王女、神格化されておろおろする
「リーナ様、トラコ様は何と仰ったのです?」
「それがね、リリアと王子が出かけた町で獣が暴れてリリアが怪我をしたのですって」
「「え!?」」
「それはリーナ様の未来視通りのことが起きたということですね」
「それはわからないわ。魔物じゃなくて獣なのですか?神獣様」
『魔物じゃないって言ってるわー』
「魔物じゃなくて獣だから未来視そのものではないわ。でも……」
ゲームではこのイベント後にどんどんイベントが進行していく。
「リーナ様、この後何が起きると思われますか?」
「明日王子がグラシアを糾弾するはずよ」
「何でだよ!!」
「襲われた近くでグラシアによく似た人物を見るのよ」
「アリエント嬢はここにいるだろ!!」
「そう、だから起きないかもしれないわ。多分ね」
「多分って」
ここがゲームと違う。魔物ではなく獣になった。魔物ではない分人が操ることも可能になる。
「グラシアを陥れたい誰かがグラシアを見たというかもしれないわ。グラシア、あなたそもそも敵が多いのよね?」
「は、はい」
「それは王子狙いと思われるリリア本人かもしれないしアリエント公爵家の政敵の家の人間かもしれないわ」
「なんだそれ!!」
「……リーナ様」
グラシアが思い詰めたような顔をしてから一転、心を決めたようにリーナを見る。
「女神メアリーナ様と同じ力を持って神様の目と云われる神獣様を連れているリーナ様はもしやこれからのレイジア国の見届け人なのでは?」
「へ?見届け人?」
「神獣様は神様の目で神様の代わりにこの世界を見る存在だそうですわね。滅多に人間に力を貸すことはなくただその行く末を見守るのだと。それならリーナ様も見届け人なのではないかと」
なんかグラシアの中で私神格化されてない?
「いや、そんな大層なものじゃないわ。私は人間よ」
「でもリーナ様は私にたくさんアドバイスをくださっているし。……あ、もしや私が不甲斐なさ過ぎて?いえ、そもそもなぜ私にお声をかけてかださったのかしら」
「あのーグラシアー。そんなに難しくないわよー。お友達だからグラシアを救いたい、それで良いじゃない」
「お友達……ですの?でも私とリーナ様は会ってまだ数日」
「仲良くなるのに期間なんて関係ないわ。あ、ただしこれだけは言っておくわね。私はいつでも未来を見ることはできないの。一度見た未来から大きく変えてしまうと対策が取れなくなってしまう。だから慎重にことを進めましょう。デルフィンも、わかったわね?」
「……わかった」
「その上で……ちょっと確かめたいのだけど。デルフィン、あなた神聖力があるの?しかもかなり力が強いのではない?」
「神聖力はあるな……」
「リーナ様、そこそこですよ。リーナ様の足元にも及びません」
ジェイズが言う。
「ジェイズったら。私と同等の人なんて滅多にいないじゃない」
女神の愛し子だった私の母や神の末裔である父もかなりの神聖力を持っている。だけど大抵の神聖力持ちは私たちより遥かに力が弱い。それでも神聖力を持っているだけでも十分できることが多いのだ。
「で?それが何なんだ?」
「この神獣様、この前あなたと一緒にいたじゃない」
「え?ああ、そういえばこの前のか?」
デルフィンに初めて会った時のことだ。
「そうよ」
「そういえばあの時めちゃくちゃ怪我してる動物が集まってきて気休めに神聖力を使ったんだよな。俺光魔法を持ってるから昔から母さんが怪我した時とか近所のガキが怪我した時とか光魔法で治癒はしたことあるんだよ。でもこの先生の授業を受けて神聖力で治癒の力を行使してみたんだ」
光魔法でできることと神聖力でできることは重なっているけれど魔物を浄化することは神聖力でしかできない。治癒の力も神聖力には及ばなかったりする。この世界は神聖力が上位存在なのだ。
『リーナーこの子によるとねーあの日狂暴化した獣に襲われた動物たちをデルフィンに治してもらったのですってー。この子も怪我を治してもらったそうよー』
「まあ、そうなの?皆、あの日も狂暴化した獣が暴れていたみたいよ」
私はトラコに聞いたことを話す。
『この子は助けてくれたデルフィンを気に入ったそうよー』
「あら、そうなの?」
『この子は私と同じメアリーナに遣えている子なんだけどーまだ子供で人と念話することができるほど成長してないわー。デルフィンを気に入って側にいることにしたのですってー』
そんなにあることではないけど神の力を持つ者でなくても神獣は気に入った者の側にいることがある。
私はこの白文鳥神獣がデルフィンのことを気に入って側にいることにしたことを話した。
「まあ!!」
グラシアがさっきのように目を輝かせてデルフィンを見る。
「え、は?え?俺別にそんな神への信仰心が強いわけじゃねえよ?」
「別にそんなの関係ないわよ」
私なんて泣き虫女神って呼んでるけど理不尽な役目を押し付けられてる以外で特になにもされてないし。
「そうなのか?でも大層な存在なんだろ?」
「そうだけどトラコちゃんは私の半身?みたいな家族みたいなのよ。だから好きでいればそれで良いんじゃない?ねえトラコちゃん」
『そうねー。神獣が気に入るのは自分を大切にしてくれるってわかる人間よー私もわかるわー。デルフィンは口は悪いけど元から動物が好きでこの子も大切にしてくれるってー』
「ふふ、そう」
「お、おい、なんだよ」
「デルフィンって動物好きなのね」
「なっ、そ、それがどうした」
「神獣は自分を大切にしてくれる人がわかるの。ふふ、確かにあなた初めて会ったとき動物と戯れてる時楽しそうだったわね。この神獣にも同じように接するだけで良いのよ」
「そう、なのか?……じゃあ俺といるか?」
「ピッピッ!!」
「あっおい!!痛いな!!つつくな!!」
「ピッピッ!!」
デルフィンの手の甲を嘴でつつく神獣。
「あら、そういえばトラコちゃん、この子には名前はあるの?」
『ないわ。デルフィンがつけてあげれば良いわよー』
「そうなのね。デルフィン、この子に名前をつけてあげて欲しいのですって」
「え、名前?んー」
「あ、ちなみに神獣には性別はないけどこの子は女神メアリーナに遣える神獣だからメスに近しいのよ」
「そうか。んーんー」
「ピッ?」
「んー……悪い。一晩考えて良いか?」
「ピッ!!」
ふむ、デルフィンは真面目ね。
『リーナは思い付きで私に名前つけたものねー』
「可愛いじゃない、トラコちゃん。とにかくこれから状況がさらに動くはずよ。どう立ち回りましょうか」
「アリエント嬢を守る!!」
「デルフィン様……」
「それは良いのだけどあまり未来を変えないで欲しいのわ。ただでさえ私が見た未来と違って気になることがあるの」
「リーナ様、それはもしかして私のことでしたり……」
「まあグラシアが高飛車じゃないことも想定外だったけどそれより大きく違うことがあるの。リリアにくっついてる男が1人足りないのよ。マークっていう平民の1年生のはずなのに」
学年が違うから見ないのかとも思えるけどあんなに逆ハー状態なのに1人だけいないのは不思議なのよね。
「へ?マークだって?」
「デルフィンは知ってるかしら。同じ平民だものね」
「ああ、マークは俺のダチだぞ」
「マークはリリアに好意を持ってる素振りはないの?」
「ないな。リリアって2年の王子といつも一緒にいるピンク頭のことだろ。俺もマークも前からあの女のことは苦手だ。俺はその、アリエント嬢に突っかかってるから嫌ってたけど」
「んーデルフィンはともかくマークはどうして変わってるのかしら」
「あ、そういえばマークこの前体調が悪いって言ってたな。俺が成長痛で休んでた時なんだけど部屋に見舞いに来てくれたのに俺より顔色悪くてさ。神聖力で治してやったんだ」
「んー……」
「あ、そういえばリーナ様、殿下の側近候補のスレイブ様が入学直後よく具合が悪そうにしていましたわ。1ヶ月程経つと顔色は良くなりましたがすっかり人が変わってしまったように」
「……なんだか匂うわね。リリアの信奉者に神聖力を使ってみましょうか。元々神聖力を持つ人はリリアの信奉者になっていないんだものね」
「じゃあ1年のやつは俺が神聖力をかけるか」
「ええ、それなら2年には私が」
「リーナ様がされる必要はありません」
「ジェイズ?」
「私がやります。リーナ様が彼らに力を行使する必要はありません」
「あらそう?わかったわ。じゃあお願いね」
「はい」
ジェイズはそういうけれどもし神聖力の力が関係するならジェイズやデルフィンで駄目なら私が試してみる必要があるわね。
「リーナ様、私はどうしたら良いでしょう?何か私にできることは?」
「グラシア様は傲慢で高飛車なままでいてちょうだい」
「わ、わかりましたわ。……あ、ですが」
「どうかした?」
「今日歩いていたら何故かうちの政敵のお家の方なのですがとても目があって……」
「そうなの?どんな人?」
「それがわからないのです。昔から私に絡んでくるグループの中の1人なのですが発言も少なくいつもうつむいて他の方の後ろにいたのです」
「うーん、何かしらね。とにかく様子見にしましょう。それにしてもどうしてこんなに違いがあるのかしら」
「どうしてでしょうね。あ、リーナ様、おかわりはいかがですか?」
「ありがとうジェイズ、もらうわ」
「はい」
あらかた話した私たちはその後はたわいない話をして解散することにした。




