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初恋と幽霊  作者: 無月兄
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実験2

 藍と優斗。この二人がなぜ憑りつけるかなどといった珍妙な実験をしていたか。それを語るには、しばし時間を戻す必要がある。

 優斗の話を全て聞き終えた藍は、残った涙の跡を落とすため一度顔を洗い、ようやく気持ちを落ち着けていた。


「ごめんな。いきなりこんな話して」

「謝らないでよ。ユウくんのいろんな話が聞けて嬉しかったよ」


 語られた内容は驚きもしたしショックだった部分も沢山ある。だけどそんな所も隠すこと無く、全部話してくれたことが嬉しかった。


「これからは、辛かったり苦しかったりしたら話してよ。後になって、実は黙ってたってわかったら、凄いショックなんだからね」

「ああ。気を付けるよ」


 苦笑しながら返事をする優斗だったが、こうしてこの話は終わりを迎えた。

 一段落ついたところで、話は次第に他愛の無いものへと移っていったのだが、そんな中で、藍はあることを思い出した。


「そう言えば、私が階段から落ちかけた時変なことがあったけど、あれって何だったのかな?」

「それって、俺が藍の中に入ったやつだよな」


 優斗の言葉に頷く藍。それから、お互いにあの時何があったのか確認してみるが、それぞれが体験したことをまとめると、おおよそこんな感じだった。

 階段から落ちそうになった藍を助けようとすり抜けるとわかっていながらも手を伸ばした優斗。そのまま藍へと近づいた結果、気がつけば体全体が藍を突き抜け、二人が重なるような状態になっていた。

 そしてその時、異変は起こった。


「いつの間にか、目に映る景色が藍の視点になってた。いや、目だけじゃなくて多分五感全部だったと思う。それで、とっさに落ちるのを止めようとしたら、体がその通り動いた。藍はどうなってた?」

「私は……体が勝手に動いてたって感じかな。あれってユウくんが動かしてたってことでいいのかな?」

「ああ、多分な。まるで、俺が藍になったみたいだった」


 二人の話をすり合わせると、どうやらあの時藍の体を動かす主導権は優斗にあったようだ。

 そこまで話した時、藍はその奇妙な現象について、ある考えが浮かんでいた。そして、どうやら優斗もまた、同じことを考えていたようだ。


「それってユウくんが私にとり憑いてたってこと?」

「藍もそう思う? やっぱり、そういうことになるのかな」


 とり憑つく。幽霊の出てくる話ではよく聞く言葉だが、まさかそれが我が身に起こるとは思わなかった。


「咄嗟だったとは言えごめんな。勝手なことして。嫌じゃなかったか?」

「嫌じゃないよ。あの時とり憑いてくれなかったら怪我してたかもしれないんだし、むしろ感謝してるよ」


 とり憑くと聞くと何だか悪いイメージがあるが、そのおかげで助かったのだから、文句なんてあるはずもない。それに優斗になら、取りつかれても嫌だとは思わなかった。


「もしあのまま落ちてたら、二人とも痛い思いをしてたのかな?」


 ふと、疑問に思ったことを口にしてみる。


「だろうな。壁を触った時はちゃんと感触があったし、さっきも言った通り多分五感は全部共有してただろうから、痛覚だってあったと思う」


 不思議なことではあるが、そもそもそれ以前に、幽霊となった優斗がいるのだ。それに比べると、まだ受け入れるためのハードルは低く、そんなこともあるんだ程度で済ませられる。

 だがそこで、藍はふと新たな考えが浮かんできた。


「それって、ユウくんが私の中に入ってきたらいつでもできるの?」

「うーん、どうだろう」


 何しろ偶然起きた一回だけしか判断材料が無いのだから、優斗も答えあぐねている。

 しかしそれなら新しいデータをとればいいだけだ。


「ねえ、実験してみない?」


 この不思議な現象に興味を持った藍は、気が付けばそう提案していた。








「いや、ちょっと待て」


 藍と優斗からこれまでの話を聞いていた啓太。しかしその途中、彼は頭を抱えながら口を挟んだ。

 これまでの説明で、二人がなぜ「体を重ねる」だの「好きにしていい」だのと言った、誤解を招くようなセリフを言っていたのかはおおよそ理解した。

実験の為優斗が藍の中に入るのを『体を重ねる』取り付くことで体の主導権は優斗に移るのだから『好きにしていい』。などといった具合に表現したのだろう。

 そこまではいい。紛らわしくて口には出せない誤解をしてしまったが、今はいい。問題なのはそこじゃない。


「なんでわざわざそんな実験しようと思った?」


 一度はそのおかげで助かったとは言っても、藍がなぜわざわざ自分から好んで憑りつかれようなどと言ったのか、全く理解できなかった。


「だって、憑りついている間はユウくんも私の体で物に触ったりできるんでしょ。それに五感を共有できるなら、味覚だってそうだよね。だったら、憑りついていたらユウくんだって、ご飯が食べられるようになるかなって」

「そんな理由かよ!」


 聞いても全く理解できない理由だった。ハッキリ言ってしょうも無い。だが藍には藍の言い分があるようだ。


「だって私がごはん食べてる時だって、ユウくんはずっとそばで見てるだけなんだよ。そんなの寂しいじゃない」

「そうなのか?」


 優斗を見る。啓太からすればそんなことと思うが、本人からすれば案外切実なのかもしれない。


「いや、俺は別にそこまで気にしてないんだけどな」


 どうやらそこまで切実というわけではなさそうだ。二人の様子を見ると、この実験自体が藍の主導の下行われているらしい。普段は大人しそうなのに時々凄いことを始めるやつだ。

 啓太は、半ば呆れながらため息をついた。


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