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魔力零(ゼロ)の神位魔術師  作者: 宝岩 葵
異世界生活編
3/8

異世界と魔法


「うっ・・・・・・」


 夏樹が意識を取り戻し、目を開けるとそこは人気のない薄暗い体育館ほどの大きさの場所だった。


 地下室なのであろうか、窓といったものはなく壁は岩で出来ている。天井には幾つか明かりを放つランプが吊り下げられているが、明るさは心もとなく不気味な雰囲気を感じさせる。


「ここは・・・・・・? やっぱりあれは現実だったのか?」


 到底信じられないような事ばかり起き精神的に疲れていた夏樹は、全て投げ出して横になって寝てしまいたい欲求に駆られるが、まずは現状の確認が第一優先だと考え直す。


「ふぅ、それにしてもなんか悪趣味だな」


 今回はちゃんと口も動き、体も思うように動くことに安堵してあたりを見回す。夏樹の足元には半径五メートルほどの魔法陣が描かれており、地面には至る所に血で描いたような真っ赤な魔法陣が見られる。また壁の近くにはいくつもの不気味な悪魔の彫像が規則正しく並べられていた。まるで黒魔術の儀式でも行うかのような不気味な光景に夏樹は思わず顔をしかめる。


(ここは神様が言っていたように本当に地球とは違う世界なのか? いや、今考えても答えは出ないな。とりあえずは神様を信じるとして、慎重に行動しないと)


 夏樹はこれからどうするかを考え始める。幸か不幸か人の気配は感じられないので、ゆっくり考えることが出来そうであった。そしてまずは神様が自分にあるといっていた膨大な力、そして魔法についての言葉を思い出し実践してみることにする。


(膨大な力、ね。俺自身が何か変わったとか、そういうことはないと思うんだけど。魔法も使えるとか言ってたけど、そんなもの使えるわけがな・・・・・・!?)


 魔法を使えないかどうか考えていたその時だった。夏樹の頭の中に膨大な『魔法の記憶』とでもいうべきものが突然湧き上がっていく。そしてその不思議な感覚に思わず頭を手で押さえる。


(な、なんだこれは? まるで昔から魔法を知っていたような、そんな変な感覚だ。使い方が何となく分かるぞ・・・・・・)


 夏樹はその記憶に従い、実際に魔法を使ってみようとする。そしてなるべく規模の小さいものを選び、発動する。


『浮遊光』(フロートライト)


 そう言葉を発すると夏樹の手のひらから五センチほどの丸い光が出現し、空中に浮かびながら辺りを明るく照らし出した。


「す、すげぇ・・・・・・。地球じゃありえねーぞ」


 ここが異世界であるということに初めての実感を感じながら、夏樹は感動する。もう少しで成人とはいえ、まだまだ魔法だとか魔術だとかそういったものに惹かれる年頃である。そして実際に自分が魔法をつかえてしまったのだから、その感動はなおさらであった。


(ああ、何かすごい興奮するな! 中二病は卒業したつもりだったが、俺の中の魔物が暴走しそうになるぜ・・・・・・)


 全く厨二病を卒業出来ていなかった夏樹は、人の気配が全く感じられないのをいいことに実験という名目の暴走を始める。


(やっぱ使うなら闇魔法だよな! さっきの『浮遊光(フロートライト)』は光属性だったし、今のうちに色々な属性の魔法を試しておいたほうがいいしな!)


 この世界において人が使える魔法は火風水土雷光闇の七属性であり、その他の魔法は無属性魔法と言われていた。また、普通は(・・・)自分が元々持っている魔力に適した一つの属性しか使えないはずであった。



「最初は弱めのやつにするか。『闇球(ダークボール)』!」


 しかし夏樹がそう発すると、闇魔法が問題なく発動する。今度は前に突き出した手のひらから半径20センチぐらいの大きさの黒い靄のかかった黒球が放たれた。黒球は不気味な黒い霧のような軌跡を残しながら真っ直ぐ飛んでいくと、壁に当たり弾けて消滅した。


(やべっ、壁とか破壊して崩落でもしたら不味い。そういう意味でも闇魔法で正解だった)


 この世界の闇魔法というのは精神的ダメージや肉体に直接ダメージを与えるものが多く、一部を除いて物の破壊にはあまり向いていなかった。


「『暗黒の障壁(ダークネス・バリア)』、『深淵の領域(アビス・フィールド)』、くっ、俺の右腕よ静まれ・・・・・・! 『猛追する刺影シャドウ・ド・チェイサー』!」


 他の魔法も試してみたくてしょうがない夏樹は、ある程度の注意を払いつつも次々に魔法を使っていく。使用したのは闇魔法ばかりであったが、様々な要因が重なり、明らかにおかしなテンションになっていた。


 ――そして特に優秀な、全体の上位約五%の魔術師しか使えないはずの高位の魔法が、呼吸をするかのような簡単さで次々と放たれるという恐ろしい光景を怯えた目で見つめる者がいることに気づくことも当然なかった。


「我が身に纏え、闇の眷属たちよ! 『舞い踊る死の宴ノーライフ・フィースト』!」


 この世界において魔法の詠唱というのは魔法名だけで良いため、前半部分は全くの無意味である。夏樹は明らかに錯乱していたが気づく様子を見せない。


 そして夏樹はいくつもの闇球を周囲に纏わせ、聞いている方が恥ずかしくなるようなセリフとともに最高位の魔法を発動する。するとボロボロのローブを身にまとった人の骸骨のような姿をした半透明の死霊が幾体も現れ、夏樹の周囲に付き従う。


 気分は完全に悪の魔王になっていた夏樹は次第に敵役がいないことに不満を抱き始めると、脳内に架空の設定と敵を作り演技まで始めだす。


「なあ、我が復活したこんな素晴らしい日に姿を隠しているものがいるようだぞ?」


 そういって回りの死霊に話しかけるが、所詮は魔法であり返事は当然ない。死霊たちが呆れた顔をしたように見えたのは気のせいであろう。しかし夏樹はそんなこと全く関係ないかのように話を続ける。


「そこにいるのは初めから分かっているぞ。我の前で隠れようとする愚か者よ……闇の炎に抱かれて消えるがいい! ククク・・・・・・ハハハ・・・・・・ハーッハハハ――」


 透明化の能力をもつ刺客(という設定の架空の敵)に対して決め台詞を決め、気持ちの悪い三段笑いを高らかに上げていたその時だった。



「ご、ごめんなさい!」

「――ハ、ぅげほっ!?」


 目の前に突然灰色の髪の幼い少女が表れる。盛大な黒歴史を見られた夏樹は血の気が一瞬でサッっと引いていくのを感じ、瞬間、両腕を大きく広げて顔を天井に向けたポーズのまま時間が止まったように停止する。





 ……夏樹が、現実逃避をした遠い目をしたまま固まっていると、今にも泣き出しそうな顔をした、6、7歳ほどの少女は消え入りそうな声で話し始める。


「ほ、本当にごめんなさい……。わ、私こわくて……」


 その声にようやく正気を取り戻した夏樹はとっさに魔法の記憶から探知系の魔法を探し出し、発動させる。勿論これは他にも人がいる可能性を危惧したためである。


「くっ、迂闊だった。『探知光・最大域サーチライト・マキシマム』」


 辺りを一瞬薄い光が満たす。そして夏樹は周囲に自分と少女以外いないことを確認すると、ほっとし息をつく。しかし人間落ち着くと思い出したくないことを思い出すものだ。


 夏樹はすぐに今までの醜態を思い出す。そして即座に発動したままだった魔法を全て消すと、あまりの恥ずかしさに真っ赤になった顔を伏せ細かく震えし始める。


(お、俺は一体何をしていたんだ。しかもみ、見られて……いた? ……ああ、穴があったら入りたい……いっそそのまま死んでしまいたい……)


 しかし少女はそうは思わなかったようだ。


 少女は夏樹の姿を怒りのあまり顔を染め上げ震えているのだと勘違していた。そしてついにその沈黙に耐えきれなくなったのか、声をあげて泣き出してしまう。


「…うう…ひっぐ…ご、ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい…わ、われらが主…邪神様…ぅう…ど、どうかお願いできるなら…苦しい死だけはやめて…く、くれま…せんか……?」


 今度は両手で顔を覆って、羞恥のあまり耳鳴りまで感じていた夏樹であったが、なんとか少女のその言葉を理解すると冷静さを少しずつ取り戻していく。


(い、今は恥ずかしがってる場合じゃないな。いつの間にか状況が進んでいるが、目の前にいるこの子は何だ? 何処から現れた? 邪神様だとか死だとかいうわけのわからない単語も出てきているし…)


 夏樹は気持ちを切り替えて状況を整理し始めると、必死に泣きやもうとしている少女に近づき、膝を折ってなるべく優しい声で話しかける。


「ごめんね。怖がらせちゃったかな? よかったらお名前を教えてくれる?」

「……リ、リル、です」

「リルちゃんか、いい名前だね。さっきまでいなかったけど、何処にいたのかな?」

「そ、それは……う、ぅう……ひ、ひぐっ、わ、わたしは……」


 優しく目線を合わせて話したのが功を奏したのか、名前を聞くことには成功する。しかし夏樹がノリノリで「愚か者よ、消えるがいい!」などとリルに向かって(勘違いではあるものの)ほざいたせいで、自分のいた場所を聞かれたリルは責められているのだと思い込み再び泣き出してしまう。


 夏樹ようやくその事に気づくと、泣き出したリルに対して羞恥と罪悪感を感じだす。そしてどうしたものかと狼狽しながらリルを見ていると、その容姿に何か違和感を覚える。


(なんだ? やけに肌が白い子だと思っていたが、よく見ると白粉みたいなものを全身に塗ってあるのか? それに顔がかなり歪んでいるような……)


 少女の顔は化粧のようなもので誤魔化されてはいるが、顔中が腫れ、骨格も随分と酷いものであった。加えてそれは自然なものではなく、無理矢理歪ませたような感じがした。


 そして、夏樹はリルの体をよく見ると傷だらけでボロボロなことに気付いた。しかもその傷は随分と古いようなものもあり、明らかに虐待を超えた何かを昔から受けているようだった。


「ごめんね。ちょっといいかな?」

「ひっ……」


 未だすすり泣きをしている少女の腕を取ると、少女は怯えたように小さい悲鳴をあげる。夏樹はその腕の状態のあまりの酷さに怒りと困惑を覚えるが、その感情はしばらくして別のものに変わる。そしてそのときあることが起こった。


(うぐっ……な、何だ急に……。頭が……記憶が流れ込んでくる……? こ、この感覚は魔法の記憶が湧き上がって来たときと同じ……? いや少し違う……それにしてもこの記憶は……う、うう、おえっ)


 夏樹は吐き気を催し口を押さえる。そう、夏樹の頭に突然流れ込んできたのはリルの記憶の断片であり、その記憶は日本で暮らしてきた夏樹にとってはショッキングすぎるものだった。


 リルの記憶は一言で表すなら地獄と言っても過言ではない。様々な場所を転々としながらも、虐待や研究と称した人体実験を受ける日々。そして思わずして夏樹はその記憶から、最初に知りたかったリルがここにいて他に人がいない理由、そして自分がここに召喚された理由についても知ることになる。


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