王女、設定を忘れる
「まさに妖精のごとく可憐なレディ。お会いできて光栄だ」
「まあ」
金色の瞳に藍色の長髪を横に流して結び男物のシャツとパンツを着た男装の麗人が跪き私の手を取り手の甲にキスをした。
その瞬間後ろにいたジェイズから殺気を感じた。あらあら、ジェイズ、この子は年下の女の子よ。とっても男装がお似合いだけどね。でも殺気立つジェイズもかっこいいわ。
「あらまあ、私ただのメイドですのよ」
「レディ。貴女が私たちにメイドであることは貴女が世を忍ぶ仮の姿だとヘンリに話して良いと聞いているよ。本当の姿は妖精の国のプリンセスなのだと」
「おほほほほ!!そう、私訳ありのリーナと申します。訳あって身分を明かせません」
「いや、ジェイズが妖精の国のプリンセスって……」
「リーナ……」
ヘンリとジェイズが頭を抱える様子を見て私は首をかしげる。
「ああ、そうだったわ。遥か遠くの大陸にある妖精の国のプリンセスっていう設定だったわ」
「設定って言っちゃってるよ。そうだと思ったけど」
ヘンリが苦笑いしジェイズは私の手を取っていた男装の麗人の手を外した。
「ふふん。改めて私はリーナよ。メイドリーナ」
「リーナちゃんなの!!妖精さんなのよ!!」
私が見た目通りの10歳前後設定はあらゆる理由で駄目だとジェイズとギルドマスターのガイが言うのよ。あらゆる理由が何かは教えてくれなかったけど。とにかく突拍子がなくても私の魅力でそういうものかと納得させようと言うことでこの国では妖精の国の王族の血を引いていて身長が小さいということにしたの。忘れていたけど。
私の腰にぎゅっと抱きついてきたベルを抱き止める。
「リーナちゃんはとても可愛い妖精のお姫様なのよ。リーナちゃん、ティティお姉様よ」
「ティティ・キセルハルトと申します。どうぞティティと」
ふむ。ティティという辺境伯令嬢は男装の麗人。恐らくゲームとは違う人生を歩んでいるわ。私と同じだったりするのかしら。
「ティティ。ずばりあなた肉じゃがは好きかしら?」
「おや、ニクジャガをご存知で?もしや貴女もあの方に師事を?」
「あの方?」
「黄金の熊男殿だ」
「黄金の……」
私は思わずジェイズと顔を合わせる。
「あなた彼と知り合いなの?」
「昔辺境領を訪れた黄金の熊男殿はかの有名な勇者の子孫だそうでな。様々な冒険のお話をしてくださった。私は辺境伯家にあるまじき気弱な幼子だったのだがその話にとても感動し以降は辺境伯家として魔物を日々狩ったり冒険者として活動している」
なんてこと。こんなところに影響していたわ。
「リーナちゃん、ティティお姉様はとってもかっこいいのよ」
「え、ええ、そうですわね」
「それでね、リオナお姉様よ」
ベルがリオナの腕に抱きつく。
「初めまして。リオナ・ビビアネスと申しますわ」
「ええ、初めて。ちなみにあなたは肉じゃがはご存知かしら」
「ふふ。ティティから幻のお料理のお話は聞いていますわ」
この感じだとリオナはティティから影響を受けていそうね。内気な伯爵令嬢なはずだけど穏やかに笑う様子からはそうは見えない。
「そうなのね。でもどうしてリオナ……さんとティティ……さんが知り合いになったの?」
「レディ、どうぞティティと」
「私のこともリオナとお呼びください」
「まあ、ありがとう。私のこともリーナと呼んでちょうだい」
「リーナ、リオナとは王宮で会ったのが初めてなんだよ。ベルの付き添いで来ていたリオナと王宮で所用を済ませて帰る所だった私が偶然会ったんだ」
「ベルお嬢様の付き添い。王子妃教育ね」
そう、このベルは第三王子の婚約者なのだ。第三王子はゲームの中の攻略対象者。ここレゼブレア王国を舞台にしたゲームは2つ。この前ヘンリに話したように学園編と直接の続編である王宮編。
悪い魔女から悪役令息を助けるのが今回の役目だから王宮編は関係ない。学園編だけを気にすれば良いのよね。
それで学園編の攻略対象者は第三王子、側近と護衛候補、ヒロインの昔馴染みという王道パターン。まあ王太子ではない第三王子なんだけど。
攻略対象者は全員学園の2年生で17才。全員婚約者がいる。だけどこの婚約者たちは悪役令嬢にはならない。ヒロインにキツくあたる令嬢もいるけどみんな最後はヒロインと攻略対象者の仲を応援して円満に婚約解消する。このゲームは全てのルートで悪役令息ヘンリと悪い魔女が障壁になるのだ。
そんな第三王子のモブキャラな婚約者がベル。年が離れているなんてこの世界では普通のこと。変態おじさんが幼い女の子と結婚しようとするのは最低だけど。
そういえば故郷で50才のロリコンな変態が10歳の幼い令嬢を無理矢理娶ろうとしたのを阻止したことがあったわね。
それに比べればというか比べるものでは全然ないけどまともなイケメンが7才年下と結婚しても全然おかしくない。ちなみに私とジェイズは5才差。そう、いくら私が10歳並の身長でも実際は5才しか違わない。子供扱いは止めて大人の女として見てほしい。あんなことやこんなことだってできるのよ。むふふ。
「リーナ、リーナ……リーナ様」
「はっ!!ジェイズお義兄様」
ジェイズが耳元で囁くから囁き返そうとしたらジェイズに止められた。残念だわ。




