休・息
さて、昼休みだが……
よっしゃぁぁ!! ラブコメするぞぉ!!!!
「ypaaaaaaaaaaa!!!!」
「わー!……違う!!」
何が違うのブレイズちゃん!
確かに俺と君はもう既に婚約している身。もはやラブコメにかまけるステージは通り越していると思うかもしれない!
でも、よくあるだろ、結婚から始まる恋愛とか! 一時期メッチャ流行ったじゃない!! 流行というのは予想外の連続! そして10年ごとにループする!! つまり俺たちにはまだ学園青春ラブコメをする余地が残されているということなんだ!!
だから俺と甘々イチャイチャラブコメをしよう、ブレイズちゃん!!!!
「なんでよ! 戦いなさいよ!! そこにいるでしょう、敵!! 召喚戦争だってんの、あの女を倒すように命令しなさいよ!!!」
ブレイズちゃんが指を差す方向を見れば、そこでは『お姉さま』信仰の男、康太と、同じ机を囲んで甘〜い空気を周囲に撒き散らしている制服姿のお姉さま、ブレイズと同じ召喚精霊のベルクが、二人でお弁当を食べさせあっていた
「…ベルク、その…はい」
「あら…ふふっ、それじゃあ…あーん♪」
うわクソっ、イケメンだから赤面も様になる! 許せねぇ!! ベルクさんも余裕そうに見えて、ちょっと恥ずかしがってる感じなのが更に癪だ!!!
「ブレイズちゃん!」
「良し! 任せて! 赤雷と灼炎の撃帝、我が威の元に!」
「俺たちもあーんするぞ!!!!」
あらブレイズちゃん、そんなに曇り濁った目で俺を見ないでおくれ
あ、ほらブレイズちゃん! アイツら見つめ合ってるよ、しかも赤くなって二人して逸らしてやんの!!
許せないよなぁ! サブキャラの癖に俺たちよりラブコメしやがって!!!!
「ほら、ブレイズちゃんも! 俺の弁当しかないけど、あーん!」
「えっ、いや、私はやるとは…えっと、あー…ん」
俺は弁当箱からサバ味噌を一切れ、ブレイズちゃんに差し出す
ブレイズちゃんは一瞬躊躇いを見せるが、食欲に負けたか、その小さな口でサバを啄んだ
あぁ! お口に入りきらなかったサバ味噌がほろほろ崩れて、ブレイズちゃんのスカートに!!
展開運びがなんてシームレス!!! あっ、でもスカートにシミができちゃう!!!
「あわわわわ…スカートが…! サバ缶…!」
「あぁ、ブレイズちゃん動かないで! 落ち着いて、ほらスカート見せて」
あわあわして半涙目状態のブレイズちゃんを立ち上がらせ、サバの落ちたスカートを確認する
確か拭くんじゃなくて叩いて落とした方が良いんだよな
……それでは僭越ながら……
「なんでスカートに手入れるの!? 手の動きがちょっと怖い! 本当にスカート拭くだけだよね!? ここ教室だからね!!??」
「分かってるから! 俺に任せてブレイズちゃん!!シミの一滴も残さないから!!」
おぉ! 手を入れる時に一瞬翻ったミニスカートから、麗しの絶対領域がお目見えしたぞ!!
これで俺は後3年戦える!!!
「アナタ、分かってるのに跪いてスカートの中に手を入れるって、羞恥心とかないの!?」
「ブレイズちゃんのためなら俺はなんでも出来る! うぉあッ、熱ッ!!!??」
俺の雄叫びと共に、ブレイズちゃんのスカートが突如として燃え上がった!?
「良い加減にしなさい! 学校ごっこはもう良いでしょ?」
スカートからセーラー服へ燃え移り、一瞬にしてブレイズちゃんを包み込む灼炎。
弾かれる様に散った炎の中から現れたのは、制服を解き、昨日纏っていた神秘的な薄絹衣装を身につけたブレイズちゃんだった
「赤髪とツインテール、スレンダーの召喚精霊ブレイズ。炎雷二刀、灼炎の鐘、迅雷の如き…」
「スレンダーじゃなくてぺたんこ!」
そこは間違えちゃダメだよブレイズちゃん!!
ぺたんことスレンダーは違う! 単語の意味はさて置き、属性としてのスレンダーとは、身体全体の線が細い娘を表すのだ。ブレイズちゃんの場合、線が細いのは勿論だが、少女特有のもちもちした肌感と、スレンダーと言うには少しふとももし過ぎているふともも故に、スレンダーと呼ぶには不適切だと意見する!!
「あ…赤髪とツインテール、ぺ…ぺたんこの召喚精霊ブレイズ…ッ、いざ尋常に勝負!!」
気を取り直して名乗ったブレイズちゃんが、両手元に炎と赤雷を発生させ、二振りの紅剣を創り出す
抜き身の剣の如く、鋭い雰囲気を纏ったかと感じたその瞬間──「あいたっ」
「凶器はダメです」
その雰囲気は、たちまちに霧散する
頭を抑えて蹲ったブレイズちゃんの背後には、ウチの担任が丸まったプリントの束を振り下ろして佇んでいた
ウチの担任は普通だ。普通の外見、普通の経歴で、学生時代の成績も普通。ただ一つ特異なことを挙げるとすれば、常軌を逸したその豪胆さだろう
その特性だけで、この女性はウチの学校の最高戦力の一人として数えられている…!
「放課後、ベルクさんと一緒に職員室に来て下さい。それと、制服の改造は、原型が残る程度でお願いします」
ポカン…とした顔でしばらく固まっていた後、突然自らを炎で包んだかと思ったら、もと着ていた制服姿へと戻ったブレイズちゃん
さっきまで起こっていた超常のあれそれを、まるで級友の修羅場であるかの様に面白おかしく見ていた周囲の連中をぐるりと見回し、ポツリと一言
「……三継……」
「なんだい、ブレイズちゃん」
「…本に帰っていい?」
だーめ!
ブレイズは参戦する世界を間違えたことに気がついた