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#02 幼馴染、天使の如く振舞う

「おはよう」


「「「「「「おはようごぜえやす!!麻里鐘様!!」」」」」



「なあ香月、ここ日本であってるよな?」


「べ、別にあんたのためなんかじゃないんだからねっ」


「お前はツンデレという言葉を何処か間違って理解しているな」


さてこれはどうだろう。

目の前には、白い外壁と、門と、時計塔と、眩しいetcetcの、形容し難い、広大な世界が広がっていた。

回りくどい説明をしても怠いだけだと思うので、あえて直球に言うとしよう。


針川聖学習院。

小、中、高が一つの敷地内に収められているマンモス校。


の、その門の前に。


「今日も相変わらず汚い面をしているわねこの愚民ども!」


むさ苦しい男たちが通路両側に並んでひれ伏し。


その真ん中を通る女王様が。


自分の妹だった日には、一体どうすれば良いのだろう。



死ねばいいのかな?


















■□■□■□■□



「つ、疲れた…………」


自分の教室に着くなり、銀次は机にゴンと倒れ伏し呻くように言った。

朝食も食べていない上に、武藤家からこの学校までは少々距離がある。更には降り積もった雪のせいで満足に歩くことも難しい。いくら健全な男子高校生と言えど、疲労を訴えるには十分な労働だったのである。心なしか、周囲に瘴気のようなものが漂って見えた。


「それにしても、今日はよく幻覚を見る日だなぁ………。はは、疲れてんのかな、俺…………」


その幻覚にはすべて武藤家長女が関わっているということに銀次は気付いていない。


と、その時、銀次と向かい合うように見覚えのあるポニーテールっ子が立ちはだかった。そのポニーテールっ子は、同じ家に住み、更にはクラスまで同じ、浅間香月だった。

しかも、相変わらずもじもじしているツンデレっ子である。


「………よう、どしたよ香月」


「べ、別にあんたに用があるわけじゃないわよっ」


「そうか。じゃ、帰れ」


「えっ、あっ、ま、待って違うのっ!」


席を立ったと同時に、ぎゅっと後ろから抱きつかれた。

知ってか知らずか、無遠慮かつ無防備にその胸を押し付けるのはやめて欲しいと思う。FカップのFは富士山のFではなく、男子が炎上するFireのFだと思う。


「Fじゃないもんっ。先月Gカップにサイズアップしたもんっ」


「グラビトンのGだったのか。つか心を読むんじゃない」


というかそれは育ち過ぎなんじゃないだろうか。ほら、クラスの男子の目の色が変わってる。

また闇討ちにあったらどうしてくれるんだ。


「なんだよ、用がないなら胸に触るぞ」


「は、初めてなんだから優しくしてよね…………」


「なぜそうなる。なんでそうなった?」


相も変わらず人の話を聞かない娘である。武藤家にはそんな人間ばかりだが、この子は思考回路に問題があるのかもしれない。


「まあいいや………で、用はなにさ?」


「あ、うん、えっとね、こ、これ……」


と、香月が銀次に向かって、少し大きめの紙袋を手渡した。

ずしっと見た目を裏切らない確かな重量。


「なにこれ?」


「い、いいから開けてよっ」


またもやもじもじしているツンデレっ子。

剣幕に押される様に袋を開けた。

ふわりと良い匂いがした。


小麦色の物体に、野菜やら肉やらが挟まったそれは、もしや…………!


「サ、サンドウィッチ………?!」


「そ、そうよ。せっかく作ったんだから、ありがたく食しなさいよ」


「ど、どうして……?!」


「だ、だって朝食べてないんでしょ?だから、出る前にちょこっと作ってきたのよ」


なんてことだろう。

まさかこの子が、朝食を食べ損ねた銀次にお弁当を作ってきてくれるなんて。

天使………否、大天使のような振る舞いに、銀次の両眼から滝のように涙が溢れ出ていた。


「うう、ありがとう、ありがとう香月………。今まで全身着火女とか言っててごめん………。(蒼音の次に)大好きだ………」


「へっ?!そんな結婚なんてまだ早いよ!しっかりお付き合いしてからじゃないとっ」


「おーいホームルームはじめますよー」


と、微妙噛み合ってない話をしていると、2人のクラスの担任である坂町太郎が、大量の書類と共にやってきた。

ヨレヨレのワイシャツやズボンなど、一見ただの冴えない若者に見えるが、その実、米軍一個師団を一人で制圧することの出来るほどの化け物であることは有名な話であった。

逆らえば死あるのみ、である。

故に香月も、銀次と列を挟んで隣にある自分の席についた。


そして、この男が。

また一日の始まりを。


「あー連絡事項が一つ。近々校内戦争が行われるため、魔術学、近代武器学、超能力研はそれぞれの場所で参加申請を出しておくように、以上」


なんて、非日常を告げるのである。








ありえねえ、と銀次は、空を仰ぐように呟いた。















余談だが、朝食を焼いたのも香月本人だということを彼は覚えていなかった。





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