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第4話 記憶と記録

「ラトゥヤ様……」


「大丈夫、何も心配ないよ」

 動揺し、固まる私の体をラトゥヤ様は優しく支えてくれた。


 ラトゥヤ様の大きい手が肩に回され、そのまま寄せられる。自然と顔がラトゥヤ様の胸へとくっついてしまい、混乱してしまった。


(こんなに近くていいの?!)

 恥ずかしいやら申し訳ないやらで顔が熱くなるのがわかった。


 離れようにも回された腕を振りほどくことも出来ない。


「毎回あるんだよね、こういう事が」

 ラトゥヤ様は困り顔で女性と対峙した。


「どこの誰かは知らないけれど、僕の花嫁はここにいるレイシスだ。君ではない」

 はっきりとラトゥヤ様は言ってくれるけれど、女性は引いてくれない。


「いいえ、ラトゥヤ様の花嫁は私です、だって私にはあなたと過ごした記憶がありますもの。どこに出かけ、何をしたのか、何が好きなのかも全部知っておりますわ」

 体が冷えていくのがわかる。


 本当に彼女にはラトゥヤ様との記憶があるというの?


 それは私が望んでも手に入れられなかったものだ。


「レイシス様は何も覚えていないでしょう? 花嫁失格ですわ」

 その言葉に足元がおぼつかなくなるも、ラトゥヤ様が支えてくれる。


「レイシスが僕の花嫁だよ、変わる事はない。今ならまだ見逃してあげるから、退場してくれないかな」

 昔と同じ言葉に安心し、私はぎゅっとラトゥヤ様の手を握る。ラトゥヤ様もまた握り返してくれた。


「退場するのはレイシス様です。私が本当の花嫁ですもの」

 彼女はうっとりとした目でラトゥヤ様を見つめ、近づいてくる。


「以前の私は百五十年前に生まれ、十八歳であなたと結婚をしました。その時の私の名はへレナ、お菓子作りが趣味で、あなたにもよく振る舞いましたね。あなたは甘いものが苦手なのに、我慢して食べてくれた」

 確かにラトゥヤ様は甘いものをあまり食べない。


 彼女がいう事は本当なのか。不安で鼓動が早くなる。


「時に喧嘩をし、私が家を出る事もありましたね。他の男性と話しをしているところを見て浮気を疑われて……あなたはとても嫉妬深いのよね」

 私の知らない、見たこともないラトゥヤ様を語られ、面白くないやら悲しいやら、気持ちが沈む。


(やっぱり私はラトゥヤ様の花嫁じゃないんだ……)


「良く調べてあるね。けれど、その情報ところどころ間違ってるよ」

 女性は驚いた顔で足を止めた。


「確かに名前や年代は合っているけれど、嗜好や喧嘩の話は違うね。それらは僕たちの様子を見て記録されたものだ。まず僕は甘いものどころか食べ物を殆ど食べないし、喧嘩だってした事がないんだ」

 そういえばラトゥヤ様はいつも飲み物を飲むだけで、食事を取ったりしない。


 デートでカフェとかに行くことが多いから、甘いものが嫌いなんて勘違いしてしまった。


「誰かに嘘の話を吹き込みまれたかな、僕の花嫁だとなんて思い込まされて。可哀そうに……君は利用されているんだよ」 

 そう言いながらラトゥヤ様は私を抱きしめる。


「国からもレイシスが僕の花嫁だって通達があったはずだ。いわば王命だよ。それに反発するって事は、君は罪を犯したに等しい。悲しいことだけれど」

 ラトゥヤ様の顔はとても憂いに満ちていた。


「ラトゥヤ様、信じて下さい! 王命はどうあれ私があなたの花嫁なの!」

 ラトゥヤ様に否定されても尚女性は諦めきれないようで、ラトゥヤ様に触れようと手を伸ばしてきた。


 けれどそれはラトゥヤ様の騎士、ギニスさんによって阻まれる。


「ラトゥヤ様が言うのならばお前は竜の花嫁ではない。去れ」

 冷たい言葉が式場内にに響き、しんとした空気になった。


 女性はそれでも引かず、目尻がどんどん吊り上がっていっしく。


「去るわけないじゃない、ここまでしたのに。それに私が本当の花嫁なのよ、なんでその偽物なんかを大事にするのよ!」

 眉間に皺を寄せて怒りの形相になる女性に、私は怖くなってきた。


「こうなるともう後に引けなくなるんだよ。誰に焚きつけられたんだか……後で黒幕を調べてね」


「御意」

 ギニスは女性から目を離す事なく頷いた。


「国王陛下もよろしくお願いします。頑張って炙りだしてね」


「……えぇ。ご面倒をおかけし申し訳ありません」

 苦々しい口調で陛下も頷いてくれた。


 ラトゥヤ様が国の安寧をもたらすとは聞いていたけれど、こんなにも影響力があるのね。目のあたりにした事でラトゥヤ様の凄さが実感出来てきた。


「可哀そうな彼女に引導を渡そう。レイシス、ちょっとごめんね。申し訳ないけれどギニスの側にいてほしい」

 手を離され少し寂しいが、私は大人しくギニスさんの側に移る。


「名も知らない偽物の花嫁さん。これでも俺を愛せる?」

 ラトゥヤ様の言葉と共に体が変化していった。




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