王女、笑顔を求める
「それでリーナ様、先程の質問ですが」
「ああ、そうね、これからどうするのかって話ね」
実は10年前目覚めた私は直ぐにでも指令を遂行しようとしたのだ。だが夢に女神が待って待ってーと現れて言った。
曰く乙女ゲームのストーリーが始まるのは10年後でそれまでは自由行動よー、なのだそうだ。
拍子抜けしたのは当然だろう。10年は長いだろうに。だけどなるべくあるべき未来に近い状態にしなければならないとなればヒロインや魔女を取っ捕まえることもできない。未来視は断片的で何を元に対策を取れば良いかと言えば乙女ゲームの知識の方なのだ。乙女ゲームの展開を変えてしまうことになってしまうと対策が取れなくなってしまう。
ということでこの10年私は体力作りと戦闘力を鍛えて過ごした。未来を変える旅に出るということは冒険だ。この世界は日本と違い物騒で魔物も出る。いくらスーパーハイスペックイケメンと神獣がいるといっても足手まといがいては邪魔だろう。ならば自分も強くなれば良いのだ。という考えを読んでいたのか記憶を取り戻す前から私は走り込みをしたり筋トレをしていた。おかげで基礎体力はついていた私は武器として弓矢を選択しレベルを高めていった。
そう、レベル。転生チートなのか私にはレベルが見えるのだ。おまけでつけられたのかレベルが数値化されるだけでレベルが上がると自動的に技を覚えるとかではないのだが強くなってると思えばなんとなく、わーいという気持ちになる。
人や魔物のレベルも見えるのだがジェイズの剣スキルがレベル999で数年変わらないのだが上限だろうか。だとしたらジェイズはこの若さで頂点に達してるということだ。なんて素晴らしいんだろう。
あ、ちなみに私が弓矢を武器にしようと思ったわけは昔見たアニメで弓矢を使うキャラがカッコ良かったからという安直な理由だ。
「リーナ様……」
「あ、ああ、ごめんごめん。これからどうするのかね。それはね、レイジア国に行くのよ」
「レイジア国ですか?何故また」
「こほん。ジェイズ、驚かないで聞いてほしいのだけど」
「はい」
「実は私泣き……女神から指令を受けているのよ」
「そうですか」
「そう……って驚かないの!?」
「驚かないで聞いてほしいのでは?」
「いや、そう言ったけども!!」
もう、ジェイズってばド真面目なんだから。そういうところも好き。
「陛下とマリア様から聞いたところによると稀に神からの役目を授かる者がいるのだそうです。そうした者たちは生死の境を彷徨う出来事が起きることが多いそうで、リーナ様が弓矢などを手にするようになってリーナ様もそうなのかもしれないと陛下が仰っていました」
弓矢などを手にするようになって、のところを嫌そうに言うジェイズ。ジェイズは私が戦う術を持つことに不満を感じているそうだ。四六時中私を守るから私が強くなる必要はないのだと。むふふ、なんてイケメンなのかしら。ほんと好き。
あ、ちなみにマリアというのはお母様の名前だ。
「それで、女神様から授かった役目とは何ですか?私が全て対処しましょう」
「いやいや、私がやるから!!」
「どこの国を滅ぼすのです?」
「全然違う!!」
「そうなのですか?陛下が仰ることには神の怒りを買った国が役目を授かった者によって滅ぼされたことがあるそうですが」
「それ女神メアリーナじゃないよね?非道なことを言うのねって言ってたし」
そうトラコに尋ねる。
『はわわわぁ。それはーデルダが言ってたのー』
「やっぱりね」
トラコの声は耳から聞こえるのではなく頭に直接届くのだ。神獣は神獣が定めた者にしか声を届けないものらしい。ただしヤメルト王国のみ王位継承するためその時のみ国民にも声を届けるそうだ。通常はガウガウと聞こえる。
「おや、トラコ様はお腹が空いているのですか?」
『違うわー。でもおやつが食べたい気分ー』
ジェイズにも神獣姿のトラコの声は聞こえない。別に神獣が定めれば良いだけだからジェイズにも声を届ければ良いだけなのだけど恥ずかしがってしないのだと。何が恥ずかしいのかは良くわからない。トラコは怖がりで恥ずかしがりなのだ。
「トラコ様、神聖力でよろしいですか?」
『良いわよージェイズの神聖力は美味しくて好きー』
トラコはジェイズが好きなのだ。私の旦那だというのにジェイズに色目を使ういけない子だ。神獣は別に飲まず食わずでもどうもしないのに。ジェイズの身体を自分の身体で囲うように巻き付くトラコに笑顔で神聖力を与えるジェイズ。くそう、その優しい笑顔が良い。好きだ。
『ありがとージェイズ』
「いえいえ」
声が届いてないはずのジェイズだが結構トラコと会話が通じてる。これが以心伝心なのか。悔しい。
「リーナ様もお腹が空いたのですか?」
「ち、違うわよ!!なんでよ」
「物欲しそうにしておられたので」
「くっ……ジェイズの優しい笑顔が欲しいわよ。トラコちゃんだけずるい!!」
「リーナ様……ふっ」
笑われた!!でも良い!!私に仕え始めた15才頃の子供らしさがある笑顔も好きだったけど25才の青年の爽やかな笑顔も好き。もう全部好き過ぎて辛い。
「リーナ様」
「むー子供扱い……でも好き」
頭を撫でられた。完全なる子供扱いだが頭ポンポンは彼氏彼女っぽいからジェイズにそのつもりはなくても良し。