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ヤメルト国民は王女を想う(sideとある国民)



「おい、聞いたか」

「ああ。何てことだ」


 つい先日俺たちの心の支えだった歌姫マリア様が亡くなったばかりだというのに。マリア様はただの平民である俺たちに対しても優しく声をかけてくださる素晴らしい方だった。


 マリア様はマールス王国から第四妃として嫁いでこられた女神の愛し子だ。神の末裔たる我らが王に相応しい、輿入れの際はそう思った。いや、今でも国王陛下がマリア様に出会われたことを神の思し召しだと考えているが。


 というのもマリア様は本当に素晴らしい方だったのだ。マリア様の故郷マールス王国は魔鉱石や女神の愛し子が生まれるが故に他国から狙われている。その脅威を防ぐため女神の愛し子でなくとも王女を他国へ嫁がせていた。要するに人質だ。ヤメルトにはこれまでマールス王国の王女は嫁いできたことはなかった。


 平民の俺はこの国の王にすらお会いしたことはなかった。その王女にも会うことはないだろうが人質として心細い思いをしなければ良いと思う。


 お会いしたことのない王だが良い王であることは確かだ。敬虔な信徒の俺にとっては神の末裔というだけで尊い。王女の心も救われることだろう。


 そう思っていた輿入れから数日後、なんの前触れもなく美しい歌声が聞こえてきた。自然と足が動いて歌声の元に向かうと自分と同じように数人が歌声の主を遠巻きにしつ膝をついて涙していた。俺も何も考えず同じようにしていた。


『あら?はわわわぁ。まあまあ、皆様どうされましたの?』


 恐れ多くも俺が声をかけられ手を差し伸べられた。とてもその手が取れなかった。わからないがただ涙が止まらなかった。


『まあまあ、どこか痛いところはあるー?』

『あ、あなた様は……』

『私はマリア。先日ザハルト陛下に嫁いできたの』


 やはり。やはりだと周りの者たちと一緒に号泣した。


『マリア』

『あらまあ!!ザハルト様』

『急に駆けるでない』

『はわわわぁ。ごめんなさい。この丘から歌えばたくさんの人に声が届くかしらと思ったの』

『そうか。届いたようだな』

『あっ、皆さん、落ち着いたかしら』


 お会いしたことがなくてもわかった。神の末裔国王陛下であると。俺たちは地面に頭を押し付け平伏した。


『あらまあ、皆さんどうしたのかしら』

『マリアよ。これが常である』

『あらあら。でしたらザハルト様、どこかいっていらしてくださいませ』

『は?』

『ザハルト様がいては皆さんおでこが痛くなってしまいます』

『む、そうか。では少し離れたところにいよう』

『はぁい。さあ、お顔を上げて。大丈夫、私はマリアよ』


 何が大丈夫なのかわからなかったが追っ払ってしまわれたこの方のお姿を見てみたくて俺はおずおずと顔を上げた。


『まあまあ、大変。皆さんおでこが赤くなっているわー。歌うわねー』


 先程と同じ美しい歌声で癒してくださったそのお方は銀髪に淡い青色の瞳を持つ美しい女性だった。


 それからマリア様は何度も何十年も国民のために歌ってくださった。尊くもぽわわんとした口調で気さくにお話くださるマリア様が語ってくださったことがある。


 マールス王国を守るために嫁いできたはずだったけれどザハルト様やヤメルトの皆を愛しているから歌いたいのだと。とーっても幸せだわ、と。




 先日マリア様の訃報が伝えられた。俺たちはマリア様が心配されないようしないでいたが地面に頭を押し付け号泣した。マリア様、俺もあなたをお慕いしていました。ヤメルトを愛してくださってありがとうございました。どうぞ、どうぞ安らかに。

 


―――――――――――――――――― 


 マリア様が亡くなって間もなく、その噂は届いた。


 曰く、次期国王は神の力を持たざるものであること。そして歌姫マリアの娘、戦姫が行方不明になったこと。


「リーナ様が行方不明らしい!!」

「信じられない!!マリア様が亡くなったばかりだというのにリーナ様まで!!」

「……なあ、覚えているだろ?」


 仲間たちが狼狽える中俺はマリア様がいるであろう空を見上げる。


「10年前リーナ様が倒れられたこと」

「ああ!!ありえない!!」

「リーナ様こそ神の力を持つお方に違いないのに!!」

「俺たち平民にはわからんが中央にはそういうあり得ない奴らがいるんだ。リーナ様は10年前からお姿が変わらないだろ」

「ああ、そうだ。あのお小さい姿で駆け回ったり木にぶつかったかと思えば見えにくいわと叫んで目隠しを外してしまわれそうになった時には慌てて皆でお止めしたこともあったな」

「考えればあの神官長のご子息ジェイズ様がいらっしゃって外してしまわれるわけがないのに俺たちが必死になるからリーナ様がケタケタと笑われて」

「それな。ジェイズ様にその様にお笑いになられるとマリア様に叱られますよと言われたら慌てて口に手を当ててほほほほって笑うから俺たちも笑ったよな」

「そうそう、それからジェイズ様にそろそろマリア様のマナー講義のお時間ですから戻りましょうと言われて青ざめられて今日は体調不良でお休みするわ、これは戦略的撤退よ。明日に備えて万全にしないとって仰られてジェイズ様に大笑いできるほど健康ですから問題ないですって抱き上げられて帰られたな」


 ジェイズ様はリーナ様を甘いが厳しいところもあった。マリア様もぽややんとされているのに教育熱心だったな。


「懐かしいな」

「懐かしいほど昔のことだったか?」

「それからリーナ様が身長が伸びないことを気にされてその辺の木の枝にぶら下がって伸びろー伸びろーと仰っていたこともあったな」

「あったあった。ジェイズ様にはしたないですよって注意されてたな」

「その後ジェイズ様に私の愛を受け止めてって叫んでから枝から降りたところをジェイズ様に抱き止められて嬉しそうにされていたな」


 リーナ様は本当にジェイズ様がお好きなんだよな。ませててこっちが驚くようなことを仰ることも多かった。


「懐かしいな」

「これも結構最近のことじゃなかったか?」

「俺は思う。これは戦略的撤退、10年前にお命を狙った相手を負かすため備えてるんじゃないかって。身長を伸ばすヒントは他国にないかしらって仰ってたからな」


 俺の予想は当たっているんじゃないか?


「俺はジェイズ様と駆け落ちしたに一票」

「……それはあるかもな」

「いや、あるか?だってリーナ様の相手はジェイズ様だってみんな知ってるぞ?」

「でもリーナ様思い込みが激しいところがあるからな」

「でもそれならジェイズ様がちゃんと正して戻ってくるだろ」

「そうだな。いつもみたいにジェイズ様に抱き上げられて戻ってくるか」

「なんだ、全然焦ることなかったな」

「でもついでに新婚旅行だとか言って全然帰ってこられなかったり」

「あるかもな」

「ジェイズ様リーナ様にだけ甘いもんな……」

「もしリーナ様が20年くらい全然帰ってこなくて万が一陛下が崩御されたらどうすんだ」

「神の力を持たない者が王になるなんてあり得ない!!断固拒否だ!!いつまででもリーナ様を待つぞ!!」

「そうだな!!」


 その後他の奴らにも考察を聞いたら女達からはリーナ様はナイスバディになる秘薬を求めに旅に出たのだという意見が多かった。ジェイズ様を誘惑するには大人の女になる必要があるのだと。なるほど、さすが女同士そういう話をしていたのか。


 と、いろんなやつとリーナ様について話していたが、結局リーナ様が国外で元気に過ごされていることを異母兄弟に知られたら危険、もしくは駆け落ちやハネムーンから連れ戻されるから黙って出ていかれたのだろうと俺たちはリーナ様の色々を願って下手に騒がないことに決めたのだった。


 ところで何故リーナ様は戦姫なんて名前で呼ばれているのだろう。これについてもみんなで考察することにしよう。


 帰ってこない可能性なんてあるわけがない。ジェイズ様に夢中で忘れることはあるかもしれないけど。でもリーナ様がヤメルトを見捨てることは絶対ないと断言できる。リーナ様はジェイズ様命だけど俺たち民のことを思ってくださっているって皆知ってるからな。


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