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王女、新婚気分を満喫する


 ガイに闇商人ギルドへの依頼を仲介してもらった私たちは当面の間住む家を決めて冒険者生活を始めた。


 学園に潜入する身分を手に入れるためには1ヶ月程かかるそうだ。


『はわわわぁ、リーナーそれは採っちゃ駄目なのー』

「え?」

「リーナ様!!それは毒があります!!」

「ひょえ!!」


 ジェイズに抱き上げられた私は近くにあった草に目を向ける。


「毒があって危険な植物はこれですと書いてあったのに……」

「あははは、ついうっかり」


 私は今ランクDの依頼を受けていた。Dランクの冒険者である私が受けられる適正依頼は同じDランクの依頼なのだ。


ランクDの依頼では簡単なお使いレベルのもので、薬草を採集するだとか小動物を狩るだとかそういう依頼が多い。


 薬草採集の依頼をこなすのは今日を含めて何度目かで慣れたものだと思っていたが毒のある草を採りそうになっていたらしい。


「リーナ様、もう一度ちゃんとこれを見てください」

「はいはい」


 草の中には薬になるものもあるが毒を持つものもある。ジェイズは毒のある草を絵に書いて私に持たせたのだ。


 別に毒があるといっても食べては駄目なだけで触るくらいじゃどうもしないというのにジェイズは過保護にも自分の任務があるにも関わらずこうして飛んでくるのだ。心配性なジェイズ、好きだ。


「リーナ様、良いですか?これと薬草は似ていますが葉の形が少し違います。よく見てください」

「わかってるわよ。ほら、ジェイズは大蛇型の魔物っていう強い魔物を倒さないといけないんでしょ」

「Sランクの依頼なんてそうないのでこんなのAランクで簡単なんです」

「だからってこっちに意識を向けてたら怪我するわよ」

「そんなへまはしませんよ」

「駄目よ。私は大丈夫だから」


 ほらほら、とジェイズの背中を押して大蛇がいるという洞窟に向かわせる。


「何かあったらすぐに呼んでくださいね」

「わかってるわよ」


 洞窟にジェイズを押し込んだ私は元居た場所に戻る。


「もう、私の心配ばかりのジェイズ好きすぎるわ」

『リーナー、集中しないとまた毒草を拾っちゃうわよー』

「大丈夫大丈夫ー」


 こんな感じで私は冒険者として順調に活動しているのだ。




「ジェイズ、今日の晩御飯は何が良いかしら」

「リーナ様は何がよろしいですか?」

「そうねー……私なんてどうかしら」

「……」

「私を食べてくれても……いや、何でもないわ」


 ちょっとした冗談だったのにジェイズが無言で笑い、なんだか冷え冷えとした。


「今日は肉料理にしましょうか」

「そうね、私が腕によりをかけて作るわ!!」

「あの、今日こそ私が作るのでリーナ様は」

「良いから良いから」


 2人暮らしなのだ。手料理を振る舞いたくなるのは当然だろう。手料理で胃袋を掴むのだ。リーナとしては料理の1つしてなかったが前世ではシングルマザーの母に代わって料理をしていた私は普通に料理ができる。


 初めて料理をしてみせたらジェイズに驚かれるは怖がられるはで大変だった。


「新婚生活みたいだわー」

「リーナ様……」

『リーナー私がいるから2人暮らしじゃないわよー』

「トラコちゃんは神獣だから1人に数えてないんですー」

「これなら1人だわー」


 トラコがポンと音を立てて人の姿が現れる。


「トラコ様もお肉でよろしいですか?それとも神聖力にされますか?」

「そうねーたまにはお肉も良いかしらねー」

「承知しました」


 神獣というのは固有の能力を持つ。トラコの場合は変化の力がある。ヤメルト王国では時々気まぐれに侍女として過ごしていたこともあるのだ。


「メアリーナがねーリーナがジェイズといちゃいちゃして指令を忘れちゃうといけないから適度に邪魔するのよーって言うのよー」

「くそう……泣き虫女神のくせに……」

「トラコ様も召し上がるのならシカ肉を買いましょうか。イノシシの方が良いですか?」

「そうねーシカの気分かしらー」

「ではシカ肉を買いましょう」


 そしてこのトラコ、白虎の姿ではジェイズと話さないのに人間の姿をしていると普通に口を利くのだ。恥ずかしいのではなかったのか。謎である。


「ところでトラコ様は学園には白虎のお姿で過ごされるのですか?」

「うーん、そういえば学園はー侍女が1人つけられるのよー」

「ではリーナ様の侍女として申請すれば良いのですね」

「でもー侍女は授業中教室に入れないからーその間はブローチにでも変化するわー」


 トラコは生き物にもそうでないものにも変化できるのだ。トラコはジェイズと話して嬉しいのかご機嫌な様子でジェイズと話す。そんなに嬉しいなら白虎の姿でも喋れば良いものを。


「いやいや、ジェイズとトラコちゃんが親密になるなんて駄目だわ!!」

「リーナ様?」

「ジェイズ、私にも何肉が良いか聞いてよ!!」

「え、リーナ様は安い肉なら何でも良いのでは?」


 はっ!!しまった、つい前世の癖でこの数日安い肉を求めていた。


「ジェイズには高い肉を食べさせなくては!!」

「いや、私は何でも良いのですけど」




 そんな穏やかな新婚ライフを送っていたある日、ガイに呼び止められギルドマスター部屋に通された。


「ガイ、まだ手配には時間がかかるんじゃないのか」

「そう食って掛かるなよ」


 ガイに対して荒い口調のジェイズも好きだわ。いつかオラオラ系のジェイズも見れるかしら。


「おーい、声に出てますよー。リーナ様は本当にジェイズのこと好きな」

「もちろんよ。どんなジェイズも愛してるわ」

「リーナ様!!」

「あらなぁにジェイズ」


 どうやらジェイズは私が直接ジェイズに愛を語るのは良いけど他人に聞かせることは恥ずかしがるのだ。父や母、トラコには良いのに不思議だ。でも不思議なジェイズも好きだ。何かジェイズの中で恥ずかしいポイントがあるのだろう。恥ずかしがって慌てるジェイズも好きだ。


「リーナ様、面白がってませんか?」

「そんなことないわよ。それでガイ、話とは何かしら」

「それがですね、これを手に入れたのでリーナ様にどうかと思いましてね」


 そう言ってガイが机に置いたビン。中には茶色の液体が入っている。


「なんだ?」

「東の大陸で最近出回り始めたものなんですけどね、髪を染めることができるそうなんです」

「へー!!髪染め!!」


 この世界にはヘアカラーの概念がなかったのだ。それが髪染めアイテムができるなんて。これは是非使ってみたいものだとビンに触れようとしたところジェイズが先にビンを手に取る。


「いけませんリーナ様、得たいの知れないものに触れては」

「酷いな。もちろんこっちで安全性も確認してるさ。リーナ様はこれから女神の指令というのをいくつもこなしていくのだろう。リーナ様の容姿は目立つ。こんな美少女が国を渡り歩いてたら噂になるに決まってる」

「ふむ。それはそうだな。リーナ様は天使のように美しい」

「まあジェイズったら!!天使だなんて!!好き!!」

「私もお慕いしていますよ」

「あーはいはい。それで目立つリーナ様がヤメルト王国の異母兄に知られたらまずいのでは?」

「確かにそうだ」

「それに行く先々で美少女に惚れる男が現れてもおかしかないだろう」

「……それは駄目だ」

「まあ惚れるだけだから別に気にしなくて良いだろうが」

「リーナ様に惚れる者が現れるなどあってはなりません!!」


 ジェイズはそう言うとビンを開けて液体を手に取ると自分の髪につけた。すると、ジェイズの金髪が茶髪になった。


「わあ!!」

「特に人体に影響はないようですね」

「ジェイズ、私もやりたいわ」

「どうぞ」


 ジェイズの許可が出たため嬉々として髪染めを使う。


「あとは眼鏡とかもあると良いですね」

「用意してるよ。瞳の色は変えられないけど色付き眼鏡はどうです?」

「あら、可愛いわね」


 私は茶色のレンズの眼鏡をつけてみる。


「ジェイズ、どうかしら。地味になった?」

「可愛いです」

「まあ。ふふふ、ありがと」

「多少地味目な見た目になりましたね」

「リーナ様は地味じゃない!!可愛いんだ!!」

「いや、可愛いんじゃ駄目だろ……」

「そうよジェイズ。可愛いって言ってくれるのは嬉しいけどそれじゃ話が進まないわ。客観的な視点で意見が聞きたいわ」

「リーナ様……。もう少し色が濃い方が良いでしょうね。こちらを」

「わかったわ」


 こうして地味スタイルを手に入れた私は数週間後、遂にレイジア国の王立学園に潜入することになったのだ。

 

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