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初恋と幽霊  作者: 無月兄
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時は流れて2

「それにしても、藍が軽音部か。なんか意外かも」


 ベースの入ったケースを持つ藍を見て、真由子が言った。

 先ほど、帰りのホームルームが終わり、既に放課後となっている。教室を出て行く人の姿も、ちらほらと見受けられた。


「うん、私もそう思う」


 意外だと言った真由子の言葉に、藍は素直に頷く。藍自身、自分が大勢の人を前にステージ上で演奏する姿なんて、なかなかイメージがわかない。


「そもそもなんで、音楽を始ようと思ったの?」

「きっかけは、去年、ここの文化祭のステージを見てかな」


 優斗が亡くなって以来、藍はこの学校の文化祭を訪れることも無くなった。元々、藍にとっては優斗に会いに行くというのが目的であり、優斗がいないのなら来る意味も無かったからだ。

 だけど、受験生だった去年、志望する高校を見てみたいという思いから、久しぶりに文化祭を見に行った。

 その時は、真由子も一緒に来ていたため、藍の言うステージが何なのか、すぐにピンときたようだ。

 二人がたまたま入った体育館のステージで、当時の軽音部員が演奏しているのを見ていたのだ。


「ああ、あの時のやつね。それでわざわざ自分も始めるなんて、よっぽどあの演奏が気に入ったんだ」

「う~ん。それも、全く無いわけじゃないんだけどね」


 曖昧に答えると、真由子は首をかしげた。


「なに?まだ他に理由があるの?」


 本当のことを言うと、演奏を聞いているうちに優斗のことを思い出したのが理由だった。

 もちろんそれ以前から、優斗の存在を忘れたことなんて一度も無い。だけどステージで演奏している軽音部員の人達を見て、ベースを持った優斗の姿が、強く頭に浮かんだ。


 もしも優斗が生きていたら、あれからも、あのベースでたくさんの曲を弾いていただろう。なのに自分は、ただ眺め、思い出に浸るだけ。今更ながら、それが何だかとても申し訳なく思えた。

 文化祭から戻った藍は、試しに適当に音を鳴らしてみて、それからネットで弾き方を調べた。

 もちろんすぐに弾けるはずもなく、最初のうちは一音ずつ鳴らすだけで精一杯だった。だけどそうしていくうちに、段々と、もっとしっかり弾いてみたいと思うようになった。

 これが、藍が音楽を始めた真相だ。


 とはいえ、ここまでは真由子にも話していない。


「他の理由もあるにはあるけど、長くなるからやめていい?」


 別に、特別隠そうとしているわけじゃない。

 ただ、中学で知り合った真由子は優斗のことなんて知らないし、きちんと説明しようとすると、自らの初恋についても話すことになりそうだ。

 そうなると、きちんとした心の準備が必要だった。


「まあ、それならいいけど」


 真由子はまだ少し気になっているようだったが、それ以上聞いてくることは無かった。

 そのかわり、思い出したように言った。


「そういえば、ここの軽音部ってあんまり人がいないって聞いたけど、そうなの?」

「うん。確か去年の時点で、三年生が二人だって言ってた」


 それは去年の文化祭で、ステージに立っていた部員達自らが言っていたことだ。


「ちょっと待って。三年生二人ってことは、その人達は卒業していないよね。それって、今は部員ゼロってことじゃない」

「あの後誰も入ってなかったら、そうなるかな」

「そんなんでやっていけるの? 下手すりゃ、藍一人だけしかいないじゃない。藍だって、まだほとんど初心者なんでしょ」


 確かに。弾き方を勉強し始めてからまだ半年くらいしかたっていないし、人前で演奏したことだって無い。真由子が心配するのも無理はなかった。

 実際、不安がないわけじゃない。


「よかったら、私も入部しようか? あ、でも楽器とか揃えるのにお金かかるか」


 一瞬、真由子が入部の意思を見せるが、すぐに迷う。

 一から音楽を始めるとなると、かかる費用は決して安くは無い。藍には優斗の使っていたベースがあったけれど、それでも、チューニングを頼んだり諸々の部品をそろえたりして、最終的には結構な額が必要になった。

 本気で興味を持って入ってくれるのならともかく、人数が少ないからという理由で付き合わせるのは申し訳ない。


「無理しなくていいよ。でも、ありがとね」

「うーん、ごめんね。でも本当に大丈夫なの?」

「人がいないならいないで、じっくり練習できるから良いかな。それに、私以外にも、入ってくれそうな人はいるから」


 藍はそう言うと、教室の一角へと目をやった。真由子もその視線を追うと、その先にいた人物を見て、ああと声を上げた。


「そういえば、アイツも最近楽器始めて、藍とも色々話してたっけ」

「うん。ギターだよ。たまにだけど、何度か一緒に練習したこともあるよ」


 彼女達の視線の先には、同じく中学の頃からの同級生がいた。藍にとっては、小学生の頃からの同級生だ。

 三島啓太。彼もまた高校生となり、この学校に入学していた。

 せっかくだから、本人に直接話を聞きたい。そう思った藍は、彼の元へと近づいていった。


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