#14 罠か、それとも
つまるところ、現段階での問題とは、リリアネス・フォン・アルベストールの存在についてである。
可能性は二つ。
一つは、彼女本人が犯罪者であると言う可能性。どこからか逃亡中というなら、昨夜のぼろぼろの格好も説明がつく。だがその理論だと、その追跡をしていた櫂渚梁は警察及び軍隊関係の人間だという話になる。銀次は下部組織の針川聖学習院の生徒だと名乗ったため、いわゆる同士討ちをしたことになる。メールの内容と照らし合わせても、いくつかの矛盾が生じる。この可能性は無いと言っていいだろう。
二つ目は、銀次にとってはこちらの方がしっくりくるのだが、リリィが持ち合わせた能力を求めて追われているという可能性である。メールの文面も彼女を保護するようにとあったし、櫂渚梁と戦闘になったことも、奴がリリィを狙っている組織(個人という可能性も無くはないが)の所属していると言うことならおかしい点はない。
これはもう、後者で間違いはないだろう。彼女の能力など言ってないこともいくつかあるが。
武藤銀次の仮説は見事に的中した。
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「これからどうすんだ兄ちゃん?子作り?」
「ごめん。この言葉だけは言わなかったけど、黙れ変態」
武藤銀次はいつものように会話をこなそうとする。
だが、いつものように冗談を言い合えるほど、彼の精神状態は穏やかではなかった。
状況がさっぱり見えてこない。
いろいろなことが立て続けに起こりすぎた。
いいや、本当にいろいろなことが起こっているのだ。現在進行形で、しかし水面下で。
(………さぁて、どうしたもんかね……)
正直言って、武藤銀次は坂町太郎が嫌いだ。相手が教師でなければ、出会った瞬間に助走をつけて殴りかかるレベルで嫌いだ。
理由は無い。何故だか知らないが、生理的な嫌悪感を催すのである。
普段ならそんな野郎の言うことは例え蒼音に頼まれてもやらない。気分的にはルッ◯とヒー◯ーみたいな………あ、ごめん知らない?
いや、まあそれはともかく、そこに針川聖学習院の理事長の守威礼威が関わるとなると、話は大きく変わってくる。
彼女が人にものを頼むと言うことは、もう「命令」と同じなのである。
仮にも針川聖学習院、近代武器学科第一学年部隊長を務める銀次は、事態の大きさを理解していた。
ーーー何か。何か大きなことが、起きようとしている。
銀次の、今は無いはずの心臓が、ドクンと拍動した気がした。
薄紙を背後からはたくような、その乾いた音は。
ーー誰かが、地に倒れ伏すような、そんな音。
ーーーさぁ、ビビってんのか、ブルってんだか、ねぇ
誰にも聞こえないように、小さくつぶやく。
武藤銀次はなにを期待しているのか。
本人にだって、わかりはしない、きっと。
麻理鐘が、沈黙を破った。
「それより、学校の時間が近づいてるんだけど、どうしよっか?」
「「「「 あ 」」」」
敵は意外と近くにいるようである。
「まあ、やっぱそうなるさなぁ……」
大切なのは、やはり呼びたされているというその点に尽きる。
となれば、やはり。
「…………学校、いくっきゃねえな。香月、リリィに服適当に貸してやれ」
「あっ? うん、いいけど………」
「…………良いの?銀兄……もしかしたら……罠、かも……」
「そうですよ、銀次さん。あまりに早計過ぎます」
「兄ちゃん早漏ー」
「最後の黙れ。というか別に浅はかでもないだろう。向こうが適当に言ってるんじゃなくて、ある程度の目星をつけて来てるなら、誤魔化しはきかないだろ。リリィの顔だってわれてるんだし」
針川聖学習院にはそういう能力者もいる。千里眼を持つもの、未来を予知するもの、はたまた嘘を見抜くものーーーー嘘は通じないと思った方が良い。
「ーーーそれは、そうかもしれないけどっ」
香月がなにやら考えこんでいる。確かにいろいろ不審な点もある。正直なところ、これ以上なにかがわからないと言う状況の中に居たく無い。それが武藤銀次の本音であった。
「ーーー大丈夫だよ、香月。もし罠だったとしても、俺とお前に怖いものなんてないだろう?」
「! あう…………」
何故か赤くなって目を伏せる香月。と、暴走気味の発火能力。
チリチリ焼けそうになるなか、皆さんの視線が非常に冷たいです。
まあ、いいや。
銀次も、理事長との面会は、初めてである。
すいません、なかなか進まなくて。
近々話がおっきく進むといいですね。