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魔力零(ゼロ)の神位魔術師  作者: 宝岩 葵
異世界生活編
7/8

重力魔法

 施設内に二人の子どもを除くと人はおろか死体すら見つからない。さらにその点を除けば施設内に全く異常がないということに疑問を覚えた漆黒の魔のメンバー、クロノとリッグは他のメンバー達にそのことを報告をしていた。


 リーダーのイドゥッハは念のため部隊の者達に施設を包囲させると、最も戦闘に優れたものたち、すなわち漆黒の魔の六人でその子どもの元へと向かう。


「何者だと思う?」

「たまたま行く当てのない子供が紛れ込んだ、というのが自然か? たったの二人だし、路頭に迷っていたところに食料も大量にある施設はまさに渡りに船だったといえる」

「施設内に異常が見られない以上、暮らすのには最適だっただろうな。しかし用心はしておけよ」


 二人の子どもが何者なのかについて考えながら、そのまま施設内を歩き続ける。


 十分ほど歩いたであろうか、彼らは二人がいる部屋の扉の前にたどり着く。そして組織が秘密裏に開発した魔法道具を取り出して発動させる。


 発動させたのは魔力を察知するものであり、魔力の量が強さに直結するこの世界において、相手の魔力量が事前に分かることは有利に働いた。


 勿論魔力量を知る方法は幾つかあったが、範囲が狭いとはいえ相手に知られることなく大体の魔力を測れるこの道具は非常に強力といえる。


「それにしてもなんで二人はこの部屋に移動したんだ?」

「たまたまだろう。俺たちのことがばれているなら逃げようとしただろうし、そもそも探知の魔法でも使われればすぐに分かる」


 二人があの後なぜか何もないはずの広い部屋に移動したことについて、彼らは自分達のことがばれている可能性を考える。しかし高位の魔術師六人に対して探知の魔法を気付かれずに発動するのは不可能なことから、その考えを捨てる。


 そんな時だった。魔力を察知する魔法道具を使っていたメンバーの一人が、突然驚愕の表情を見せる。


「どうかしたのか?」

「……ああ、すまない。測定が終わったんだが、落ち着いて聞いて欲しい」

「なんだ? 驚くような魔力でも持っていたのか?」

「ああ、その通りだ。どうやら二人ともリーダーを超える魔力を持っているらしい」

「なんだと? ただの子どもが二人とも?」

「そうだ。信じられんことにな」


 イドゥッハは漆黒の魔でも飛び抜けた魔力量を持ち、世界中でも人の中では(・・・・・)十本の指に入っているといっても良かった。そしてそのことを知ったメンバーたちは驚きに顔を染めている。


「どうやら只者ではないようだな。しかしこの拠点のことを知られた時点で逃がすつもりはない。お前たち、くれぐれも油断はするなよ」


 未だに信じられないといった顔をしているメンバーに対してイドゥッハがそう告げると、各々真剣な表情を見せて扉を見つめる。


「では行くぞ」











 部屋に入ってきた、全身黒装束に身を包んだ六人のことを夏樹は決意の篭った眼差しで見つめる。すると六人のうち最も背の高い男、イドゥッハが声を発する。


「君たちは誰かな? どうしてこんなところにいるんだろうか?」

「そんなことお前たちには関係ない。おまえらが先に名乗ったらどうだ?」

「この施設の持ち主とでも言っておこうか。できれば友好的に物事を進めたいんだが、この施設でなにが起こったのか教えてくれないか?」

「教えたら逃がしてくれるのか?」

「ああ。勿論だとも」


 逃がしてくれるとは言われたが、夏樹はその言葉を信じる気はなかった。人を人とも思わぬ非道な行為を繰り返してきた連中が約束を守るとは思えなかったからだ。


 事実、この施設が完全に包囲されていることを知っていた夏樹はいつでも魔法を発動できるように準備をする。


「嘘だな。お前たちは邪神教の奴らだろ?」

「・・・・・・知っていたのか。なら話は早い、俺たちはこの拠点の調査をするために来た。そしてお前たちを見つけたわけだが、その様子だと何か知っているみたいだな?」

「ああ。教える気はないがな」

「早めに教えた方が身のためだぞ? お前たちは膨大な魔力を持っているようだが、まだ子どもだろう? それもどうやら全く戦いに慣れていない」


 イドゥッハは今までの経験から目の前の黒髪の少年とその影に隠れている白髪の幼い少女が、どうやら全く戦闘経験がないらしいことを瞬時に見抜くと脅しをかける。


「そんなことまで分かるのか。だが教えたところで殺されるのがオチだろ?」

「ふん、教えれば苦しみのない死を与えてやるいうことだ」

「やっぱりそうか。残念だが俺は殺されるつもりは毛頭ない」

「そうか。将来有望な子どもたちを手にかけるのは躊躇われるがしょうがない。『拘束する影(シャドウバインド)』」


 交渉が決裂するとすぐにイドゥッハから拘束用の闇魔法が放たれる。


「『聖光の防壁(ホーリー・ウォール)』」


 それに対して夏樹はまずは防御を固めるために光魔法を展開する。するとイドゥッハが放った影は光の壁に阻まれ消滅する。


「ほう、これは驚いた。その歳で高位の光魔法を使えるとは。お前たち、全員でかかるぞ」


 漆黒の魔のメンバーたちは各々魔法を詠唱し、発動する。情報を得るためにも夏樹とリルを殺すことは出来なかったので威力を抑えてはいたが、光の壁はしばらくすると消え去った。


「その程度では我らの魔法を防ぐことはできないぞ? 『猛追する刺影シャドウ・ド・チェイサー』」


 夏樹が高位の魔法を使えることを知ったイドゥッハは同じく高位の魔法を発動する。


 するとイドゥッハの影からがまるで黒い槍のようなものが飛び出し夏樹たちに襲いかかる。


「『神聖なる光の障壁(セイクリッド・バリア)』」


 それに対し夏樹が発動したのは最高位の光魔法だった。夏樹とリルは半透明な光の膜の障壁に包まれ、黒い槍は跡形もなく消滅する。


 そしてその光景をみた漆黒の魔の者たちは驚愕に目を見開く。


「なっ、そんな馬鹿な! なぜ戦闘経験もない子どもが最高位の魔法を使える!?」


 高位の魔法が完全に防がれたことに対し漆黒の魔メンバーは困惑した。というのも、高位を超える最高位の魔法というのは、極一部の天才が長年修行を積んでようやく使えるような魔法だったからだ。


 そんな中、なお落ち着いた表情でいたイドゥッハはメンバーたちに命令する。


「落ち着け。もう手加減は無用だ。殺すつもりでいかないとこちらがやられるぞ」


 彼らはその言葉に冷静さを取り戻すと、命令通りに自分達が使える中で最高の魔法を発動していく。


 年端もいかない子どもが自分をも超える最高位の魔法を使うという異常事態に対して、彼らが急速に冷静さを取り戻せたのには理由があった。それは漆黒の魔のリーダー、すなわちイドゥッハも最高位の魔法が使えたからだ。


 そもそも漆黒の魔という集団は魔術師六人のみで構成されており、パーティーのバランスを考えれば非常に偏っていた。そんな彼らがここまでやってこれたのは、ひとえに全員が高位の魔法を使いこなすスペシャリストだったことと、さらにイドゥッハが他と比べても図抜けた力を持っていたからであった。


 相手と同格の力を持つ仲間がいる。その事実は彼らにとって安心感をもたらし、光の障壁に向かって次々と魔法を放っていく。


 そして障壁にヒビが入り始めたその時、イドゥッハも追い打ちとばかりに魔法を発動する。


「さあ、これでトドメだ。最高位魔法『渦巻く闇の奔流(ダークネスストリーム)』」


 イドゥッハから放たれたどす黒い闇の濁流が光の障壁ごと夏樹たちを飲み込む。喰らえば確実な死が待っていることを予感させるその濁流はまさに闇の体現と言えた。


 そしてその魔法が消え去ったあと、何も残らないはずの場所に残っていたのは……無傷で立っている夏樹とリルだった。


 夏樹は更に光の障壁を張り、闇の濁流を防いでいた。


「まだ魔法が使えたか。だが守ってばかりでは勝てないぞ?」


 イドゥッハのその言葉に対し、夏樹は苦い顔を見せる。夏樹が攻撃魔法を使わず守りに入ったのには幾つか理由があった。


 まずは初めての戦いということで、攻撃することに少なからず戸惑いがあったこと。そして相手がどんな魔法を使ってくるのか感心があったこと。


 しかし戦いの中で自分の魔法に自信を持ってきていた夏樹は、魔法が飛び交う光景に怯えながらも、信じ切った目で自分を見つめるリルをこれ以上怖がらせないためにも攻撃魔法を使うことを決意し、発動する。


「じゃあお望み通り攻撃魔法を使わせてもらう。『渦巻く闇の奔流(ダークネスストリーム)』」

「なっ、馬鹿な!?」


 夏樹から放たれた魔法に対して今度はイドゥッハまでもが驚愕の表情を見せる。


 それもそうだろう。一人一属性が常識とされる世界で、二つ目の属性、それも最高位の闇魔法を使ってきたのだから。


 しかし、彼らはいくつもの修羅場を乗り越えてきただけのことはあり、土魔法の使い手のリッグはすぐさま防御の魔法を展開する。


「『不動の土壁(ファームウォール)』!」


 すると地面から巨大な土壁が現れる。そして闇の濁流は土壁に衝突するが、破壊には至らずに消滅する。闇魔法は物理的な物の破壊には向いていなかったため、一般的には土魔法との相性が悪いとされていた。


「た、助かったぞリッグ。適切な判断だ」

「それにしても何者だあの少年は」

「わ、分からん。だがこのままでは危険だ。リッグ、防御を固めろ。」

「了解した」


 冷静さを取り戻したイドゥッハはリッグに命令を下し、防御の体制を整える。測定の結果、膨大な魔力量を持ってはいたが無限ではない。そのため数で勝る漆黒の魔のメンバーは夏樹の魔力切れを待つことに決める。


 夏樹が使用した光魔法と闇魔法は物理的な破壊が苦手だった。リッグが防御に特化した土魔法の使い手だったことをイドゥッハは幸いに思いながら夏樹に向かって話し始める。


「おまえが何者かは分からないが、こちらは闇と光魔法に対して相性のいい土魔法が使える。このままでは魔力が切れるまでの辛抱だぞ? 降伏したらどうだ?」


 それに対して夏樹は不思議そうな表情で言葉を返す。


「闇と光魔法が土魔法に相性が悪いっていうのはどっから来たんだ?」

「何を言っている? 土魔法で出来た物理的に強固な壁を破壊することは、闇や光魔法では不可能だろう?」

「なるほど、そういうことか。ならこれならどうだ、『支配される重力の世界グラビティ・コントロール』」


 夏樹はその言葉に自分が圧倒的力を持っていることを確信すると、前から使ってみたかったと思っていた魔法の一つ『支配される重力の世界グラビティ・コントロール』を発動する。


 神位の闇魔法であるこの魔法は、重力を支配することができた。そして夏樹は何となくの使い方を掴むと目の前の巨大な土壁に強い重力をかけ、粉々に破壊する。


「な、何が起きた!?」

「リッグ、壁を作り直せ!」

「あ、ああ。『不動の土壁(ファームウォール)』!」


 しかし何度壁を作ろうが同じことだった。出来たそばから粉々に破壊され、メンバーたちが苦し紛れに放った魔法でさえも夏樹達に届くことなく消滅する。


「別に闇魔法と土魔法の相性は悪くないみたいだな」

「い、一体何をし……ぐっ!」


 夏樹は漆黒の魔の全員に重力をかけ、地面にひれ伏せさせる。彼らはその立ち上がることすら出来ない圧倒的な力に、自らの敗北を悟ったようだった。

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