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第4話

 メリーゴーラウンドが終わった後は、アヒル型のボートに乗ったはずだ。

 大きな池に波紋を描いて進む船。ハンドルは私が握っていた。

 「お兄さん。わたしね、ずっとメリーゴーランドにのりたかったの」

 二人の足元には自転車のようにこぐタイプのペダルが付いていた。踏むと、きっ、きいっ、と、少し耳障りな音がする。ペダルから感じる水の抵抗は重かった。

 「むかしは、幼稚園にはいる前とかはよくのってたんだよ。でも今、わたし、……男の子みたいでしょ? だから、……」

 ペダルをかなり一生懸命踏んだ。こういう事は、数少ない得意と呼べるものだった。ピエロの力を借りなかったと言えば嘘になるだろうが、子どもにしてはかなり強い力で漕げていたと思う。

 今日観覧車に乗る数時間前にあの高所恐怖症の友人と乗った時も、相変わらずの脚力で、物凄い速さで漕ぎ出してしまった。すぐに気がついて速度を緩めたけれど、隣に乗っていた彼はそれはそれは驚いていた。

 でも、あの人は……

 ――駄目だ。

 『今』の事は、考えちゃ駄目だ。



 「……うんとさ、お兄さんは、はずかしかったりしないの? 男の人がメリーゴーランドにのっても、笑われたりとかはしないの?」

 汗だくでハンドルを切る私の横で、足だけを動かすピエロは少し考えた。しかしすぐに笑顔になり、その表情からは私の悩みと同じようなものは感じられなかった。

 「……そっかぁ。いいな。わたしはね、いっつもお兄ちゃんにバカにされるの。お前がメリーゴーランドなんかにのんのかって。やめとけやめとけ、あれはユウみたいな女男がのるもんじゃないぞって……」

 池の水は汚くはなかったが、そう綺麗でもなかった気がする。そんなに深いわけでは無いはずなのに、底が暗く、見えない……。

 「わたし、男の子みたいになりたいわけじゃないの。でも、髪の毛が長いと洗うのもかわかすのもタイヘンってお母さんが言うから、だから、短いだけで……」

 もう少しで、反対側の岸に着く。折り返し地点だ。とは言っても、ここまでもかなりの距離があった。さすがに疲れ、足が痛かった。

 「ズボンばっかりはいてるのがダメなのかなぁ。でもさ、お兄さん、わたし、スカートってあんまりはきたくないの。遊ぶときとか、うごきにくいでしょ?」

 横を見ると、ピエロはこっくりと首を縦に下ろした。

 「だよねぇ……。……?」

 ピエロはなかなか顔を上げず、じっと私の腕を見詰めていた。なんだろう? 腕には、1日パスポートの代わりになる黄色い輪が付いているだけだ。それはつるつるとした素材で、遊園地の名前やキャラクターと、今日の日付が書いてあった。これが何か……

  がこんっ

 「わっ」

 よそ見をしていたら、岸に乗り上げてしまった。

 「うわわ、わ、どうしようお兄さんっ」

 しかし、横を見ても、もうそこにピエロは居なかった。

 「――!! ……あ」

 驚いて、探そうと周りを見渡すと、ピエロがもうボートから降りている事が分かった。岸の上に立って、優しく手を差し延べている。

 ためらい無くその手を取ると、彼は恒例の笑みを浮かべ、私を地上へ降ろした。

 次はどこに行くの?

 聞いても彼は何も言わないけれど、笑顔は小さな私の心を満たした。

 水の上にアヒルを残して、私達は歩き出した。



 そう、多分あれは小学校の頃の事だ。あの後歩いている時に、ピエロにあの人の話をしたはずだ。

 「ねぇお兄さん、男の人ってかわいい子がすきなの? わたしはね、リョウゴって子の事がね、……」



 観覧車は、頂上に近付いて来たらしい。

 隣の個室で、リョウゴはちゃんと、あの娘と上手くやっているだろうか。

 かなり意気込んでいたから、きっと大丈夫だとは思うけれど。





メリーゴーラウンドって、「メリーゴーランド」って言いません?(^^;

辞書で調べたら、「メリーゴーラウンド」が正式名称だそうです。たぶん。

でも、私は断固「メリーゴーランド」派です(笑)

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