#09 クロスデイズ 銀次ガンナーズ・ハイ
発火能力者との戦闘は、あえて近接戦に持ち込むのがセオリーである。
何故なら、人を焼き尽くす程の大きな炎は、能力者自身を巻き込みかねないからだと香月は語る。
超能力者は、過去に受けた精神的外傷によって発現する能力が大きく変わるため、発火能力者は「恐怖」が反映されるらしい。
発火能力者は独りでは戦えないといわれる所以である。
だが反対に、炎を扱う魔術師は、好戦的、もしくは激情的な人間性 を持つと言われている。
櫂渚梁は、おそらく後者だろうなと銀次は思った。
好戦的な炎魔術師。
浅間香月と、似ている。
そう呟くと、その言葉は、真実のように聞こえてしまう。
銀次は信じたくないのかもしれない。
櫂渚梁は、浅間香月と同類だ。
要らない。
そんなもの要らない。
浅間香月は、この世に一人で十分だ。
□■□■□■□■□
「ーーーーーーset」
周囲を紅蓮の光に包まれている。
初撃時千度ほどであった炎は、その熱を鋼鉄の融解点の2倍以上、およそ三千五百まで上昇させた。
人体など触れるだけで消し炭となるだろうその状況で、武藤銀次は初めて恐怖した。
ちくしょう。
なにが上級の炎使いだ。上級でこの程度なら香月は神になってるぞ。近づくだけでも命懸けだ。
熱気で焼けた喉が痛む。いつからこの世界に水はなくなったのだ。
不意に、炎がゆれた。
考えるまでもなく、銀次は後方へと飛ぶ。唯一、炎のなかった空間。
脱出の扉と言うには、銀次はあまりに早計過ぎた。
ほんのコンマ1秒前までいた場所は炎に焼かれる。
だがそれは、銀次が逃げ込まんとした場所も同じ。
ーーー囮か?!
銀次は悪態をつく。無論、偶然などではない。
人間の火に対する原始的な恐怖を利用したのだ。
くそったれ
何処までも上手を行くつもりだ、櫂渚梁。
口を閉じ、身体を丸める。
結果、火中に銀次は突っ込むこととなった。
熱い。
その感覚も飛びそうになる。
感覚器がイカレテイル。
身体がヒメイヲアゲテイル。
心は、トンデモナクコウヨウシテイル。
くそったれ。くそったれ、くそったれが!
「ーーーーなめんな………!」
限定解除ーーーー40%。
炎は焼けない。
硬度が鉄材に、速度を音速に上げた拳が、超熱源の炎と衝突した。銀次の全力を込めた掌打であった。
押し切るには足りない。だがこの炎も、武藤銀次を焼くにはぬる過ぎる。
生者の前では、死者は絶対でなければならないーーー!
故に叫ぶ。
「Dead or ーーーーー」
詠唱。
騒ぐ右手。喚く左手。
首に掛かった銀色のーーー奇しくも自分の名の色のーーー十字架を引き千切る。
異能者で無い自分に赦された、唯一の切り札。
明らかに人外。だが異能というにはあまりに拙い。
象徴。
生者でも死者でもない、武藤銀次の鏡。
銀次はそいつを右手に巻いた。
すると、突如肥大化した鎖が肩口から手首に至るまでをぐるぐると縛り付けた。
掲げて、銀次は
「ーーーーーPain!!」
瞬間、銀次の右腕から閃光が放たれた。
正確には、その霊装の、十字架の部分からだ。
その蒼白い光は周囲の炎を裂き、やがて姿形を変えた。
鎖。
何十にもわたる鉄鎖が、銀次を燃やす炎を完璧に吹き飛ばす。
光を纏った鎖というよりは、光そのものが鎖となったようだった。
言うなれば、光の爆発だ。
光の奔流が、炎の爆裂を消し飛ばした。
結果、銀次は炎中から脱出することに成功した。
咳き込み、溜まった熱気を排出する。
「ゲホッ……くそっ、熱ッ!超熱ッ…………!」
だーらっしゃい!気合をいれて、銀次は立った。
どうだ、櫂渚梁。
お前の炎如き、なんともねえ。
だが、目の前に櫂渚梁の姿はなかった。
まさか、と言う呟き、直後に銀次は思い当たった。
当たり前だ。
敵が弱っているのを見逃す奴がいるものか。
殺し合いに隙なんてない。武藤銀次は、鈍ったんじゃあるまいか。
「……………遅い」
銀次は、頭上からその声が響く直前に、反応していた。
未だ異能モドキが残留した右手で地面を殴る。
ドオン!と大きな音を響かせ、銀次は不様に地面を転がった。回避、と言うにはいささか疑問の残る手法である。
だがそれさえも櫂渚梁の罠だった。
ズン!と言う音は、単に奴が落下したその音に過ぎない。本命は、それとは僅かに遅れてやってきた、燃え盛る小隕石。
熱は問題じゃない。
銀次が転がったままの体制で受けるには、その小隕石は重過ぎた。
純粋な威力でダンプ三台を鉄くずに帰す銀次の拳は、力負けし、弾かれる。
…………炎を逆噴射して威力を上げているのか!
気付くが、遅い。
銀次は、衝撃で深く空いたクレーターの中心で、少しばかり、後悔した。
こりゃやべえわ
武藤銀次は、とんでもない奴にケンカふっかけちまったのだ。
「が、はっ………!」
「…………ほう、まだ息があるとは驚いた……。そのロザリオ、魔力が働いているな。………なかなか良い腕をしている………」
「はっ………別に、俺が作ったもんじゃねえけどな」
見下すように、櫂渚梁は武藤銀次を見下ろした。
ちくしょうめ、俺は、お前よりも弱かったか。
毒づくが、どうにも力が入らない。
「………アンタ、なにもんだ」
「………櫂渚梁と言った。それ以外、何者でもない」
それは正確な返答では無かった。だがそれさえも、銀次にとっては有り難い。
あと、数秒。数秒あれば、どうにかなるのだ。
「じゃあ、アンタは魔術師か?」
「………半分正解だ。正確には、ハイブリットと言うべきか」
「ハイブリット……………?」
それはおかしい、と銀次は思った。
ハイブリット。
異種混合。
魔術と超能力。
消して交わらない陰と陽。
そんな非常識が、目の前に?
「……………笑えねえ冗談だな」
「…………冗談などではない。だが恥じることもない。…………軍の狗にしては、よくやったほうだ」
その賞賛には、侮蔑は含まれていなかった。
本当によくやった。
だから、どうしろと。
この程度で死ぬほど、武藤銀次は弱いか。
弱者か?
人か?
ここで死ねば、人になれる。
人として死ねる。
だが良いのか?
リリアネス・フォン・アルベストールはどうなった?
泣いたままか?
俺は人か?
死ぬ?
俺は人か?
俺は、人間か?
「……………………ふざけんな」
掲げた左手は、いともたやすく焼き切られる。
だがそれがどうした?
武藤銀次は、なんだ?
空の鼓動が吠える。
右手は、高く唸りーーーーーー!
「この程度で死ねるならーーーー!!」
轟!と炎が形をなす。
みるみる内に肥大化し、それはまるで小さな太陽のようだ。
でも。
足りない。
武藤銀次は、きっと死なない。
きっと死ねない。
「ーーーーー俺は最初っから生きてなんかねぇぇぇぇ!!」
パキイイイイイイン
小さな太陽が、音をたてて砕けた。
櫂渚梁は、驚いたように目を見開いていた。
ちくしょうめ、そんな表情ができるなら最初からそうしろ。
「ーーー全力で来いよ、櫂渚。武藤銀次は殺される程弱くなんか無い。俺を殺せるのは、俺だけだ」
そうして、銀次はもう一つ扉を開く。
限定解除ーーーーー50%。
ここからは未知の領域だ。
武藤銀次が、独りでいる時に発揮出来る最大の力。
蒼白い光を放っていたロザリオは、その光を、黄金に染めた。
祝福ーーーその名前。
流した血の量だけ。
傷つけばその分だけ、力を増す。
余りに都合の良いそれはーーー人の命を元に作られた、非道徳の武器。
「ーーーーー死んだことも無い奴に、オレは負けねえよ」
櫂渚梁は、そこで初めて嗤った。
面白い。
ここまで死んだ眼をした男の、なんと言う覚悟だろうか。
リリアネス・フォン・アルベストール殺害のついでのつもりできたが、こんなイかれた人間に出会えるとは。
「……………いいね、お前。丁度良い感じにイかれやがる。
……………かかってこいよ、武藤銀次。髪一本この世に残さねえ」
そして、櫂渚梁は異能を使う。
真空を操る超能力と、炎を使う魔術の併用。
五千度を超える蒼い業火。
対するは、宝石のように輝く黄金の光。
双方が互いの中間点で衝突しーーーーー淡い風が世界を揺らした。
その時だった。
「………………《朽庭の王》」
そんな声が聞こえたのは。
戦闘描写は苦手です
なにかアドバイスを
そしてギャグはない