第七話 初イベント
「ご心配をおかけしました」
次の日の朝、すっかり熱も下がっていたので、学園へと登校した。
そしてその放課後、virtual部へと赴いたのだ。
熱は下がったとはいえ、まだ油断はならないため、みこ先輩にいただいた薬はちゃんと飲んでいる。
「熱下がったんだね!よかったぁ」
紫苑先輩は、相変わらずいなかった。お礼くらいしたかったのだけれど……
「入学したてで、初配信もしたし気が抜けちゃったんだね」
無理しちゃだめだよ?と、みこ先輩は心配そうだ。
「はい。今日も大事をとって途中で帰ります。」
「うんうん!それがいいよ!」
今日は少しだけ配信をしよう。初配信からもう3日も開けてしまっている。楽しみにしている視聴者さんに申し訳がたたない。
配信部屋を少しの間お借りして、短い配信を行った。
3日ぶりの配信に、「待ってたよー!」と言ってくれた視聴者さんがいた。体調不良だったことを伝えると、「無理しないで休んでね」と言ってくれた。
早く治して、元気な『つづり』として配信をするため、今日はこの辺で、お開きとした。
「配信お疲れ様♪短かったけど前より良かったと思うよ!」
そう言って、みこ先輩はどこから取り出したのか教室の真ん中に机を四つ並べ、その上に紙を広げた。
「イベントを開催しようと思ってるの」
紙に書いてあるのは、いろんな企画案だった。
「これは全部、紫苑が考えてくれたものなの。なにかやりたいものある?」
紫苑先輩すごい……こんなにたくさん企画を考えてくれているだなんて……!
「紫苑先輩って何者なんですか?」
みこ先輩は、ふふっと笑っている。
「えっと……どれもいい企画ですね。全部やりたい気もしますが……」
「わたしね、これがいいんじゃないかなって!」
それは、とある会場でリスナーさんと会うイベントだった。
会うと言っても、実際に会うわけではない。お互いvirtual世界のキャラクターとして会う、ということなのだ。
リスナーさんはその会場に用意された、virtualアカウントで、『閑みこ』や『悠希つづり』と二人でお話する、というものだった。
なにこれ楽しそう!
まさにみこ先輩が目指している『会いに行けるVTuber』に合っている企画だ。
「ぜひ、まずはこれをやりましょう!」
とりあえず、今日のところは企画を決めただけで解散となった。このあと、『閑みこ』の配信が始まるから早く帰って配信待機しよう。
イベント企画についてみこ先輩が紫苑先輩に、決めたことを伝えると、早速ポスターを作成すると言ってまた部屋に閉じこもってしまったらしい。
みこ先輩によると「紫苑らしい」ということらしい。
本当に、紫苑先輩には頭が上がらない。
配信でも、イベント企画の宣伝をするとリスナーさんから、「楽しみ!」「絶対いくね!」などと声を上げてくれた。
配信の片手間に、イベント企画の準備をしながら、あれはどうする?これはどうする?と、みこ先輩と話し合いを続けた。
当日がとても楽しみだ。
そうして迎えた当日、わたしたちは一緒に会場へと向かった。
この日ばかりは、紫苑先輩も来ている。
「紫苑先輩!この間は、素敵な絵をありがとうございました!それに企画案やポスターの作成まで……」
紫苑先輩には、あれ以来会っていない。今日、久方ぶりに会うのだ。
「い、いえ。好きでやっている事ですので」
相変わらず目は合わず、キョロキョロと挙動がおかしい。それが逆に少し安心する。
会場に着くと、いよいよな感じがした。
「つづりん、全然落ち着きなーい」
会場を目にすると、緊張でソワソワしだしてしまい、みこ先輩に指摘されてしまった。
指摘した当の本人は、クスクスと笑っている。
「すいません、緊張してしまって」
「でも、すっごく分かる!」
反対にみこ先輩は、落ち着き払っているように見える。
今までもイベントに参加していたし、緊張しない程度に慣れてしまったのだろうか?
「みこ先輩は、緊張してないように見えますよ」
「全然、そんな事ないよ♪ほら、手だって震えてるもん」
そう言って、掌を広げて見せたみこ先輩のその手は、確かに目で見て取れるほど震えていた。
「でも、すっごく楽しみなんだぁ♪」
みこ先輩は、満面の笑みを浮かべている。
さすがは先輩……
紫苑先輩も落ち着き払っている……と思っていたが……
なにやらずーっとブツブツと、小声でなにかを唱えている。
「えっと……紫苑先輩……?」
「はぇ!?」
声をかけると、すごい勢いで飛び跳ねた。
今までに聞いたことも見たこともない、紫苑先輩の姿だった。
「クスッ」
会場を前にして、笑いがはじけた。
紫苑先輩だけは、少し恥ずかしそうにそっぽを向いている。
ひとしきり笑い、緊張の糸もほぐれた所で、三人で写真を撮った。
わたしにとっては、初のイベント。
必ず成功させたい。
でもきっと大丈夫。わたしは独りじゃない。みこ先輩も紫苑先輩もいるのだから。
そんな思いを胸に、初のイベント会場へと入っていった。
今回も読んでくださりありがとうございます!
悠希つづりさんと閑みこさんが、2025年1月19日秋田にてデビューイベントが開催されます♪
そのイベント開催手前までを今回描きました。
ご本人たちの当日イベントは、どんなものになるでしょう?楽しみですね"(ノ*>∀<)ノ
次回作は、ちょっと楽しいものになっていると思います。お楽しみに♪