基本と浮遊と練習と
「よし、ほんじゃ魔法の練習いくぞ!」
保士が元気良く言った。一真もまた、ついに魔法を学べる、とやる気に満ちていた。
「最初にやるのは基本中の基本!『物体浮遊術』だ!」
初めて聞く言葉に、一真はさっきと同じ調子で尋ねる。
「なんだそりゃ?」
「文字の通りだ!物体を触れることなく自由に動かすことが出来るようになる。」
「ふ〜ん。要は念力みたいなやつだろ。」
「念力!?あ〜科学界で超能力といわれるものか!いやまあ近いといったら近いんだけど、ちょっと違って…」
「あ〜!もう理屈はいいよ!俺は直接体験して覚えるタイプなんだよ!なんでもいいからやろうぜ」
一真が頭を掻きながら言い放った。すると保士は少し迷ったような顔をしたが、「よしっ」というと、自分の杖を差し出した。
「ほれ。杖がないと出来ないだろ。」
一真はその杖をみた。木製の杖で、あちこち傷がついてはいるがとても頑丈そうだ。みたところかなり良い杖のようだ。まあ保士が触った時点で、一真にとっては最悪の杖なのだが。
一真が「おっさんの触った杖は触りたくねえ」という理由で杖を拒んでいると、保士はみかねて
「ほら!!」
と一真の手に無理矢理握らせた。一真は保士を蹴っぽった。
「いってえ!もう年頃だねえ〜。まあそれしかないから使ってくれや!」
保士が話しているのを聞きながら、一真は『魔法』と『自分の手の清潔さ』を天秤に掛けていた。だが『魔法』の魅力が大きすぎたため、決着は案外早くついた。
「まずは掛け声を覚えるんだ。君の場合は『レオ・イプシロン』を最初に言って、あとは浮遊術の掛け声の、『浮遊せよ』という呪文を言うんだ。取り合えず百回練習しよう」
「レオ・イプシロン!レオ・イプシロン!レオ・イプシロン!レオ…ってこんな練習意味あんのかよ!!」
「ああ。もちろん!君の魔法鍵を覚えなければならないからな!それを忘れると何の呪文も使えないからな。」