王女、身分を明かせないことを明かす
「デルフィン、そのアドルフ様を知ってるの?」
「いや、ガキの頃からよくうちにくるおじさんがアドルフってんだけど名前が同じだけだろ」
「ふむ、そうでしょうか」
「ジェイズ?」
「デルフィンは王族の血を引いています。元宰相が気にかけていてもおかしくないのでは?」
「確かにそうね。デルフィン、その人はどんな人なの?」
デルフィンはうーんと唸った後に答える。
「俺に光魔法を教えてくれたのがおじさんだ。身なりも良いしメシ食べてる時の仕草を見る限り平民じゃなさそうだとは思ってたけど……宰相ってすごいやつなんだろ?おじさんは違うと思うんだよな」
「まあ、どうして?」
「んー宰相の息子ってあの王子の取り巻きの馬鹿だろ?」
宰相の息子は金髪に茶色の瞳で顔は普通にイケメンだけどナルシストなようで王子と同じように人の話を聞かない男だ。
「昨日見かけたら鏡に向かって今日も美しいって言ってたぞ」
「あら、まあ」
「アドルフおじさんはうちの近所のばあちゃんの畑仕事手伝って顔に泥つけて俺にも泥のついた手で触ってくるようなやつだ」
「まあ、随分気さくな人なのね」
「そうなんだよ。んで、母さんにプロポーズしてたんだ」
「あら、おめでたいわね」
「いや、母さん断ったんだ。断ったというか保留?宰相だったやつのプロポーズなんて断らないだろ。……いくら俺のせいでも」
「デルフィンのせい?」
「とりあえずデルフィンの母親に聞いてみましょう」
「聞いてみるの?」
ジェイズが立ち上がる。
「はい、私が調べたアドルフ様の人柄を考えるとデルフィンの言うおじさんと同一人物である可能性はあります。」
「え、まじかよ」
「それに本当に元宰相であれば味方に引き込むのに最適です。なので呼んできましょう」
呼んできましょうってジェイズったらデルフィンの母がどこにいるかすぐにわかるのかしら。なんだかモヤモヤするわ。
ジェイズはこの時間はちょうどすぐ近くにいるはずですと言って廊下に出ると1分も立たず戻ってきた。
「ふふ、ようやく先生のお部屋を掃除させてくれるんですね。嬉しいですわ」
デルフィンの母は嬉しそうに箒を手にやって来た。
「先生ったら全然掃除させてくれないんですもの」
「すみませんね、見られたくないものが多いもので」
「まあ、デルフィン?あら、あらあら皆揃ってどうしたんです?」
デルフィン母は私たちに気付くとデルフィンに駆け寄り後ろから首に抱きつく。
「フィンー」
「うわっなにすんだよ母さん!!皆の前で恥ずかしから止めろよ!!」
「反抗期だわー」
「母さん!!」
相変わらず可愛いお母さんだわ。
「カミラさん、実は掃除は口実で伺いたいことがありまして。騙してすみません」
「あら、そうなんですね。全然良いですよ」
騙されたのにカラッとしているデルフィン母にジェイズが椅子を用意して座らせる。
「それで、どんなお話でしょうか?」
「母さん、アドルフおじさんって元宰相なわけないよな?」
「えー?元宰相だけど?」
あっさり判明した。デルフィンはぽかんと口を開ける。
「マジで?」
「フィンったら知らなかったの?」
「知らねえよ!!」
「なんで怒ってるのかしらー?」
「なんで元宰相が畑仕事したりうちで皿洗いしたりしてんだよ!!」
「暇なんですって」
「暇でするかよ!!」
「するのよー」
「こほん、カミラさん。アドルフ様は元宰相なのね?」
「そうですよ」
「それはデルフィンが国王の隠し子だから、かしら?」
「あら」
知っているとは思わなかったのだろう。デルフィン母は少し驚くがそこまで動揺せず笑顔でデルフィンを見る。
「フィンが話したのかしら?」
「いいえ、元々知っていたの」
私が答えるとデルフィン母は私とジェイズを交互に見る。
「あなたたちは不思議な雰囲気をしてると思いましたわ」
「信じられないでしょうけど別にデルフィンに危害を加えようとしているわけではないわ。おちょくったりはしてるけど」
「おちょくってたのかよ!!」
「ふふ、ええ。何となくわかります。人を簡単に信用しない方がいいと言われるのですが私勘が良い方なのです」
「……私が言うのもあれだけど勘で信じない方が良いわ。あなた美人なのだから」
私が忠告するとデルフィン母は嬉しそうに微笑む。
「ありがとうございます。これでも若い時はたくさん騙されてきましたのよ。良い人と悪い人を見るとわかるようになりました」
「母さん……」
「ふふ、それでリーナ様、アドルフ様は元宰相、元サウザラウド公爵ですわ。そのことをお知りになってどうなさいますの?」
私は少し考えていた。このデルフィン母、平民にしては所作が洗練されていると。意識して平民らしくしているみたいだけど見え隠れする品のよさ。乙女ゲームの裏話には載っていなかったけど元々貴族だったのではないだろうかと。今の姿を見てそれが正しかったとわかる。
恐らくグラシアとデルフィンのこれからを支えるのがこのデルフィン母、カミラ様だ。
私がジェイズを見るとジェイズは真剣な顔で頷く。
「カミラ様、改めまして、私訳ありのリーナと申します。訳あって身分を明かせません」
「まあ、ご丁寧に。私はカミラと申します。元ラザール侯爵家の一人娘でした。家が没落して平民になりましたの」




