外伝 閑みこ 前編
「みこは、もうどこの高校に行くか決まったの?」
中学校三年に進級した、わたし閑みこは、未だに将来への道に迷っていた。もうそろそろ、決めないといけない時期なのに。
友達のみんなは、もう決まっており、試験勉強に生を入れているようだ。
決まっていないのは、わたしだけだった。
「まだ決まってなーい。どうしよう」
「もう決めないとやばいよ?それなら私と同じ高校にしない?そうしたら一緒にまたいつでも遊べるし」
それでもいいのかもしれない。友達の通おうとしている高校はそれなりにいい場所だった。
「考えておくね」
「ふんふふん♪」
次の授業は移動教室だった為、廊下を鼻歌混じりで歩いている。特に好きな科目でもないけれど、なんとなくそんな気分だったのだ。
ドン!
「わっ!」
忘れ物がないか再確認をしていると、何かにぶつかってしまった。
見ると廊下に荷物が散乱している。しかし、自分の物では無い。なぜなら、ちゃんと抱えて持っているからだ。
「いたたっ」
向かいに、尻もちを着いた女学生がいた。
「あ、ごめんなさい!大丈夫ですか?」
「ぁ…大丈夫……です」
そうして散乱した荷物をまとめる。
ふと、ある物が目に止まった。
「これ…あなたが書いたの?」
それは、わたしの知らないキャラクターが描かれている絵だった。
白い容姿に耳(?)の辺りや手足が薄紫になっていた。
頭に二つ、薄紫の炎のような角が生えており、尻尾(?)も薄紫の炎のように揺らめいていた。
それは獣のように見える。
絵の知識もなにも持ち合わせてはいないが、とても上手で綺麗だということは分かった。
「えと…はい……」
少し、照れくさそうに返事をする女学生。
「これってあなたが考えたキャラクター?」
なんとなく気になって聞いてみた。
「いえ……とあるvirtualライバーの絵です……」
「ばーちゃる?」
話を聞くと、virtualライバーというのは二次元キャラクターを介して、ライブ配信を行う人のことを言うらしい。
とても興味が広がった。顔出しせずに、ライブ配信できるなんて一体どんな世界なんだろう?
「今夜、ライブ配信をするそうなので、よかったらみてみてください……」
「あっ」
そう言って、そそくさと立ち去ってしまった。
名前くらい聞きたかったな。というより彼女、最後まで目が合わなかった。すっごい内気な人なんだろうな……
その夜、彼女が話していた某virtualライバーのライブ配信を寝る間も惜しんで、見入ってしまったのだった。
次の日、すぐに彼女に会いたいと話したいと思った。登校するなり、彼女と鉢合わせたクラスへと行く。
「こんなところでどうしたの?誰か呼ぶ?」
教室の前で、キョロキョロしているとそのクラスの子に声をかけられた。
しかし、名前も知らない彼女を呼び出すことは出来ない。
「その……ごめんなさい。名前を知らなくて……このクラスの子で間違いないと思うんだけれど」
「えー誰だろう?」
「えっと、髪が肩まであって、黒縁の眼鏡かけてて……」
「あーもしかして上川さんのこと?ちょうど来たよ」
と、後ろを示され、振り向くと昨日会った彼女がいた。
上川さんって言うんだ……
「な、なんでしょうか?」
先程、教えてくれた子に感謝を伝え、上川さんの側へと行く。
「おはよー!あのね!昨日見たよ!virtualライバーってすごいね♪わたしも好きになっちゃった」
嬉しすぎて舞い上がってしまっている気がする。ちょっと引かれてるだろうか。
「……気に入って頂けてよかったです」
「あのvirtualライバーさんが好きなの?」
「はい」
「もっと見せてもらえたりする?あなたの絵」
上川さんはちょっと戸惑っているようだった。
「あ、ごめんね。突然言われても困るよね……」
「い、いえ……その……ここではなんですし、場所を変えませんか」
そう言って教室へと入っていく。その後ろをついていった。
他のクラスにお邪魔するのは、ちょっと気が引けるけれど別にダメって訳でもないから大丈夫だよね。
上川さんは、自分の席だろう机にカバンを置き、なにやら中をガサゴソと探っている。
そうして取り出したのは、一冊のノートだった。
それをわたしに差し出してくれた。
「ありがとう!」
受け取って中身を見る。まだ線画?の状態のものも多かったが、色が塗られているものもあった。どれもこれも綺麗で、色の塗り方がとても色鮮やかだ。
「すごい……ほんとに本物みたい……」
一人感心していると、上川さんは眼鏡を人差し指でクイッと上げてから顔を背けた。
照れているのだろうか?
「あ、ありがとうございます……あの……こっちもあります……」
そう言って顔を背けたまま渡して見せたのは、スマホの画面だった。
覗いて見てみるとそこにも絵が書かれていた。というより本当に絵なのだろうか?
「すごい!綺麗!可愛い!」
絵の知識が、全くと言っていいほどないので、それしか言えないのが本当に残念だ。
「あの!よかったらお名前を聞いてもいいですか?わたしは閑みこって言います」
「えと……わたしは上川紫苑です……」
そこで予鈴が鳴ってしまった。
「あ、予鈴なっちゃった。また後で来るね!」
上川さんに手を振って、足早に自分の教室へと向かった。
その後、暇があれば何度も上川さんの元に訪れては、書き上げた絵をみたり、virtualライバーの話をしたり、時には上川さんが描いてる姿を眺めていた。
読んでくださりありがとうございます!
今回は、本編が始まる前のお話。
みこ先輩がなぜvirtual部に所属することになったのか、そして紫苑先輩とはどのようにして出会ったのか、というストーリーを描いてみました!
後編へと続きますので次回もお楽しみくださいませ♪