王女、ドキドキする
未来視で見えた男性を見つけるのには時間がかからなかった。カヤの想い人、学園の食堂で料理人をしている男性だった。
その料理人、名前をガレンと言うそうで私はその名前を聞いて乙女ゲームの裏話を思い出した。このガレン、実は獣人なのだ。獣人の国から密偵に訪れている諜報員。攻略対象ではないモブキャラだ。
ヒロインがモブキャラに恋するとは不思議な世界だ。それにしても獣人の諜報員がなぜカヤに土下座するという展開になるのかしら。不思議だ。
「リーナちゃん!!ただいまなのー!!」
「はにゃ!?……いけませんわベルお嬢様」
私は後ろから抱きしめられた腕をほどき振り返る。ベルが頬を膨らませていた。
「まあ、お友達とのお茶会は楽しくなかったのですか?」
「楽しかったの!!でもリーナちゃんがいなかったからつまらなかったの!!」
「それは仕方ないです。ジェイズお義兄様と極力屋敷から出て人に会わないと約束しているんですもの。ふふふ、これが軟禁。これが束縛。むふふ。ドキドキしちゃう」
「リーナ!!ベルに変なこと教えないで!!」
私が喜んでいるとヘンリが割り込んできた。
「ヘンリ様、愛する人の愛を受け止めることを教えているだけです。淑女の嗜みですわ」
「そんな嗜み聞いたことないけど!!」
「それよりヘンリ様。私のジェイズお義兄様を働かせすぎです。私との時間が減ってるんですけど」
あの魔女の会合から2週間、ジェイズは頻繁に外へ出掛けてしまってまともに会えない。
「僕が見るといつもいちゃいちゃしてるから別に良いんじゃ」
「会える時に思いっきりいちゃいちゃしてるのです!!」
「バカップルめ」
「むふ、バカップル……ふふふふ」
でも残念ながらまだジェイズは私に恋愛感情を持ってない。和食が作れれば!!良い魔女が大豆を使って醤油を作り出せれば!!ジェイズの胃袋を掴めるはずなのに。
良い魔女に醤油のことを説明したら発酵製品なら錬金術で出来るわよと言われた。というわけで醤油作りは良い魔女に任せることにしたのだ。
「ところでリーナ、カヤから君宛の手紙を預かったんだけど」
「まあ、お手紙」
そういえばグラシアから一度も手紙が来ないわね。あんなに慕ってくれてたんだから頻繁に来るものだと思っていたのに。むふふ、グラシアったら焦らしプレイかしら。
『はわわわぁ。リーナー、フェリシアが前に言ってたのだけどーグラシアは忙しいだけみたいよー。リーナに構ってる暇がないってー』
『はあ!?何ですって?』
『って言ってたのはデルフィンだけどー』
『デルフィン……どうせ忙しくてグラシアといちゃいちゃしてないのね。ふん、良い気味だわ』
『リーナったらー』
「リーナ?」
「ふふん。何でもないわ。カヤからの手紙貰いますね。何々?」
トラコとの会話を止めてカヤからの手紙を開くと中身はなんとカヤからではなかった。
『不躾な手紙をお許しください。リーナ王女殿下にお力をお貸しいただきたく大変恐れ入りますが今夜お迎えに上がります。ガレン』
お許しください?大変恐れ入りますが?絶対思ってないじゃない!!それに、それにこれは拐われヒロインがジェイズに助けてもらうシチュエーションの爆誕ね!!
『はわわわぁ。リーナー、ジェイズがねー、事情があるからその話には乗るけど当然ジェイズも一緒だって』
『あらトラコちゃん、ジェイズにチクったわね』
まあ助けてもらうには知らせないといけないんだけどね。ん?ガレンからの手紙には続きがあった。
『追伸 貴方の護衛は隠密もできるようで僕は自信が失くなりそうです』
あら、それは可哀想に。でもジェイズはスーパーハイスペックイケメンだから仕方ないわ。




