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魔力量測定

この話は読み飛ばしても問題ありません

「おまえの魔力量はゼロだ。ゴブリンはおろか家畜以下、いや家畜のフン以下だな」


あまりに唐突すぎるその宣告に、少年の脳は言葉の意味を理解できずに固まる。なぜこんなことになったのか。少年は現実逃避も兼ねて自分の行動を思い返していた。












―――――――――――――


「ここが冒険者ギルド……!」


 初めてみる冒険者達の活気あふれる光景に入口に立っている少年は目を輝かせ、興奮を隠しきれないといった様子を見せる。


 何卓もテーブルとイスが並べられた食堂と思わしき場所では、酒に酔っているのであろう屈強な男達が自分の武勇伝を自慢気に語り合っており、換金所のような場所では依頼を達成して帰還したであろう者達が自分たちの戦果に歓声をあげている。


 少年はそんなあたりの光景を興味深めに眺めながら、ここに来た目的を果たすため――すなわち冒険者となるために受付のある場所へと向かう。


 受付はカウンターになっており、全部で四つあった。そして唯一空いていた、黒を基調としたギルドの制服を着ている金髪のショートカットの受付嬢に話しかける。


「あの、冒険者の登録をしたいのですが」

「新規のご登録でよろしいですか? もし推薦状などがある場合はお出しください」

「いえ、ないです」

「では完全新規のご登録となります。詳しく説明しますね」


 受付嬢は何度も繰り返しているであろう説明文を、スラスラと嫌な顔ひとすせずに読み上げる。その仕事ぶりに少し感心しつつ、少年は重要なことを聞き漏らすことないよう真剣な面持ちで聞き、頭に入れる。


 要約すれば、冒険者としての経験が全くない少年は冒険者育成のための基礎訓練を受ける必要があり、試験に合格するまで冒険者にはなれないとのことだった。


「まずは何をすればいいですか?」

「すぐにでも訓練を受けたいというのであれば、まずはクラス分けのための魔力測定を行う必要があります。よろしいですか?」

「魔力測定ですか?」

「はい。魔力測定を行うことで自分に何の職業の適性があるのかを大雑把に知ることができるんです。これからの訓練ではその測定結果を基づき、適切な訓練を受けることができます。」

「なるほど、分かりました。測定をお願いします」


 すると受付嬢はカウンターから黒い台に乗せられた人の顔ほどの大きさの水晶を取り出す。その水晶の中は霧がかかったように白くぼやけており、幻想的な雰囲気を醸し出していた。


「では、この水晶の上に手を乗せて頂けますか?」


 この世界において魔力というのは剣士であろうが魔術師であろうが多ければ多いほど優秀とされていた。また、高位の剣士や魔術師ほど元々持っている基礎魔力量というのは多い傾向にあった。


 そんなことを知ってか知らずか、自分の魔力量のついての期待と不安を胸に、少年は緊張した面持ちで手を水晶に乗せる。

するとどうだろうか、少年が手を乗せた瞬間、水晶の中の靄が消え去った。それを見た受付嬢は思わず声を上げる。


「えっ……!?」

「ど、どうかしたんですか?」


 受付嬢はこの仕事を始めて以来、初めて見た水晶の反応に驚き、目を見開く。受付嬢の声に気づいたのであろう、近くで雑談をしていた冒険者達数名がこちらを興味深げに見る。


「い、いえ。故障……ではないですね。申し訳ありません。少々お待ち下さい」

「え? あ、はい」


 受付嬢は自分の手を水晶に乗せて反応を確認し、再度少年に手を乗せるよう求める。そしてやはり水晶の靄は消え去り、それを確認した受付嬢はカウンター奥の扉に引っこんでいく。



 少年が状況を全く理解できないまま呆然としていると、五分ほど経過したであろうか。受付嬢は四十歳くらいの筋骨隆々とした見事な肉体をもつスキンヘッドの男をつれ戻ってきた。


 こちらを見てなにやらガヤガヤと話していた周りの冒険者達は少し驚いたような表情を見せる。なぜならその男はこのギルドのギルドマスターだったらだ。そんなことは知らない少年はというと、いきなり出てきた強面の男に内心冷や汗をかいていた。


「おい坊主、こっち来な」

「は、はい」


 男に突然そう告げられる。状況をまるで理解できていない少年は言われるがままカウンターの奥の扉に入り、あとにつけてしばらく歩いていく。目的の部屋だろう場所に着くと、そこには人ひとり入れるぐらいの大きさの黒い電話ボックスのような装置が置いてあった。


「この装置はより正確に魔力の量を測ることが可能だ。おまえは少々特殊なようだからこれを使う」

「そうなんですか?」

「ああ、おそらくだが俺もこんなやつは初めてだ。分かったらさっさと入れ」


 人というのは特別に憧れるものだ。特に若いうちはそれが顕著である。そしてやはり少年は男の言葉に非常に興奮していた。もしかしたら自分は特別な存在なのではないか、さっきの水晶では測定不能なほどの膨大な魔力を体に秘めているのではないか……。そんなことを考えながら、いかにも自慢気な表情で箱のなかに入る。――その表情をみた男が憐れむような目を向けたことに気づくことなく。



 測定が終わるまでしばらく待ったのち、箱からでると測定結果を見たであろう男は険しい顔を見せると、目を瞑りながら何やら考え事を始めた。少年がわくわくしながらその様子を見ていると、男は目を開き気の毒そうな表情を見せながら話し始めた。


「あー。えーと……確かおまえさんは冒険者志望で訓練を受けるつもりなんだよな? そんなキラキラした目で見つめられると話づらいな……。コホン。」


 男が咳払いをする。少年はその表情と言葉に若干不安を覚えながらも、測定の結果を聞くのが待ちきれない、といった心の声が聞こえそうなほどの期待の篭った目で男を見つめる。


「知っているとはおもうが、武術を使うにしろ魔術を使うにしろ魔力というのは絶対に必要になってくる。そのため魔力量というのは常に危険と隣り合わせの冒険者にとっては非常に重要だ。そして優秀な冒険者ほど最初の測定で魔力が多い傾向にあり、逆に魔力の少ないものほど死亡率が高い傾向がある」

「は、はあ」


 いきなりそんなことを話され、てっきり自分の測定結果を告げられると思っていた少年は困惑する。


「冒険者っていうのはなりたてが一番危ない。自分の実力も把握できてないようなやつが無茶をしやすいからだ。だからおまえさんが受けようとしている冒険者育成訓練ではクラス分けをして自分の実力をよく理解してもらう。そして、その中でも魔力量の少ない者たちが属することになる最下位のクラスは……ゴブリンクラスと揶揄される」

「ゴブリンクラス?」

「そうだ。亜人の中でも特に知力と魔力の低いゴブリンにちなんでな。人間にとってゴブリンとして扱われるのは侮辱以外のなにものでもない。しかしこれは単に面白がってそう言っているのではなく、さっきも言った通り魔力量の少ない者が冒険者として成功することは殆どないため、冒険者になるのを諦めさせるためにそう呼んで軽蔑しているんだ」

「あの、その話と僕に何の関係が?もしかして僕の魔力量は少ない……?」


 少年はさっきまでの浮かれていた表情とは真逆の悲愴な表情を浮かべ、それに対し男は気まずそうな顔を見せる。


「えーとだな。俺もこんな特殊な奴見るのは初めてなんだが……いや、この際はっきり言っておこう」


 そして男は意を決したように真剣な表情を見せると、大きな声ではっきりと言い始めた。


「おまえの魔力量ははっきりいってゼロだ。ゴブリンどころかそこらの家畜以下だ。しいて言うなら――」


 少年はあまりに突然過ぎる、残酷な宣告に目を見開いたまま茫然自失しているようだった。そして男はトドメと言わんばかりに言葉を紡ぐ。


「家畜のフン、いや、それ以下か。そこらの壁のシミクラスとでも言うべきだな」


 この世界の生物は植物を含め例外なく魔力を持っている。生き物の排泄物ですら少しは魔力を帯びていることを思い出した男は、何となく目に入った壁のシミを見つめながら堂そう言い切る。


 勿論これほどまでに酷い言い方をしたのは冒険者になるのを諦めさせるためである。対して少年はいきなりのわけのわからない例えに一瞬あっけにとられながらも、徐々に脳が言葉の意味を理解していき、口と目を大きく開けたまま彫像のように完全に固まる。


 そう、それは少年が家畜はおろか家畜のフン以下の魔力しか持たないという事実を突きつけられた瞬間であった。


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