王女、注意する
夜、私は大人しく自室の使用人部屋でガレンを待っていようと思ったのだけどジェイズが私の部屋に男を入れるわけにはいかないと言うから夜の庭で待つことになった。
「夜の庭でジェイズと密会……イケナイことをしてるみたいでワクワクするわね!!」
「リーナ様、転ばないように気をつけてくださいね」
「転ばないわよー。でもこれじゃ拐われるシチュエーションにならないわね」
「リーナ様を拐われるようなことは起こしません」
「ジェイズがいるものね」
「はい」
そうして公爵邸の見事な庭をのんびり散策していると音もなく全身黒ずくめの男が目の前に現れた。ジェイズがすかさず私の前に立つから私はひょいっと顔を覗かせる。
「ガレンね」
「はい。お会いできて光栄ですリーナ王女殿下」
乙女ゲームではガレンは常にフードをかぶっていて顔が隠れていた。目の前にいるガレンはあっさりフードを外した。フードの下から現れたのは16、7歳くらいの青年の姿でパピヨンのような大きな犬の耳を持った獣人だった。
「か、かわい……」
「リーナ様っ!?」
ジェイズが慌てた様子で振り返る。
「本物の獣人初めて見たわ。ジェイズは?」
「冒険者をしていた時に何度か。獣人は温厚な者もいますが危険な者もいて」
「まあジェイズったら。それは人間でも同じじゃない」
「……リーナ様は獣人がお好きですか?」
まあ乙女ゲームでプレイしていた時は獣人の国で色んな獣人の姿に胸をときめかせてたわね。でも私の一番はジェイズ一択だわ。
「私にとってはジェイズが一番よ」
「リーナ様!!」
ふふふ、嫉妬かしら。……そういえばここの後は獣人の国だって泣き虫女神が言ってたし、ジェイズが獣人の女に惚れないようにしっかり見張らないといけないわね。
「ジェイズ、良い?獣人の女は強かだからハニートラップにかかっちゃダメよ」
「リーナ様以外のハニートラップにはかかりません」
「まあ!!私のハニートラップ?……やっぱり早く色気を身に付けないといけないわね」
「リーナ様?」
「何でもないわ」
「あのー……そろそろ僕の話を聞いてもらえませんか?」
パピヨン……じゃなかった、ガレンが戸惑った顔で声をかけてきてハッとする。
「そうだったわ。ふふん、初めましてね。私訳ありのリーナと申します。訳あって身分を明かせません」
「ヤメルト王国のリーナ王女ですよね」
「そうとも言うわね」
「リーナ様、彼とは事前に私がコンタクトを取っています」
「そうみたいね。私のことを知られたら締め上げようとしていたジェイズがそのままにしているということは相応の理由があるわけね?」
「リーナ様のお役目のためです。リーナ様のためです」
「ふふ、ありがとう。良いわ、聞きましょうガレン」
と言ってもガレンの頼みは予想がつくわ。
「リーナ王女殿下のお力で我が国の国王を救っていただきたいのです」
獣人の国を舞台にした乙女ゲーム。その獣人の国で起きる出来事が国王が呪いに倒れることなのだ。
「私の力が何か分かるのかしら」
「はい。リーナ王女殿下の持つ神の力は未来視ですよね」
「うむむ……なぜバレてるのかしら」
「実はヤメルトに潜入したことがあり、リーナ王女殿下にもその際お目にかかりました」
「まあ。ジェイズ知ってた?」
「申し訳ございません。把握できておりませんでした」
「そう。仕方ないわね。ガレンは犬の姿でスパイをするもの。いくらスーパーハイスペックイケメンなジェイズでも犬は警戒しないわよね」
そう、ガレンの獣人姿はフードで隠されていたけれどパピヨンの犬の姿でスパイ活動をする様子は知っていた。
「……リーナ様、犬がスパイをしていることをご存知だったのですか?」
「ええ。でもヤメルトに潜入しているとは思ってなかったわ」
「では良いのですが……」
「とにかくその際にリーナ王女の力を知りました。リーナ王女、我が国の国王は呪いを受けています。呪いを解く方法は術者に解かせるか術者が死ぬか、もしくは聖女を呼び出すことだと言われています」
「聖女は呼んじゃダメよ」
「駄目ですか。何か良くない未来が起きるのですね」
「ええ」
聖女とジェイズを会わせるのは駄目、絶対。
「そうですか。ではやはり術者を捕らえることですね。リーナ王女殿下にお力添えいただきたいのです」
乙女ゲームでは国王が呪いで亡くなり安定しない国が舞台だった。国王亡き後国王の弟と息子が争っているという状況だったのだ。ストーリーの中で弟が兄を謀ったことはわかったけれどそれがわかった時点で術者は死んでいてゲームの中でその術者が誰かは触れていなかった。
つまり国王を救うということは明らかにゲームを改変するということ。本当なら未来を変える行動は避けるべきなんだけどこれはやるべきよね。良いわよね泣き虫女神。
そこで私の頭に未来視が浮かぶ。獣人の国の王子がベッドに座る獣人に抱きついて泣いている姿だ。
「良いわよ。一旦安心してちょうだい。獣人の王子が嬉し泣きしているところが見えたの」
「ほ、本当ですか!!」
「ええ」
「良かった……本当に」
「でも術者が誰かはわからないわ」
「あ、それはある程度予想はできているのです」
「え?そうなの?」
「はい」
「じゃあ捕まえれば良いじゃない」
「いえ、それが簡単ではなく。術者が悪い魔女なのはわかるのですが巧妙に姿を消し、その力も強力なのです」
「そうなのね」
「ただ、その悪い魔女がマリアローゼ・セイガンに協力……というより利用していることがわかっているのです」
「マリアローゼを?」
「はい。リーナ王女殿下がマリアローゼを捕らえようとしていることは知っています。しかしそれは厄介なことだと思います。彼女にとってマリアローゼは使い勝手の良い手駒、隠れ蓑です。簡単に捕らえられるようなことにはさせないでしょう。そこで私もマリアローゼを捕らえることに協力して裏にいる悪い魔女を引きずり出したいのです」
レイジア国を引っ掻き回したマリアローゼが別の悪い魔女に利用されていただなんてどうなってるのかしら。とにかく大元の悪い魔女を捕らえないといけないわね。




