拾った十円でコイントスをした。
掲載日:2025/11/15
私は全知全能だった、そんな気がしていた。
己の才で、知恵で、狡猾さで、腕力で。
進路も、人間関係も、女も、賞賛も。
大海すらもどうとでもなかった。
どうしようもないことも考えた、考えた、考えた。
一度轍を踏んでも、その度に考えた。
何度逃げても、その度に考えた。
それで、多くのことを上手くやった。
お粗末な人生の味とやらを舐めては吐き捨て、目もくれずにいた。
全部が憎かった。
親も友人も恋人も、ただ嫌いだった。
でも、それも長くは続かないと、神は知っていたのだろうか。
時間は憎しみを風化させ、気力を奪い去った。
憎悪の感情はこの世で1番人間を疲れ果てさせるのだ。
そうして、私は自販機の下を覗き込む。
子供の頃、万引きを覚える前に腹を空かしてはよく自販機の小銭を探し食い扶持を繋いでいた。
今はもう、その時の感情の輪郭はない。
自販機の下には薄汚れた銅色のコインが落ちている、もう一枚では何も買えない無価値な金だ。
きっとこれからもそれは変わらない。
私もきっとそうなのだろう。
憎しみを失った私は、私自身に価値を感じはしない。
だから、コインを弾いた。
心の中で裏と唱える、神はきっと全てを知っているから。
そうして私は拾った十円でコイントスをした。
表が出るのを願って。




