第1話
観覧車から見る夕刻は絶景だった。
コーヒーカップ、メリーゴーラウンド、ジェットコースター。夢のような景色の全てが橙色に染まっている。
今はまだ見えないけれど、もう少しすれば向こうの方に海が見えるはずだ。沈んで行く光に反射してやはり橙色に輝いている波は、きっととてもロマンチックな調べを奏でているに違いない。
しかし、今の自分はロマンチックだとかなんとか言っている場合ではなかった。
とりあえず、状況がおかしかった。
夕方の遊園地、恋人達が戯れる大きな観覧車。その一室に、私は一人きりで乗っている。
別に一人で遊園地に来たわけではない。普通に友人と、4人で来たのだ。
しかし、ちょっとした手違いだとか、すでに組まれていた策略だとかが重なって、こんな事になってしまった。
窓の外を見ると、『手違い』の張本人である友人がこちらに向かって必死に手を合わせて謝っている。
全く、直前に……しかも私が観覧車に飛び乗った直後だ。そんな時に、高所恐怖症だから乗れないと言い出すなんて思いもしなかった。それが分かっていれば私も観覧車には乗らなかったし、それでも策略は上手くいったはずだ。もっと早くに言えば良いものを……。
どうにも腹の虫が治まらないので、とりあえず彼には深い溜め息と冷めたい視線を送っておいた。
そういえば、外からも中は見える。たった一人で観覧車に乗る私、一体どう見られるのだろう。寂しい女がいる、と嘲笑われるのだろうか。
……
会話相手の居ない部屋の中では、自分の呼吸が異常な程響く。その他の音は無い。強いて言えば微かに震える空調くらいだろうか。観覧車の中は、こんなにも広かったのか。
思った後に、改めてそんな事を実感している自分の暇さ加減が非常に馬鹿らしくなった。
後ろの窓にもたれ掛かると、斜め上の一室に幸せそうな後ろ姿が見えた。愛しい人を見つめているだろう少年の背中は、なんと凛々しい事だろう……。
ずいぶん伸ばした髪をすき梳かし、前にかがんで目を閉じた。もういい。今の事は、考えないようにしよう。
閉じられた眼前には闇が広がっている。闇……そういえば、夜の観覧車にはまだ乗ったことがない。夜の景色も綺麗だと、教えてくれたのは誰だったか……
無駄に長い観覧車
ここからどれだけ叫んでも
きっと誰にも届かない
お久しぶりの投稿です。かなり実験的な作品なので、お見苦しい点も多々有るかと思いますが、最後まで読んでいただけると光栄です(^-^)