王女、悪役令嬢を泣かせる
「グラシア様、少しよろしいかしら」
「あなたは……」
「リーナと申しますわ」
「リーナ様……」
翌日私はグラシアに声をかけた。適当な空き教室に移動した私とグラシア。
「リーナ様はグランディア子爵の養子になられた方だそうですわね」
「ええ。私グラシア様とお近づきになりたいと思いまして」
「ふん。アリエント公爵家に近づきたいとは賢明な判断ですわね」
「いえ、公爵家はどうでも良いですわ。私はグラシア様と仲良くなりたいのです。グラシア様のことを教えていただけませんか?」
だって私はグラシアを助けろという指令を受けているのだ。王宮が崩壊したのだ。王家もグラシアのアリエント公爵家もどうなるかわからない。ただグラシアだけ助ければ良いのだ。
「まあ……」
「ぎょえ!?」
グラシアの目から涙が溢れて私は慌ててしまう。
「ど、どうしましたの?どこか痛みますの?」
「違いますわ……すみません、急にこのような……」
「いえ、よくわかりませんが泣きたい時は泣いたらよろしいのですわ」
「ありがとうございます」
しばらくすると落ち着いてきたグラシア。
「失礼しましたわ」
「いえ、構いませんわ。いったいどうされましたの?」
「あの……お恥ずかしながら私家の権力にすがりたい者や陥れたい者ばかり周りにいますので私自身と仲良くなりたいなどと言われたのは初めてでしたの」
あまりグラシアのことを思っての言葉じゃなかったのだけど。こんなに泣く程喜ばれるなんて複雑だ。
「まあ。確かにグラシア様のお家は力が強いですものね。すがりたい人も陥れたい人もいるでしょう。ではリリア様を虐めているというのはそのグラシア様のお家を陥れたい者ですの?」
「どうでしょう。わかりませんわ」
「知ろうとしませんの?」
「……わかりません」
グラシアは普段の高飛車な感じが一切なくて迷子の子供のようになってしまった。前世友人が失恋で何度も泣くのを宥めていたことを思い返し年下の少女を一喝する。
「グラシア様……しっかりなさいませ!!それでも大陸で一番古いレイジア国でその昔ドラゴンを討ち取ったという勇者が初代公爵であるアリエント公爵家の令嬢ですか!!」
「お父様もお母様も誇りなど持っていませんわ」
「グラシア様は誇りを持っていませんの?」
「私は……憧れます。女性でありながら勇者となった初代様」
実は年代もバラバラなシリーズである乙女ゲームでその勇者がヒロインでドラゴンは隠しキャラで倒した後人間の男になって攻略できるのだ。というのは今は関係ないが。
「その勇者は小さなことでくよくよしないわ」
「それはそうでしょう。初代様は泣いたりしないのでしょう」
「いいえ、それは違いますわ。勇者は泣き叫んですっきりしたらあとは前進あるのみだったわ」
「……何故そのようなことをご存知なのです?」
「え?えっと、どこかで文献が」
目を泳がせる私を気にした様子もなくグラシアがのほほんと言う。
「まあ、うちにないものがあるのですね」
「ええ、まあね。それより!!グラシア様は何でそんなにやる気がないのです」
「やる気……と申しますか、疲れてしまったのです。殿下は昔から人の話を聞かずご自分の考えが全て正しくご自身を褒め肯定する者のみを側に置きたがります。殿下の側近候補である2人のうち1人も以前は私と同様殿下を諌める者だったのですが学園に入ってから何故か変わってしまいました。殿下の相手だけでも大変ですが令嬢たちはリリア嬢が気に入らないと私に注意してほしいと言うので何度かリリア嬢を諌めたことはあるのです」
「王子どうしようもないわね。で、その注意したことをぐちぐち言ってきたりしたのです?」
「ええ、ただ殿下をお名前で呼んではいけませんとか殿下のお体にそのようにベタベタ触れるものではありませんとか殿下の膝に座ってはいけませんとかお礼に頬にキスなどしてはいけませんと注意しただけですの」
「おおーい!!ヒロイン!!やりすぎでしょ!!私だってジェイズの膝に乗ったりほっぺにちゅーなんてしたことないんですけど!!」
私だって、私だってジェイズと子供扱いじゃないスキンシップがしたい!!
「リ、リーナ様……?」
「あら失礼しましたわ。それでリリア嬢が王子に泣きついて王子が文句を言ってきたのですね」
「ええ、それで令嬢たちも頭にきてしまったようです。それ以来私はリリア様に関わらないようにしているのですが令嬢たちがリリア様に突っかかっていったり王子の言う虐めもどなたかがされているのではないかと思うのですが。皆さん私が命じているだとか私を盾にやりたい放題で初めの頃は止めようとしていたのですが……」
「全然聞いてくれなかったのですね」
「公爵家を陥れたい者にとっては率先して私に罪を被せたいでしょうし……」
「……苦労されたのですね」
「ええ……ですがリーナ様とお話ししていたらなんだかまた頑張ろうという気持ちになってきましたわ」
「まあ、本当ですの?」
「ええ、先程泣いてすっきりしたのかもしれませんわ」
「それは良かった。グラシア様、提案なのですが、王宮を破壊して国王の隠し子と結婚しませんか?」
「……はい?」
私が見えた未来視は王宮が崩壊し国王の隠し子とグラシアがキスをするところなのだ。あとはどうなったのかわからないのだからこう言うしかないだろう。
「レイジアの国王の子供は公にはあの馬鹿しかいないのですよね」
「え、ええ。でも馬鹿とそんなはっきりと……」
「馬鹿なのですから仕方ないです。馬鹿の婚約者はグラシア様ですよね」
「そうですわね」
「でもこのままではグラシア様は色々な罪を被せられて断罪されてしまいます」
「断罪……さすがの殿下でも」
「しないと言いきれますか?馬鹿はグラシア様との婚約を破棄してリリアと結婚すると言い出しますよ」
「まさか……国が定めた婚約を破棄するなど」
「しますわ」
「まあ……」
グラシアが困惑するのはわかる。普通は国が決めた婚約を破棄するなど考えないだろう。
「信じられなくても仕方ありません。半信半疑で良いですから私に協力してくださいませんか?」
「協力って……。そもそもそれって私の問題では?リーナ様にどんな関係があるのです?」
「関係ないですけどしないといけない事情があるのです!!くーっ!!理不尽ですわ!!」
再転生なんて本当にあの女神、泣き虫のくせに脅すとか何様のつもりなんだ。むー!!
「えっと……良くわかりませんけどわかりました。私もこんなに苦労してるのに婚約を破棄され断罪されるとは腹立たしく思いますわ」
「そうでしょうそうでしょう。では作戦会議は放課後にしましょう」
「わかりましたわ」




