王女、メイド卒業
目を覚ました私は部屋を飛び出して全力疾走でジェイズ部屋に飛び込んだ。
「ジェイズ!!」
「はわわぁ……リーナ、まだよーもうすぐ終わるけれど」
「ジェイズ……」
夢に現れた泣き虫女神とトラコに聞いた。ジェイズが私が死んで自分が死ぬ場面を何百回も体感させられていると。
私はジェイズの手を握ってうなされるジェイズの汗を拭う。
「ジェイズ……」
「……リーナ、終わったみたい」
「ジェイズ……」
間もなくしてジェイズのゆっくり目を開ける。
「……リーナ」
「ジェイズ」
「……愛してるよ、リーナ」
「まあ、呼び捨てにタメ口ですって?未来の私に浮気していたみたいだわ」
「……っ⁉リーナ様⁉ここは⁉」
「はわわぁ……ジェイズー未来視は終わったわー」
「トラコ様……。リーナ様……本物……」
「ええ、そうよ」
「リーナ様!!」
上体を起こしたジェイズが私を強く強く抱き締める。
「リーナ様!!」
「ジェイズ」
「リーナ様、生きている……」
「ええ」
「良かったです……」
「ええ」
私はジェイズの背中を擦りながら良かったと繰り返すジェイズに答える。
「……すみませんリーナ様」
「何がかしら?」
「怒っていますよね」
「馬鹿ね。私が何に怒ってると思うの?」
「……」
「私が怒ってるのはジェイズが勝手に何百回も私の死を体感してきたことでもジェイズが何百回も自害したことでもなく未来の私と浮気したことよ」
「リーナ様」
「未来の私とは随分親しげなのね。そういえば人格崩壊するだとか泣き虫女神が言っていたけど今のところいつも通り。それを知ってるのも未来の私だなんて嫉妬しちゃうわ」
私はジェイズから離れて後退りながら人差し指を顎に添えて首を傾げる。
「うわあー!!」
「ひゃん⁉」
「リーナ様!!その仕草はいけません!!」
「ほえ⁉」
「詳しくは言えませんがそのあざと可愛すぎる仕草を今後見ることになったどこぞの男がリーナ様に惚れ込んでストーカーになって……うう……」
「や、止めるわこの仕草!!だから泣かないで!!」
「リーナ様……私だけにしてくださるなら良いです。可愛い……」
「わ、わかったわ」
それから数日、今までのスーパーハイスペックイケメンで全ての障害から私を守れる自信があった完璧人間ジェイズからスペックは変わらないのに私に関することに対して気弱になってたまに情緒不安定になる可愛いスーパーハイスペックイケメンになったジェイズになったジェイズに慣れた頃。
「さて、そろそろ出発の時間ね」
「あああ……リーナ様、お願いですから獣人の国では大人しくしてくれませんか?」
「わかってるわ。大丈夫大丈夫」
未来を体感して来たと言っても状況を把握できたわけではないジェイズ。泣き虫女神が言うにはどうやら今までも私が死ぬ可能性が何度もあったらしいんだけど上手いことその未来のルートから外れてきたみたい。
「私乙女ゲームでバッドエンドにならないように選択肢選ぶの得意だったのよね。ふふん」
「駄目なんですよリーナ様。その慢心が命取りなんです……」
「あらそう?ま、それはそれとして」
私は数ヶ月過ごした自室を出て屋敷の玄関前に行く。
「メイドリーナ、今日で卒業よ!!」
「リーナちゃん!!寂しくなるの!!行っちゃ嫌なのよ!!」
「へにゃん!!」
ベルに抱きつかれた私はジェイズに聞く。
「ベル様に抱きつかれて死ぬ未来はなかったの?」
「それはありません。ご安心を」
ジェイズは私の死に繋がらないことではこれまで通り爽やか笑顔で見守り体制だ。
「ベル様、いえ、ベル。これからはお友達よ」
「お友達!!」
「そうよ。スペシャルな秘密を教えてあげるわ。冒険者ギルドに戦姫宛てって書いて手紙を書くとね、なんと私に手紙が届くのよ」
「冒険者ギルド!!戦姫!!かっこいいの!!じゃあ今から書くの!!ね、ディ様!!」
「そうだねベル」
フレディが我が物顔でアランデア公爵家の使用人に指示して紙を用意させた。
「リーナちゃん、お元気なの?」
「元気よ」
「あ、駄目なのよ!!お手紙に書いてるんだからお返事でお返事なのよ!!」
「ふふ。わかったわよ。ヘンリ、お世話になったわね。さよならの前に改めて自己紹介するわ。私訳ありのリーナと申します。訳あって身分を明かせません」
「自己紹介になってないよ……。でもありがとう。おかげでうちの可愛い妹は戦闘に興味を持ってうちの使用人は無茶な要望に対応可能になって護衛は強くなったよ」
「おほほほほ、どういたしまして」
「……はあ」
ヘンリがため息をついてリオナがそのヘンリの肩を叩く。
「リーナ様。短い間でしたがお会いできて嬉しかったですわ。冒険者は大変なことも多いでしょうがお元気で」
「ありがとう。リオナ、あなたは全然内気な影薄婚約者じゃないわ。自信を持って」
「はい?」
「リーナ、私も学園を卒業したら辺境に戻りつつ冒険者の任務を受けることにするよ。またリーナと任務をしたら楽しそうだ」
「そうね、その時はまた一緒に戦いましょう」
ティティと握手を交わす。
「それからカヤをよろしくね」
「ええ、任せてちょうだい。ガレンと進展があったら連絡するわ」
「リーナ様!!進展だなんて!!ありますかね、結婚とか!!」
「え⁉展開早くないですか⁉」
ガレンが驚いて犬耳を出してきた。このぴょんって出てくるの可愛いのよね。
「……リーナ様」
「ほえ⁉」
「キャン⁉」
ジェイズがガレンの両耳を手で押さえつけるとガレンがキャンと鳴いた。犬獣人って驚くとキャンって言うのね。
「リーナ様」
「ふふふ、ジェイズ、嫉妬しないで。私の旦那さんはジェイズだけよ」
「……すみません。リーナ様は何も仰っていないのに。犬耳がぴょんと飛び出して可愛いと思っている気がして」
「まあ、ジェイズったら私の考えがわかるのね。さすがジェイズ!!」
「リーナ様!!これ以上ジェイズさんを刺激しないでください!!僕これから獣人国まで一緒なんですから!!ずっと睨まれているの怖いです!!」
「仕方ないわね」
「リーナ、これプレゼントよ」
「わあ!!これは何の良い魔女の薬かしら!!」
この国の王妃である良い魔女、お色気お姉さんから小瓶を受けとる。
「妖精推奨の石鹸香水改良版よ。あなたのおかげで飛ぶように売れてるの。改良版は香水をつけた人の魅力が高まって意中の相手を自分から離れがたくする効果があるの」
「それは素晴らしいですわね!!」
「冒険者ギルドにも売り込み成功したから。それと……あれのこともお願いするわ」
「ええ、任せてちょうだい!!」
彼女はマールス王国の王女の血縁者だ。彼女から頼まれたのは全国に隠れ住むマールス王国の王女の血縁者を見つけたら保護してこの国か他の誓いを立てている国へ連れて行くこと。
上手く親から伝え聞けずにはぐれてしまった血縁者がいるのだそう。私もマールス王国の王女であるお母様の子だもの。遠縁が困っているのなら助けないとね。
「ありがとう。陛下も安心するわ。それからライアンから伝言が」
「まあ、何かしら」
お色気お姉様に手を引かれて少しみんなから離れる。ジェイズが目を光らせるけどその場から動かない。まあジェイズは耳が良いから聞こえるだろうけど。
「あの人変態クズだけど一応ちゃんと裏の仕事もしてるのよ」
「まあ。変態クズなのに」
「ええ。それで、もしかしたら知ってると思うのだけど一応伝えてほしいって」
「何かしら」
「獣人国の近くにイレイン王国という国があるのだけど、その国で聖女を召喚する儀式をしようとしている動きがあるらしいの」
「聖女!!獣人国の近くだったのね」
乙女ゲームはこの大陸の位置関係はあまり詳しく描かれていない。でもそうなのね、獣人国の次はいよいよ聖女。絶対阻止しないといけないわね。
「聖女召喚には多くの犠牲が必要になるの」
「……え?そうなの?」
ゲームではそんなこと描かれていなかった。
「ええ。少なくとも100人以上の命を犠牲にして悪い魔女が行う儀式……の可能性が高いの。最後に行われた聖女召喚は遥か昔で正確な書物は残されていないから不確かなんだけど。でもイレイン王国の王族がその儀式に関わっているらしいとライアンが調べたの。既に不自然に行方不明になっている国民が何人かいるみたい」
「王族が?国民を犠牲に聖女召喚をしようとしている?」
「わからないけどその可能性はあるわ」
「……それは許せないわね」
王族が守るべき国民を犠牲にするなんて。話を聞いているジェイズに目配せするとジェイズが頷く。
「大丈夫。獣人国の国王を助けないといけないけどジェイズがどうにかしてくれるから。私も早くイレインに行くわ」
「ええ、ありがとう。でも無理しないでね」
こうしてレゼブレア王国を去ることになった私たちは獣人国に向かった。




