王女、想いを告げる
そこには銀髪に白い目という見慣れた色を持つ、少女から大人の女性に変わりつつある自分の姿があった。森の隙間から太陽の光が差し込み穏やかな風が絹糸のような髪を揺らす。
見慣れている自分のはずが辺りの静けさも相まって私は鏡の中の自分を前世で手にしていたゲームの画面越しに他人を見ているような感覚がした。
――――彼女は人間ではない
――――彼女は女神
――――人間が傅く尊い君
ああ、私は普通の人間じゃないんだ。女神の血を継ぐ、人間なのに只の人間ではない人外。
私、前世で死んで只の人間ではない存在に生まれ変わってでもジェイズだけを想ってジェイズを幸せにするために今日まで生きてきたんだ。
「貴女は私だけのものではありません。貴女を崇める多くの民がいます。私だけの貴女になどできないのです。今日貴女の姿を見て改めて思い知らされましたが貴女の神力が既に陛下を上回っていることもわかっていました。あまりに王女殿下が美しくて気が動転してしまいましたが一週間だけでも貴女を独り占めするだなんて烏滸がましいことでした。それでも……我が主王女殿下、それでも私は貴女を愛しています。どうか愚かにも女神を愛してしまった私に慈悲を」
「……王女殿下なんて公式行事以外で呼んだことないじゃない。今まで通りリーナって呼んでよ。人間として愛して!!ジェイズだけでも人とて愛して独占して離さないで!!じゃないと私……生まれ変わる前からジェイズだけを愛してジェイズの幸せのためにリーナに生まれ変わったのにジェイズが壁を作って離れないでよ!!泣かないで。ジェイズが悲しむなら私……なんのために泣き虫女神脅して生まれ変わったのかわかんないじゃない!!」
「リーナ様……?」
「どうせスーパーハイスペックなジェイズなら私が生まれ変わってることも知ってるんでしょ」
「それは……はい。でも俺のため……?それはどういう」
「この世界は私が前世遊んでいたゲームの世界なのよ」
「ゲームの世界?」
「そうよ。乙女ゲームって言うの。ヒロインになってたくさんの男の子キャラとの恋愛を楽しむゲーム」
「うっ……」
「ジェイズ⁉」
「たくさんの男と恋を?」
「う、うん。そういうゲームだからね」
あわわ、ジェイズがこの世の終わりみたいな目で訴えてくる。私よ、なんで乙女ゲームなんてやったんだ。いや、しかしやってなければジェイズに出会ってない。
「でも私はそのゲーム、たくさんシリーズが出てて何十人って男の子との恋愛……ゲームをしてたけどジェイズが一番大好きだったのよ」
「俺が……?」
「そう。ジェイズはね、ヒロインが恋愛できるキャラじゃなかったけど私にとっては一番だったの。ジェイズはね、悲しい人だったのよ。リーナが10才で兄からの刺客によって死んで守るべき主を失った。その後神官長と先代国王からの命令で国王になった兄に仕えながら大国へ神官長の密書を届けた時に大国に滞在していた聖女に恋をしたのだけど聖女は大国のキャラたちと恋をしていくから失恋して最後は聖女を守って死んだり聖女と結婚する相手の側で護衛騎士になるの。ね、ジェイズを幸せにしたくなるでしょ?」
前世で友達にジェイズを売り込んでいた時みたいになってしまったけどそう言ってジェイズを見るとジェイズは青ざめていた。
「ジェイズ、大丈夫?大丈夫、ジェイズは私が幸せにしてあげるから」
「リーナ様……リーナ様を失う……」
「大丈夫!!もしリーナとして死んだり泣き虫女神に再転生させられてもジェイズの元に戻ってくるから!!」
「再転生……?」
「そうよ。泣き虫女神のやつ酷いんだから。私がやらかしたら再転生させるって言ってるのよ。だから死んでもまた泣き虫女神を脅してでもジェイズの元に戻ってくるわよ」
「そんな、嫌です」
「いつ戻ってくるかわからないけど気合いですぐ戻ってくるから大丈夫よ」
「無理です。リーナ様を失うなんて」
「ジェイズ……トラコちゃん、どうしたらジェイズを安心させてあげられる?やっぱりあの泣き虫女神を締め上げるべき?」
『はわわぁ……締め上げるのはやめてー……今夜メアリーナがジェイズと話すって言ってるわよー』
「ジェイズ、泣き虫女神がジェイズと話すって。夢で泣き虫女神と話すなんて浮気だって言いたいけど今日だけ特別。ジェイズ、安心してね」
「……はい」
「腹が立つけどジェイズは初めて泣き虫女神に会うのではないかしら?良かったわねムカつくけど。とにかく両思い記念をしないと!!あれ?両思い……?あら?私怒ってなかったかしら」
乙女ゲームの話に逸れたけど私がジェイズに怒ってたというかなんというか。
「そうよ。ジェイズ、前世からずっと好きよ。そういえば神力が強くなってるですって?」
神力っていうのは私たち神の末裔特有のもの。慣れた人や神聖力を持つ人はある程度耐性があるけどお父様が神力を用いて喋ると普通の人は平伏する。体がそう動いてしまうのだ。ただ強大な力をお父様は制御しきれない。というか神力を使いこなせた者なんていない。神力は神の力だから。そんな神力を私が。それはいよいよ人ではないわね。
「だったらやっぱりジェイズが私を愛して。ジェイズに愛されている間、私は只の人間の女でいられるから」
「リーナ様……」
まだ顔色は悪いけどそれでもスーパーハイスペックイケメンだ。大好きなジェイズ。
「ねえ、私のこと愛してる?」
「愛しています」
「私も愛してるわ。貴女の前では女の子でいたいの」
「はい。リーナ様、傷つけてしまいました。すみません」
「ええ、傷ついたわ。許してあげないから一生忘れないでね」
「忘れません」
私はジェイズに抱きついてキスをした。前世から思い続けたありったけの想いを乗せて。
「せっかく両想いなんだもの。絶対獣人の女にも聖女にも渡さないんだから」
「私はリーナ様だけのものです」




