第5話 魔法陣と火と鍵と
「まずはタイプ検査だ。」
ここは山の中。この辺はあちこちに小高い山があり、ガキのころはよく来て遊んでいた。学校が終わった後に、保士と魔法の練習をするため、一真は山の中でもそんなに人がこない山に来ていた。
「なんじゃそりゃ?また服従系だのの話か?」
「いや、今回はそれは関係ない。人にはそれぞれ使える魔法のタイプってのがあるんだ。練習するにも、もともと使えないタイプの魔法教えても意味ないだろ。あ、ついでに俺は炎属性だけだ。」
「へえ…。でどうやって検査をするんだよ。」
一真が聞くと、保士は何やら紙を取り出し、
「この魔法陣を使うんだ!」
と答えた。
「魔法陣!?魔方陣じゃなくて?」
「よく漢字違うってわかったな!」
「いや…まあ…。小説って便利だな…。」
「その通り。これは魔法を使うためには不可欠なものなんだ。」
魔法陣と呼ばれるそれには円が大きくかいてあり、その中に星が描かれ、残りはびっしりと何やら文字がかいてあった。
「呪文はこの魔法陣をかく手間を省くためにあるんだよ。例えばこの前の『案内せよ』と唱えたら、目では見えないが『案内せよ』という魔法を出現させるための魔法陣が現れる。」
「ん?じゃあそれをいう前のリブ…なんちゃらってのはなんだ。」
「『リブラス・デルタ』だよ。これは個人情報を引き出すためのパスワードみたいなもんかな。だからひとりひとり違う言葉だし、同じでも声が違うからちゃんと判別出来る。」
保士が魔法陣を広げ、別の紙を出しながら言った。
「この紙を持ってこの魔法陣の中心に立つんだ。一瞬で終わる。」
そういうと一真に紙を渡した。ワクワクする。何が起こるんだろう。一真が期待しながら魔法陣の上に乗ると、それは突然凄まじい光を放った。
本当に一瞬だった。そして紙には何やらインクで文字がかいてあった。
《持軽一真 レオ・イプシロン 炎、多 光、微》
「…。何これ。」
「おお!『炎』が入ってるじゃないか!しかもたくさん!しかも強力な力を持つ『光』がわずかだが入っているじゃないか。やっぱり君は力を秘めている!」
盛り上がっている保士の隣でもう一度文字の書かれた紙をみながら、一真は小さく
「レオ・イプシロン…。」
と呟いた。
「そう!それがさっき言ってた君のパスワードであり、IDでもある。通称『魔法鍵』だ。まあ魔法の中で君自身を表す言葉ととらえてくれればいいよ。」
「レオ・イプシロン…。レオ・イプシロンか!」
最初は急すぎて飲み込めなかった一真もだんだんと実感が湧いてきた。ついに自分の、自分だけの「魔法鍵」を手に入れた事によって、さっきに比べ魔法という存在がうんと近く感じられた。