第3話 杖と料理と異世界と
粉々になった家の破片を見て呆然とする一真。その後ろで誇らしげにする保士。沈黙を破ったのは保士だった。
「どうだ!これが魔法の力だ!科学界に住む一真は初めてみただろ!おっと鍵を返し忘れて…」
「何が魔法だ〜!!俺の家どうしてくれんだよ!鍵必要なくなっちゃったじゃないか!!」
一真は出せるだけの声をありったけ出し怒鳴った。
「まあそうキレるなよ。こんなの魔法の力を持ってすればちょちょいのちょいだ!」
保士がのんきに言う。
「ふざけんな!どうすんだよ俺の家!」
「分かった分かった!リブラス・デルタ!修復せよ!」
例のかけ声と同時に破片がどんどんもとの位置に戻っていく。数秒後には、すっかりもとの形に戻っていた。一真はそれをただただ唖然としながら見ていた。
「どうだ!これが魔法の力だ!」
ドヤ顔の保士をみながら、一真はまだ今起きたことの整理が付けられずにいた。
家に入っていく。保士と共に。やはりここまできたら、話を聞かずにはいられない。けどその前に夕飯を食べない事は、もっと出来なかった。
「コンビニで買って来っからちょっと待っててくれ。」
一真がいうと、保士は驚いた顔をして、
「毎日そんな食事なのか?」
とたずねた。一真は当然だ、と言う顔で、
「ああ。」
と短く答えた。
すると保士は突然立ち上がり、
「いかんぞ!食事はバランスよくとらねばいかん!その為には手料理のほうがいいぞ!」
と叫んだ。一真は呆れながら、
「誰が作るんだよ。おっちゃん作れんのかよ?」
と言ったが、保士は平然と、
「いや、作れん!」
と答えた。
じゃあ無理じゃねえか、と言おうとした瞬間、保士はまた例の枝と、
「リブラス・デルタ!調理せよ!」
というかけ声と共に、テーブルの上に、様々な材料を出した。
そしてそれらはそれぞれ浮かびあがり、まな板の上や鍋の中などへ次々と移動していく。包丁やおたまも勝手に動きだし、その様子はまるで透明人間が料理をしているようだった。
「多分20分もすればできるだろう。じゃあ、それまで話をしようか。」
「取り合えずこれは杖っていうもんで、これこそが魔法を出すための道具だ。」
保士はあの枝のようなものを指しながら言った。一真はまだ、隣で自由に動き回っている調理器具に目を奪われながらも、
「それよりまずおっちゃんは誰でどこから来たのかとかの方が気になるんだけど。」
と言った。
「そっか!まあそうだよな。一真、『パラレルワールド』って知ってるか?」
保士の質問に、
「聞いた事はある。たしか『この宇宙に、俺らの世界とともに存在しているとされる異世界』だっけ?けどあれは空想のものなんじゃないのか?」
と一真が答える。
「いや、この科学界ではそう考えられているが、私たちの魔法界では現実のものとされているんだよ。」
「パラレルワールド」が現実のもの!? ん?待てよ…
「まさか昼間からずっと言ってる『科学界』とか『魔法界』ってのは…。」
「そう!想像してる通りそれぞれ別の世界、『異世界』だ!」
その時、丁度料理が出来たようだ。料理が乗った皿と箸がスイーッと、一真と保士の前にやって来た。