王女、新たな一面を知る
「ここが冒険者ギルド……」
ジェイズの言う冒険者ギルドはとある森の中にあった。中は受付があって壁には依頼が書かれた紙が大量に貼られていた。
「ねえ見て。あれまさか」
「まさか」
ん?なんだろう。依頼書の前にいた女の子たちがジェイズをこそこそ見てる。……なるほど。ジェイズがイケメンだから見惚れてるのね。
「紅蓮の鬼なわけないわよね」
「そうよね、伝説の紅蓮の鬼がいるわけないわ」
ぐれんの……おに?まさかそれジェイズのことなわけないよね?
「お?なんか騒がしいと思ったら紅蓮の鬼じゃないか!!何年ぶりだ!?」
階段から茶髪の長髪に瞳をした男の人が降りてくると駆け寄ってきてジェイズの肩を叩いた。
「痛いな。止めろって」
「おー怖。さすが伝説の紅蓮の鬼様だ」
「その名前も止めろってば」
「そう言うな……ってあれ?その美少女は?お前の子供か?」
男の人と目が合った私はトラコから降りてカーテシーをする。
「お初にお目にかかりますわ。私訳ありのリーナと申します。訳あって身分は明かせません」
きちんとお母様から礼儀を叩き込まれた私。のほほんとしたお母様だけど王女だったからか私が普通に喋ると言葉遣いを直すようにと怒られたものだ。
だから初対面の人にきちんと挨拶はするが私は国を出た人間だ。異母兄に見つかればまた殺されるだろう。国を出る時も異母兄を出し抜いてうやむやにする形で出てきたのだ。というわけで私は身分を明かすことはできない。
「リ、リーナ様?」
「なぁにジェイズ」
「何ですか今のは」
「もう、身分を明かせないんだから仕方ないでしょ」
「あらら?何か訳ありかい?」
「ええ、訳ありですの」
「ではこちらへどうぞ」
男の人がにこやかに案内してくれた部屋で席に着く。
「改めまして、僕はギルドマスターのガイです」
「私はリーナと申しますわ」
「僕はジェイズが冒険者ギルドに初めて来た時からの知り合いでしてね。その頃は僕もSランク冒険者で何かと面倒を見てたんだけどジェイズはあっという間にSランクになってしまったんですよ。それがあっさり冒険者を止めてヤメルト王国に帰って騎士になるんだと出ていった。プライドが高くて傲慢なところがあったジェイズが敬語で話すなんて傲慢なくせに信心深かったところを考えるとヤメルト王国の王族ですかねぇ」
「まあ、ジェイズがプライドが高くて傲慢ですって?そんなジェイズも良いですわね」
「否定したり怒ったりするんじゃないんだ」
「どんなジェイズも私の大好きなジェイズですもの」
「なるほど。主と護衛が禁じられた恋をして国を出てきたといったところですか?」
「別に禁じられていませんわ。私はジェイズの妻になるんですもの。今はちょっと訳あって旅に出てきたところなのです」
「おや、そうなのですか。ジェイズ、結婚おめでとう。君が幼女趣味だとは知らなかった」
「幼女趣味の変態じゃない!!リーナ様は20才だ!!」
「おや、そうなのかい。では詳しく話を聞こうじゃないか」
なんだかガイに良いように話を先導された気がしたがジェイズはガイのことを信用できる人間だと言うから私はジェイズを信じて全てを話した。
「以上が私がこれから行う女神からの役目です。といっても女神からの役目は他にもあるのですが私自身女神から聞いていないのです」
「なるほどなるほど。それで、リーナ様がそのお姿なのは異母兄の目を欺くためですか?」
「別にそうではないのです。私も成長したいのですが女神に聞いても分からずじまいで。困っています。この身体ではジェイズを誘惑できないので」
「ぶっ……リーナ様!?」
ジェイズが慌てるなんて珍しい。ここに来てジェイズの新たな一面がたくさん見れるのが嬉しい。
「なんだか楽しそうですね」
「ジェイズと一緒ならいつでもどこでも楽しいのです。ところでガイ様」
「いやいや、様なんて止めてください、それに敬語も」
「まあ、ではガイ。冒険者ギルドというのは私でも登録出来るのかしら」
「いけませんリーナ様!!」
ジェイズが声を荒げる。
「学園には入学させてくれるんでしょう?」
「それとこれとは話が別です!!」
「でも旅費を稼ぐのでしょう。それなら私もやるわ」
「危険です!!」
「大丈夫よ。トラコもいるし10年も魔物相手に鍛えてきたじゃない」
「それは私がついていたからで」
「ジェイズがそばにいてくれれば良いじゃない」
「しかし……」
「ねえガイ。別にSランクの人が下のランクを受けたら駄目な決まりはないのでしょう?」
「そうですね。僕が見守りにジェイズにくっついて任務をこなしてたくらいですから。でもジェイズは高いランクの任務を1つこなして大金を手に入れて姫様の元に戻ろうとしていたのでは?」
「そうなのジェイズ」
「……そうです」
「では低ランクの任務と高ランクの任務を一緒に受ければ良いじゃない。そうすれば一緒にいれるでしょ。私も置いていかれるのは嫌だわ。ね、ジェイズ」
見よ、必殺おねだりポーズだ。ジェイズは目を彷徨わせてうーんと悩む。
「面白いな。あの紅蓮の鬼がたじたじじゃないか」
「……わかりました。でも私の目の届く所にいてくださいね」
「はーい。ワクワクするわね。最初の目標はCランクね!!エイエイオー!!」
「リーナ様……」
「変わったお姫様だな」
「あ、そうだガイ。任務を依頼することも私に出来るかしら」
「ええ、出来ますよ。どのような依頼でしょう」
「噂を流してほしいの。ヤメルト王国の次期国王は神の力を持たざるものであること。そして歌姫マリアの娘、戦姫が行方不明になったことの2つの噂よ」
「良いですが良いのですか?ヤメルト王国は秘密主義国家ですよね。ジェイズも国のことはほとんど話しませんでしたし」
「そうですよ。何もしない方が良いのでは?」
「逆よ。ヤメルト王国の周辺国は男神デルダと女神メアリーナを敬い畏れているでしょう。ヤメルトで神の力を持つ者がいないとなると周辺国が黙っていないわ。それがお父様にとって良いことに繋がるのかそうではないかはわからないけれど、お父様はあの国でできることがないのだから状況を動かすきっかけになれば良いと思ったのよ。それがお父様が生きている間か後かはわからないけどね」
「それって意味のあることなのですか?」
「ないかもしれないわね。でもお父様ってぽややんとしてるけど神を慕っているし神の末裔であることを誇りに思ってるのよ。女神の愛し子であるお母様を娶ることなったのも神様の思し召しだねーって喜ぶくらい。だから神を信仰している人たちが集まってお父様の助けになれば良いと思うのよ。私は女神からの指令があってお父様のそばにはいれないわけでしょ。それにもう1つ理由があるのよ。お母様の祖国マールス王国に私の存在を知らせたいの」
「それはどういう?」
「ヤメルト王国は他国に情報を与えない。マールス王国は人質みたいに他国に王女を嫁がせるでしょ。お母様によると人質といっても王女は皆それぞれ幸せに暮らしていたそうなのよ。マールスも泣く泣く他国に嫁がせるけど幸せに暮らしてる情報を聞いて王族も国民たちも安心していたのですって。だけどお母様のことは知らせられないから、どうにかしてお母様はお父様に愛されて国民にも慕われて逞しい私という娘にも恵まれて幸せに暮らしていたって伝えたいの」
「ふむ、そうですか。そういうことならお任せください」
「ありがとう。お願いするわ」
よし、これで親孝行は完了よ。これから先はジェイズを幸せにすることだけ考えたい。……そう、考えたいのだが女神からは指令を遂行してくれないと私を別の所に再転生させちゃうかもーだなんてぽややんのくせに脅してくれたのだ。何様のつもりなんだ。だから理不尽な指令に従わないといけないのだ。だがしかし、私は諦めない。私の優先すべきことはジェイズの幸せでジェイズと結婚することが最大目標なのだから。
「ですがリーナ様、戦姫はいかがなものでしょう。可愛い姫とか美しい姫とかで良いのでは?」
「格好いいじゃない。それに弓矢でバンバン戦って高ランク冒険者を目指したいわ」
「戦ってほしくないのですが……」
「さっそく冒険者業を始めるわよ、ガイ」
「はい。ではまず冒険者として登録してもらいます」
「ええ!!」
こうして私は冒険者リーナになったのだ。