十七夜月
注意事項1
起承転結はありません。
短編詐欺に思われたら申し訳御座いません。
注意事項2
今日は十七夜だそうですよ。
タイトルは 『かのう』 と読みます。
昨日夜空にぽっかり空いた月を見た。完成された真ん丸が夜道を照らしていた。それでも血の巡りは穏やかで、私を酷く狂わせる事は無かった。
そうして本日、一度破壊の限りを尽くして、再構成を終えたこの時期に、上の方からただ一言告げられた。
「慣れて来たかな?」
「あ……えと……少し」
この問い掛けが実は一番苦手である。前に三年ほど勤めていた場所でも、決して一人前とは言えなかった。必ず初歩的な間違えを犯していた。それを鑑みても、決して作業に慣れたとは声を大にして言えなかった。客観的な尺度が欲しい。私は今、傍から見ればどの位置に居るのか。どれ程まで成長したのか。
歯切れの悪い私の返答に、上の方は軽快に笑って、此方を見た。
「うーん、そっか。でもそろそろ、もう少し大きいのを渡そうと思って。流石にずっと簡単なのも、成長出来ないし」
……ご最もで御座います。
あの一言は無かった。そもそも前の経験から『拒絶とと謙虚は也を潜める』と自分に言い聞かせたじゃないか。あの時の正解は例え自信がなくとも『慣れて来ました』と言えば良かったものを。
そう頭を抱えて月を見る。今日も今日とて完成された丸が夜空に浮かんでいる。今日の月はなんだろう。丸は全て満月と決定付けたくなる。
そうして前を見ると、司祭服を来た青年が此方に向かって歩いて来た。髪も服も漆黒。ただ胸元で揺らめく十時だけがきらりと輝く。そう言えば今日、ハロウィンか。仮装する人も多いよね。
そうして黙ってすれ違うだけの関係になるはずだった。しかしすれ違う寸前に司祭の彼と目があった。
「こんにちは、お嬢さん。どうやら今は何かお悩みの御様子。この際ですからお話して下さいませんか?」
そうして僅かに目を見開いた。鮮やかな黒に吸い込まれそうになる。そうされるともう、逃げる事は出来ず、私は縛られた様にその場に棒立ちになった。
「今宵の月は満月から二日程後の十七夜、願い事が叶うと言われているんですよ」
彼は私の緊張を解す為か、小さな雑学を披露する。それをぼんやりと聞きながら、黙って月を見上げる。あぁ、昨日は十六夜だったんだ。今日は十六夜じゃないのに、間違えを引きずって惑い続けている。馬鹿みたいだなぁ。
「ですから月にかまけて、願いの一つでも。ささっ」
「今日、皆さんからすれば大した一言じゃないんですけど、私からしたら決定的な間違いをしてしまったんです」
もう言わないと決めたのだ。弱音も拒絶も何一つ。けれども人の本質とは変え難いもので、ふとした瞬間に顔を出す。
「改めて、過去に固執する事の無いように。猶予うのは昨日で充分だから」
「しかと、賜りました」
そうして彼は微笑んで、闇夜に姿を眩ませた。
過去と決別なんて、そう簡単に出来るとは思えない。けれども肩の荷が降りたように、少しだけ前を向けた様に思える。これも月の導きがあったからかも知れない。
さよなら、そして有難う、月の道者。
主人公の湿度の高さには定評があると思ってますよ。
大抵うじうじしてる。
今日は十七夜だそうですね。
なんでもこの日に願い事をすると、願いが叶うようで。
ハロウィンなのも相まって、何かしら願掛けしたくなります。
あ、カボチャ食べました。
そんなこんなで出来た話です。
ハロウィンだし、十七夜だし、それにかまけて願い事すれば叶うんじゃない? というノリ。
ハロウィン、十七夜、司祭服。
好きな組み合わせ。
昨日満月かと思ったんですよ。
でも十六夜らしいです。よく見てない事がモロバレですね。
幻想奇譚、また月に着いて書きたいです。