第4話 決意とパンと耐性と
料理はとてもうまく、一真は魔法の力をさらに思い知った。食事前の話で、保士は異世界から来たことが分かったが、まだまだ知りたいことが山ほどあった。
「おっちゃんの住んでるその魔法界ってのは、こんな魔法を当たり前のように使うのか?」
一真が尋ねた。
保士は平然と、
「ああ。科学界に住んでる君たちが、コンロや水道を当然のように使うのとおなじだよ。」
と答えた。
「もともと魔法界と科学界との違いは、5、600年前に魔女刈りが行われたかどうかだけなんだ。」
保士が爪楊枝を取りながら言った。
「ああ、あの大規模な虐殺だろ。魔法界では起きなったのか。って言うか違いそれだけ!?」
一真は驚きながら言った。
「パラレルワールドってのはそういうものだよ。ほんの少しの違いで何万、何億、何兆通りにも枝分かれしてるんだ。魔法界では、魔女刈りが無かったおかげで魔法の方が発展した。科学界では魔女刈りがあったおかげで科学の方が発展した。ただそれだけなんだよ。」
「へえ…。」
だんだん保士のことが分かってきたところで眠くなってきた。色々あって正直疲れた…。そして、もう寝るわ、と言おうとした時保士が口を開いた。
「ところで一真は魔法を使えるようになってみたくないか?」
動きが止まった。
「マジで言ってるんだ。君は力を秘めている。練習すればでっかくなれるぜ。」
保士の口角が上がった。この男の言っていることは本当なのか。そしてそれをそのまま言葉にする。
「まじか?」
保士はさっきと変わらぬ顔で
「ああ。」
と短く言った。
「お願いします!!」
一真は叫んだ。こんなにも興味をひくものってあるだろうか!今までの退屈な日常から抜けられる。これからどんな事があるだろうか。
「初めて敬語使ったな!よし!教えてやる。ただしタダでとはいえないな。」
「どうすればいい!?」
「私はこれから魔法界に戻る方法を考えなければいけない。それまでこの家に泊めさせてくれればチャラにするよ。」
保士が一真の苦悩に満ちた顔をみながら言った。
どうすればいい?魔法には好奇心が湧く。だが、これからこのおっさんと一緒に暮らす位ならガス、水、電気なしで暮らす方がましだ。いや水なしはキツイか。色々と考えた末に一真はついに決意した。
「魔法を教えてくれ。そのためならおっちゃんとの暮らしだって耐えてやるさ。」
朝が来た。今までとは違い希望に満ちた朝だ。小さい頃のクリスマスの朝にどこか似ているなと思った。今ではサンタの正体は叔父さんだと分かっているが。
だがそんな清々しい気分も、おっちゃんを見るといささか損なわれてしまった。
「おっす!よく寝れたか〜!」
眠気が覚め、目をギラギラさせた保士が元気に言った。一真はあくびをしながら
「いんや。サッパリだ。」
と答えた。
食卓でフライパンが勝手に動いているのを見て、昨夜の事が夢でなかった事を感じた。すでにテーブルの上にのっている朝飯を食べながら、一真は気になっていた事を聞いた。
「なんで俺に力があるなんて分かったんだ?俺特に何もしてねえぞ。」
保士は笑いながら
「昨日の道端での事を覚えてるか?」
と逆に聞き返した。
「ああ、そういえば『案内せよ』とか言ってなんも起きなかったな。」
「そう!普通ならあの時、君はこの家まで私を案内するはずなんだ。だが君にはあの呪文が効かなかった。という事は、君には服従系呪文に耐性があるという事なんだ!」
「服従系呪文?なんじゃそりゃ。」
一真は茶碗を持ちながらきいた。ついでに、一真は実はパン派である。
「魔法は基本的に4種類に分けられるんだ。直接的に人体や物体に効果を与える『直接系魔法』。人体や物体から様々な物を吸い取る『吸収系魔法』。人体や物体を自分の意のままに操る『服従系呪文』。そしてそれらの助けをする『補助系魔法』。この4種類だ。まあかなりの魔法が『直接系』なんだけどね。そんで『案内せよ』は『服従系』ってわけだ。」
保士が長い話を終えた頃には、もうご飯を食べ終わっていた。今日は金曜日。学校は行かなければならない。けど今までとは違う。帰ってくれば勉強よりうんと楽しい事がある。そう思えば学校も耐えられそうだ。
さあ今日が始まる!