屋の味噌カツや、宮城の牛タン焼に、北海道の海鮮丼まで。実際一度は食べてみたいと思っていたメニューがざっと12種類くらいは軒を連ねている間違えたなんか脳内で屋台が12軒ぐらい並んでる光景が浮かんでいたから、な感じだった。

 いわゆる本気で食べてみたいメニューのオンパレードだった。見てるだけで、マジで腹が減ってきた。楽しみ過ぎた。

 でも、本当に――

「でき――ってうぉ!?」

「へ? あ、失礼いたしましたー」

 しれっと言って、愛華さんはぼくと額と額で2センチぐらいの危険な距離まで迫っていたのを一礼してから、下がっていった。あるまさんの時も思ったけど、このメイド喫茶御主人様との距離が近すぎな気がするんだけどトラブル起こったりしないのか? とまたも無用な心配をしてしまったりする。

「それで、」

 てっきりメニュー決まりましたか? 的なことを聞かれると思ってた。

「でき、ってなんですか?」

「そっちかよ」

 思わずなノリでツッコんでしまっていた。メイドさんに。ていうか、メイドさんですよね? なんかこういうノリになってきて、あるまさんとのあまりのギャップに驚いてるというのが本音なんですが?

「そっちですが、なにか?」

「あ、いや……その、ただこんなにたくさん御当地グルメが載ってますけど、本当に出来るのかなぁ、と?」

「できますよ? できるから載せてますけど?」

 まさかのドヤ顔だった。しかも両手の甲を腰につけて、胸まで張って。胸あんまなかったけど。

「ご主人さま、いまどこ見てますか?」

「いや、愛華さんは絶対領域がすばらしいなあと」

「ご主人さま、誤魔化そうとして墓穴掘るタイプだったりしませんか?」

 セクハラ発言ギリギリアウトだった生まれてきてごめんなさい。ぼくはとりあえず黙ることにした、沈黙は金っていうことわざもあるし。

「…………」

「ご主人さま、黙ってれば誤魔化せるというものでもないと思いますけど?」

 なんかもう何やっても裏目に出る感じだった。なぜだろう? 愛華さんとの相性が悪いんだろうか?

 でも――

「あと、愛華ちゃんでいいですよ。ご主人さまは、愛華のご主人さまなんですから」

「っ!?」

 反則的な台詞回しと、小悪魔的な笑顔炸裂だった。胸が爆発しそうになった。こ、これがメイド喫茶の萌えってやつなのかと本気でビビりそうになったが小悪魔とかは萌えとは違うかとか最初のアレと鑑みてこれがツンデレか? ツンデレ喫茶か!? とかとち狂ったことを思ったりここまで1,8秒。

 とりあえず、紳士で通そうさっきの御主人様みたいにと合言葉。

「じゃ、じゃあその……この、えびめしを」

「おぉ、ご主人さま、ツーですね。はい、かしこまりましたー」

 愉しげに頭を下げ、そして愛華ちゃんは去っていった。それをぼくはフラフラ手なんて振って見送り、途中気付いた愛華ちゃんは手を振り返してくれたりして、さらにほわんほわんな気持ちで姿が見えるまで手を振り続けたどっちが御主人様なのかわからんなこりゃ。

 姿が見えなくなって4秒後、ぐてっとなった。

「……うはあ」

 すげえ、と思った。こんなメイド喫茶、来たことねえ。ていうかメイド喫茶自体2軒目だから比較対象出来るものがあとはテレビで紹介されてる奴とかドラマになったやつとかPCゲームとか漫画とかで取り上げられてる奴とかしかないのだが、にしてもこんなメイド喫茶は聞いたことが無かった。

 ここまで店内の雰囲気や、制服や、接客対応やメニューまで変わるなんて。

 けれど共通して、心臓に悪いサービスだなんて。

「……すげえや」

「なにがですかご主人さま?」

 もう慣れたよ。

 ぼくはフッ、と漫画なら擬音語がつく感じの余裕の体で顔を上げた。どうせ不意をついて話しかけると思ってたよ二度も三度もたぶん四度くらいは驚いたんだから、ぼくにも学習能力ってものくらいあるさ顔を上げて愛華ちゃんの顔を見る。

 あるまさんだった。

「……うええぇぇええぇえええええええええええ!?」

「? どうしたんですか、くろにゃんさま?」

 その呼び方、まごう事なきあるまさんだった。クラシカルな、黒のロングスカートに白のエプロンドレスの、胸元のたぶん水晶のブローチが可愛さと可憐さを引き立たせていてそれがこの上なく似合っているザ・メイドといった感じのそれはだれがなんと言おうがというか誰もなんとも言わないだろうがたとえ言ったってぼくが否定する100%な、あるまさんだった。

 あるまさん。

「あ、あるまさん、ですよね?」

「はい、あるまたんです。くろにゃんさま本日も御帰宅本当にありがとうございます」


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