探索と登場
2人で地下探索を始めた。地下は思ったより広くどこまでも続いていた。
普通の民家ではありえない。
「迷わないように固まって行動しよう」
僕は奴男にそう提案した。
「そうだな。」
奴男も賛同した。しばらく歩いていると曲がり角が見えた。近づくにつれ、嫌な臭いがした。そして、曲がり角に近づくにつれ臭いはきつくなっていった。
「なんか臭いぞ。」
「冷蔵庫放置したみたいな感じだな。」
2人で横に並び、同時に曲がった。僕と奴男の視線は斜め下へ釘付けになった。壁にもたれて座り込んでいたのは、腐った人間だった。ウネウネと動くかりんとうのような形の虫が、コバンザメのように死体の体中に引っ付き、肉をむさぼっていた。目の前のむごい光景に直面し、僕は進む気が失せた。今すぐ帰りたいと思った。奴男を見ると、彼もアオザメており、探検し始めの時のキラキラした目ではなかった。
しかし、帰るわけにもいかなかった。もと来た道の方から物音がし始めたのだ。ザクザクと足音にまじってライオンのようなうなり声が聞こえてきた。僕と奴男は、気づかれないようにその場で動きを止め、周囲の様子を感じた。しばらく静止していたが、もう音はしなかった。
「クマでも来たのかな」
僕は無音を破った。
「先に進むか、来た道を戻るか、どっちにする?」
奴男がたずねた。このまま先に進んでも出口があるとは限らないし、もうこの先に進む気は消え失せていたので
「戻りたい。」
と僕は言った。
「クマの餌はごめんだぜ。戻るときは周囲を要チェックやな。」
奴男は場の暗い雰囲気を壊そうとしたのか、おチャラけた調子でそう言った。実際、僕は奴男が放つ愉快な雰囲気に助けられていた。学校生活も奴男のおかげで楽しく送れている。いつか感謝の気持ちを伝えたいと思った。僕と奴男は床扉まで戻った。
僕は、地下から出るときの周囲の確認は自分がしたいと買って出た。奴男は少し表情を曇らせたが、すぐ元の表情に戻り、
「慎重にな。」
と言った。僕はうなずき開けっぱなしにした床扉からソッと顔を出した。
一瞬思考が停止した。
すぐそばでなにかが立ってこちらを見下ろしていた。全体的には人型なのに両腕には肘のあたりからサメが生えており、本来手のある部分には、鋭い歯が何重にも並んだ大きな口のサメの頭がついていた。本体の顔の部分は、紙袋を被っていて表情はわからない。しかし、両腕に生えているサメがしっかりこちらを見ていた。
それは急に動き出した。両サメの目は白目をむき、ライオンのように吠え、本体の足がこちらに歩みを進めた。僕は急いで頭をひっこめた。リアルモグラ叩きのようだ。僕は奴男の手をつかみ、地下を奥へと進んだ。タヒ体があった曲がり角をすぎ、死に物狂いで走った。アオザメの最高速度を超える勢いで走った。無限に続く地下通路にうなり声が響いた。