悪役令息は倒れる(sideヘンリ)
数ヶ月前から我が家で働いているリーナとジェイズ。2人はあからさまに怪しいけれど悪い人ではない、いや、ベルの教育に悪いことを度々しでかす厄介な2人ではある。
妖精の国のプリンセスというにわかには信じがたい触れ込みで初めて会ったリーナはどこにでもいそうな髪色の顔立ちはとても整っている少女だった。
おかしな言動をするリーナはふとした時に神聖な何かを感じる。神聖力を持っているとは聞いているからそれでかなと思ったこともあるけれどそれだけではないと思う。
例えば屋敷で急に雨に降られて干していた洗濯物を抱えてあたふたしていたメイドに声をかけ困っていること聞くと空に向かって殴るぞと物騒なことを口にしたんだ。
すると暫くすると大雨がピタリと止まった。リーナの近くを通りかかったジェイズにその話をしてジェイズが天気を司る神ではないと言うとリーナは「じゃあ私が雨を止ませた神ね、我は雨神であるぞ、なんちゃって」と言った時それらを向かいの部屋の窓越しに立って眺めていた僕は何故か次の瞬間には床に平伏せていた。
リーナと話していたメイドも何故か同じように平伏せていたけれどリーナは冗談に乗っているだけだと捉えていた。
このことを雑談としてライアン兄さんに話したら珍しく真面目な顔でこのことは他の人には言わないようにと言われた。あれはどういう意味だったんだろう。
とにかくその不思議な2人によってもたらされた僕悪役令息化の話は侯爵によるクーデター阻止に発展し、今結末を向かえようとしている。
悪い魔女を捕らえるだけ。ただし悪い魔女の薬は劇薬だから要注意。そのはずだったのに――――。
「偽物!!」
ライアン兄さんとティティから少し離れた場所から悪い魔女、セイガン嬢の様子を疑っていたけれどセイガン嬢がそう叫んでグラスをライアン兄さんに投げつけた。
「リオナはここにいて」
「は、はい」
投げつけられたグラスはティティが見事にキャッチしていた。
「ティティ……かっこいいよ!!叩き落とすわけでもなくキャッチ!!グラスを割らない優しいティティ!!流石だねティティ!!僕は叩き落としてほしいくらいだけどね!!」
「いやー!!偽物!!ライアン様のお顔で変態なこと言わないで!!」
変態発言を止めてほしいのは同意だけど偽物ではない。セイガン嬢がこれまで会ってきた方が偽物だ。
「ライアン様、口を閉じて下がっていてください。無理やり口を塞ぐ必要はありませんね?」
「え!!無理やり⁉ど、どうしようティティ!!塞いでって言ったらナニする気⁉きゃっ!!」
ライアン兄さん……。僕は2人に駆け寄りながら頭を抱えたくなった。
「きゃー!!こんなの、こんなのライアン様じゃないー!!」
あれが王子であることを否定したくなる気はわかる。
「偽物!!偽物!!偽物!!消えて!!」
ピー――――!!
セイガン嬢が首に下げていた縦笛を吹いた。するとすぐにホールの窓がパリンと割れ、多くの獣が窓から飛び込んできた。
「本物のライアン様は⁉出して!!本物のライアン様!!」
僕は錯乱している様子のセイガン嬢を後ろから抑えようとしたけど振り向き様にセイガン嬢が握っていた小瓶が顔にぶつかって中に入っていた液体が顔から滴る。
――――ズキン
「ゔ……ぐはっ……」
「ヘンリ様⁉……いや……ヘンリ様ー!!」
小瓶で殴られただけで吐血するなんて、とかリオナが叫びながら駆け寄って来ようとするのを危ないから逃げて、とか思いながら僕は身体全身が熱くなり意識を失った。




