表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/8

第2話

 幼稚園の頃だったか、小学校の頃だったか……もしかしたら、昔見た夢だったのかもしれない。

 いつだったかは忘れたけれど、私が今より50センチメートルは小さく、まだ身長が足りなくてほとんどのジェットコースターに乗れなかった、そんな頃だ。

 遊園地で迷子になったことがある。



 気球型の乗り物から降りて、上空からの眺めの余韻に浸りながらご機嫌で両親の元へ戻る。

 「お母さんっ」

 呼びかけた人は、母ではなかった。

 「……え?」

 まずい! と、思い、 

 「ごめんなさいっ!」

 逃げた。

 泣きそうだった。母が居なかったからではない。恥ずかしかったからだ。

 全然知らない人を母と間違えるなんて、馬鹿な子どもだと思われたかもしれない。家族には見られてしまっただろうか。この事を知られたらどんなに馬鹿にされるだろう。それは嫌だ……。それだけは避けたい。

 頭には血が昇っていた。顔は真っ赤だったに違いない。

 短い髪を振り乱し、どこまで走ったかはわからない。はっと気が付いた時には、全く見知らぬ場所に来てしまっていた。さっきまで気球型の乗り物の近くに居たはずなのに、辺りを見渡 しても全く見当たらない。右にはコーヒーカップ、左には大きな池……。

 コーヒーカップはさっき乗ったはずなのに、この遊園地にはこれが2つあるのだろうか、右の遊具には全く見覚えが無かった。

 ここはどこだろう……。

 さらにまずい事になった。迷子になったらさらに家族に馬鹿にされかねない。兄にはなんと言われるのだろう。

 『あははっユウは小さいからねー。しょーがないよねー。小さいもんねー』

 ……想像するだけで腹が立つ。

 自力で帰らなければ。早く、迷子になったと気付かれない内に、ひっそりと家族を見付ければ良い。そして何食わぬ顔で『さっきからずっと居たよ?』と言えば良い。

 嘲笑われるのは、嫌だから。

 急がなくちゃ……! 急いで、お父さんと、お母さんを、さがさなきゃ……!

 そう思って駆け出そうとした、その時

  とん、とん。

 「! っ……」

 見付かってしまった。時はすでに遅かったのだ。母だろうか。兄だろうか。手の感じから言って、きっと父だろう。

 叩かれた肩の方へ、ゆっくりと振り向く。

 「……!!」

 そこには母も、兄も、そして父も居なかった。ただ、派手な格好をした、ピエロが一人。

 真っ白く塗られた顔には赤、黄色、オレンジとカラフルな模様が描かれており、それを見て異常なまでの恐怖心に駆られたのを、今でもよく覚えている。

 「……なに?」

 しかし、その直後にそれが普通の人間となんら変わりの無い者だと判断し、生意気なくらい冷静に応えたことも、よく覚えている。

 「……」

 ピエロは何も言わず、独特の笑みを浮かべて私を手招いた。



 音が聞こえた。陽気な遊園地のマーチ。楽しそうなひとのわらいごえ。

 夕日は全てを橙に染めて、決して褪せずに灯っていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ