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#06 武藤銀次とムトウギンジ

「ぅお腹減った…………そこの少年よ、何かたべものを献上するが良いぞ!」



「………………あ?」


ゆらり、と迸る殺気の矛先は、何時の間にか、少女の元へ。

武藤銀次は、つい毒気を抜かれてしまった。

眼前には、横たわった身体を半分起こしかけた少女が、きらきら、きらきらと輝く視線を銀次へと投げかけていた。


……………なに?なにを期待しているの?君のせいで腕吹っ飛んだんだけど?


銀次は思った。

こいつ天然(バカ)だ。


「おい、聞いているのか!そこの白い服一枚の寒そうなお前だ!」


「そればかりはお前に言われたくねぇ!」


自分の身体を見てから言って欲しいものである。

そしてそれはブレザーを彼女に貸したからである。勘違いしてはいけない。

だが彼女はそんな銀次のツッコミが気に入らないらしく、何故か若干涙目になりながら、


「その態度はなんだ!我が名はリリアネス・フォン・アルベストール!由緒正しきアヴァロンの姫君にあるのだぞ!」


「由緒正しきお姫様はこんなところで寝ないしそんな国は聞いたことがない。帰れ!」


「施しの礼としてリリィと呼ぶことを許そう!ありがたく思え!あとごはん!」


「聞けや!」


全く人の話を聞かない女である。いや、周囲にはそんな人間ばかりだが。


だいたいなんだ?今の状況は。

何でこんな状況で俺はツッコミとか飛ばしてるんだ?と、銀次は思うが、果たしてそれがこの少女に届くのだろうか。


「えーと、王女(仮)?」


「仮とかつけるな!」


「(疑)」


「うたがうな!私はせれぶだぞ!鳥は名古屋コーチンしか食さないんだぞ!羨ましいか庶民め!」


「いやめっちゃ馴染んでますやん」


そして羨ましくもない。

銀次はあまり肉を食べないからだ。

セレブならもっと、こう………高い肉とか、ねぇ、と銀次は誰に言うでもなく呟く。


そして眼前で泣きそうになりながらこちらを見ている王女様(リリィさん)

ほんとにどうしましょう。


「ごはん!ごはん!」

「…………………(イラァ)」

「ごは、あっ、やっ、辞めい!服を剥ぐで無い!あっ、やん!」


イラっとしたので、肩に掛かったブレザーを剥ぎ取ろうとする銀次。

に、必死で抵抗するリリィ。

状況を見失っているのはどちらも同じであった。


彼女は銀次より背が低いため、高く上げたブレザーを取ろうとしてぴょんぴょん跳ねていた。


「か、返せ!」

「これは俺んだ!」

「このっ………!」



ーーーーーと。



そこで。


ふと、銀次は気付く。


風が止んだ。


周囲を、嫌な空気が取り囲んでいる。

覚えがある。

人が死ぬ時は、必ずこういう雰囲気がある。

臆すればたちまち呑まれてしまうような、冷たい闇。


その時、銀次の意識の対象が、不意に、移ろいだ。


目の前の少女(リリィ)から、再び宵闇へと。


もとより死に体である銀次の五感は、常人をはるかに上回る。



その聴力が。

その視力が。

その嗅覚が。


次こそは危ない(・・・・・・・)、本気だと告げていた。


故に銀次は行動した。反射的な思考の末、予兆も姿も見えない現象に、対しどうすれば、この少女の盾になれる(・・・・・・・・・・)()


「お、おいお主、何し…………きゃあ!」



読んで字の如く。


唸り形を成す闇を背を向け、少女を腕の中に抱きしめ、庇う。


ただ、それだけ。


銀次が、彼女を護った。

その意味の大きさを知るのは、まだ後の話である。


そしてーーーー次の瞬間。



スォン、と凪いだ空気が。



無防備に曝け出された銀次の背中を、切り刻んだ。


肉を裂き、血を奪い、骨を削り。



突如出現した炎が


銀次を燃やした。




(………………敵襲!)





銀次が、にぃと獰猛に笑った。





■□■□■□■□■










(ーーーーーー今)


この男はなにをしたのだろう、とリリアネス・フォン・アルベストールは思った。


銀次が背を切られた、という事実を、リリィは素直に理解した。

その不可視の刃は、本来、彼女に向けられたものであった。

もう、逃げるのも疲れた。

だからよけようとも思わなかった。

いつも、いつもそうだ。

安息など無かった。

心安らぐ相手もいなかった。


悲しむ人もいない。


だから、リリィは、逃げようとは思わなかった、それゆえに、


リリィはその光景を、理解できなかった。



(ーーー助けられ、た?救われた?私が?)




この世に、自分を、世界を腐らせるだけの(・・・・・・・・・・)ものを、かばうような人間を、リリィは見たことが無かったから。









だから、その邂逅は。

武藤銀次に大きな意味を持ち。

リリアネス・フォン・アルベストールにとって、意味を持った。




世界において、最も、幸福と呼べる、出会いだった。


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