交渉 Negotiation
「最近、成績が落ちてるんだって。これでは希望どおりの進路は難しいんじゃないか」
「でも、勉強に身が入らなくて」
「身に入らなくてよい。頭脳に入れなさい」
「勉強してなんになるのでしょうか」
「その質問をしてなにになるんだ」
「大学に行ってもやりたいことが見つかるとは限らないなら、いっそ進学しないほうが為になるんじゃないかって、思います」
「いったい君はどうしたいんだい」
「自分を探しに行きます」
「君はここにるではないか」
「本当の自分です」
「わたしが会話しているのは、嘘の君か」
「そうともいえます。自分を知らないままなんて、恐ろしいでしょう。だから、探すんです」
「悪いことはいわない。まあ、ずっとよいことをいっているつもりだが……、ふらふらするくらいなら、大学に進みなさい」
「嫌です」
「場所を変えても、考える頭脳は変わらないぞ」
「わたしの決意もかわりません」
「よし。ならこっちにも考えがある」
「なんですか」
「お前について行く」
「やめてください」
「お前もやめることだな」
「やめません。旅に出かけます、一人で」
「そこをなんとか」
「ついてこないでくださいね、本当に。訴えますから」
「失礼な。わたしはそんな怪しい者じゃない」
「そもそも、あなた誰ですか」
「そっちこそ。君は誰だ」