#05 目覚め
ひゅんひゅんと千切れた腕が空を舞う。
どばどばと雪の上に血が降りかかる。
ドス黒い染みに侵食される雪が。
まるで、人が腐敗していくかのようで。
少し笑えて。
ーーーーー武藤銀次は、ちょっとばかり、美味そうだと思った。
■□■□■□■□■
「………おーまいがっ」
この期に及んでも、武藤銀次は壊れるのを辞めるつもりはないらしい。
空の鼓動しか打てないくせに、随分と度胸の張った心臓だ。あるいは、ただ単に、武藤銀次がこの状況を理解していないか、しても動じないだけかもしれない。
片腕を落とされるというのは結構なことのような気もするが。
痛みは心に何かしらの感情を発生させる。
ならば、彼はその対極に位置する人間だったということになる。
武藤銀次は、痛みに疎い人間だ。
呆然と、その右腕の成れの果てを見下す。
「………びっくり、した」
腕を落とされても、驚く程度。
ならば、俺は首を落とされても、あるいは平然としているのかもしれないな、と銀次は思った。
勿論、本当に切り落とされたくは無いので、その通り思っただけである。
それより彼が驚いているのは、決して自分の腕がなくなったからーーーという訳ではない。
ただ、魔術の前兆すら、超能力の余波さえ感じさせず、自らの腕を狙ったその人物とは、一体誰なのか。
それが気になるだけである。
でなければ、わざわざ生きてきた意味もない。
死ぬように生きるというのは、思ったよりも骨がいる。
(……………足音一つ、単独犯だな)
銀次は双眸を細め、その路地の闇を直視した。
暗い、暗い常闇。
針川の夜は、極低温の油を漂うような、終わりのない倦怠感を伴う。
詩的な表現をするならば、死に近い場所なのだと、銀次は感じている。
だからこういうことも稀に起こる。
俺にケンカ売るようなヤロウは、何処のどいつだ、と呟く。
その間に、切られた腕は、先ほどの空刃が嘘であったかのように、もと通り、癒着していた。
絶対の再生力。
言い換えて、死の抑止力。
死んだものは常にその姿を保とうとする。
それが武藤銀次の、化物としての能力だ。
「さて、と」
ゆらり、と銀次の身体から殺気が溢れる。
応ずるように、闇が蠢き、密度を増した。
明らかな戦闘の空気。
何処までも不毛な、殺し合い。
その最中で、
「うううぅぅぅぅ〜〜………」
と、間抜けな声が響いた。
少女が目を覚ました、その第一声だ。
彼女は、何度か周囲を見回し、そして、状況にあまりに似合わない可愛らしい声で、
「ぅお腹減った…………そこの少年よ、何かたべものを献上するが良いぞ!」
ーーーー言 い や が っ た 。
すいませんちょっと短いです。