宙空ヲ転回ス
落ちていた。
足元に広がる五月晴れの青空と、頭上に広がる深く青い海。曖昧に伸びる水平線も、当たり前に青く遠く。燃料切れの飛空機から振り落とされてしまった僕は、どうしようもなく真っ逆様に。
ただ、落ちていた。
風を切る音が耳を抜け、身体の中を駆け巡る。助かりようのない状況。遙か頭上の海面を見上げ、身体が持たないだろうと悟り。
母さん。僕は、もうすぐ、あなたの側にいくことになりそうです。
父さん。僕は、もう一度、あなたに会って話がしたかったです。
制服の裾がはためく。音を上げ、恐怖を掻き立てる。手足の震えが止まらない。
何故、こんなことになったのだろう。
考えても仕方のない疑問が頭を過ぎる。せめてもの悪足掻きに空を掴んでみたが、当然、手の内には何もなく。
助かりたい。生きたい。少なくとも、母さんの仇を討つまでは。
「……母さん」
思いつき、形見である黒い石の首飾りに手を添えた。不思議と震えが治まる。安らぎが広がっていく。恐怖を鎮めるよう、ゆっくりと、それを握り締めた。
僕は願う。せめて命だけでも助かるようにと、僕は願う。
海面は、もう直ぐに迫っている。僕は目を固く瞑り、只管に願う。
助けて下さい、と。