第四話 ホッと一息
「よし!二人とも準備はいい?では……つづりんの初配信が無事に終わったことを祝して…カンパーイ!」
「カンパーイ!」
そうは言っても、用意されている飲み物はりんごジュースだ。
長くも短かった初配信を終え、部員全員で向かった先はみこ先輩の部屋だった。そこはすでに、パーティー会場と化していた。
美味しそうなご馳走がたくさん用意されているが、一体いつ用意したのだろう?
「で、初配信をしてみた感想は?どうだった?」
みこ先輩は、目をキラキラと輝かせている。
「えっと…とても緊張しました。反省点も多いです。もっと上手くやれたんじゃないかなって……」
「うんうん、そうだね。次回までに練習しないと」
「はい」
実際、上手く喋れなかった。初とは言え、少し悔しさが残る。
これからもっともっといい配信をしていこう。そう心に誓った。
「だけど……とても楽しかったです!」
たくさんの方と話し、たくさんの方と仲良くなれた。反省も含めて、この上ない悦びを感じる。
これからもこの気持ちを忘れずに、たくさんのリスナーさん達と触れ合いながら、配信を続けていきたい!
「だよねだよね!初配信の時ってとっても緊張するし、自分が何言ってるのかわかんなくなる事もあるけど、結果的にすっごく楽しかったって思うよね♪」
全て、みこ先輩のおっしゃる通りです。
「まぁ、初配信としては上々だったとわたしも思います」
ここには、部員全員が集合している。と言っても三人しか居ないようなのだが……
つまり、初日にvirtual部の説明をしていたあの先輩もここにいるという事だ。
「ところで……」
わたは、ジッとその先輩を見つめた。
先輩は、かけてある黒縁のメガネを人差し指でクイッとあげた。
なんだか、挙動がおかしいように感じる。目線が全然合わない……初日は、こんなこと感じなかったのに。
「ごめんね、とっても人見知りなんだ。やる時はやるんだけれど……この子は、上川紫苑っていうだよ」
「別に私のことなど、紹介しなくてよいのですよ。この部ではただのモブです」
「クスッ…」
全然、目が合わないのが逆に面白くて、思わず笑ってしまった。
気づくと二人からの視線を感じる。
「あ、ごめんなさい。バカにしたとかそういう事じゃないんです。ただ、わたしは後輩に当たるのですし、そんなに恐縮しなくていいんですよ?」
「ふふ、確かにそう!紫苑はもうちょっと自信持ちなよ」
「仕方ないです。これは性分ですから、治りません」
少しの間、笑いがはじけた。
学園に来てからというもの、こんなに笑ったのは初めてなような気がする。ずっと緊張してたからか、初配信を無事に終えられて、ホッとしているのかもしれない。
「わたしは、悠希つづりです。改めまして、よろしくお願いします」
そう言って右手を差し出す。
「よ、よろしくお願いします」
紫苑先輩も私の手を握ってくれた。
「はい!これでお互いの自己紹介は終わったことだし、楽しいパーティーを再開しましょ!」
「はい!」
その夜は、みこ先輩が作ったご馳走を頂き、紫苑先輩が趣味で書いた素晴らしい絵を披露してくれたりと、パーティーを大いに楽しんだ。
気づけば、夜も耽っていたのでパーティー自体は、惜しくもお開きとなった。
「あ、ちょっと待って」
自分の部屋へと戻ろうとすると、みこ先輩に声をかけられ振り向いた。一体なんだろう?
「明日、土曜日で学園も休みだし、よかったら三人で遊びに行かない?近くでイベントがあるんだぁ」
「イベントですか?」
この近くで行われるイベントというのは、もしかして……?
「某アニメのイベントなの!どう?」
やはり!何を隠そう。このわたしもそのイベントには、行こうとしていた。いろんなグッズを見て、買い込もうとしていたのだ。
「行きます!ぜひ!」
「すいません。わたしは明日予定があるのです。ですが、例の写真は送ってください。」
「もちろんだよ!」
例の写真?一体なんの事だろう?
疑問に思いつつも、その場は解散となった。きっと、イベント会場かなにかの写真だろう。
という訳で、明日みこ先輩とイベントへ行くことになったのだが、はたまた楽しみすぎてなかなか眠る事が出来ない。
一体いつわたしは、ゆっくり眠れる時がくるのだろうか。嬉しい悲鳴というやつだ。