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初恋と幽霊  作者: 無月兄
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霊感3


 鞄と楽器を手に、藍達三人は校舎を出る。ただ一人、自分の持ち物の無い優斗だけが手ぶらだった。

 ふと、藍は優斗の足元に目をやる。


「そう言えば、ユウくんの靴、どうしようか?」


 幽霊である優斗は、もちろん靴なんて持っていない。上履きを履いていたので学校内では問題ないけど、外でもそのままでいるしかないのだろうか。

 そう思ったのだが、再び見た優斗の足には、ちゃんと外用の靴が備わっていた。


「その靴、どうしたの?」

「……あれ? 本当だ」


 優斗自身、この変化には気づいていなかったようで、戸惑いながら首を傾げる。だがそんな中、啓太が言った。


「幽霊の格好ってのは、本人のイメージによって作られるみたいなんだ。学校の中だったり、今みたいな外だったり、本人がその場所に一番適していると思う姿に変化していく。だいたいそうでもないと、服まで幽霊の一部になってる説明がつかないだろ」


 当たり前のように解説する啓太。かつて幽霊が見えると豪語していただけあって、その辺は、新米幽霊である優斗よりも詳しかった。


「それと藤崎、こいつは他の奴には見えないんだから、話す時は注意しろよ。周りに人がいる時は、喋っているのを聞かれないように。あと、あまり見つめすぎないように。でないと、お前が変な奴って思われるからな。どうしても喋りたいなら、スマホを使って通話してるふりをするって手もある」


 こんなアドバイスまでしてもらった。


「「おぉーっ」」

「拍手はいらねえよ」


 その知識に素直に感心する藍と優斗だったが、本人は特に嬉しくも無かったようでフンと鼻を鳴らすだけだった。


「それにしても、全然部活の話出来なかったな」


 担いだギターと、たった今出てきた校舎を交互に見ながら、啓太が言う。藍も、途中から部活の事はすっかり忘れてしまっていた。


「時間とらせて悪かったな」

「ううん。ユウくんのせいじゃないって」

「いや、どう考えても俺が原因だろ」


 そんなこと無い、と言うのはさすがに無理がある。何とか気にしないでと伝えようとする藍だったが、その前に啓太が言った。


「どうせ部員ゼロで、俺達以外の見学者もいなかったんだ。活動するのが一日遅れたって問題ないだろ」

「うん。全然大丈夫だよ」


 啓太の言葉に乗っからせてもらう藍。そうして歩いていると、今度は優斗が啓太に向かって言った。


「藍から聞いたけど、霊感少年はギター担当なんだよな」

「霊感少年言うな。まあ、始めてからまだ半年くらいしかたってないけどな」


 かつての軽音部員として、藍以外のメンバーも気になるのだろう。だが始めた時期を聞いて、優斗は首を傾げた。


「半年? 確か、藍がベースを始めたのも、そのくらいだったよな?」

「うん、私の少し後に始めたの。凄い偶然でしょ。それまで全然音楽に興味あるように見えなかったから、驚いたよ」

「へぇ。偶然ねえ……」


 藍の説明に、優斗はなんだか意味深げに呟いたが、そこにどういう意図があるのか、藍には分からなかった。


「……なんだよ」

「いいや、なんでも」


 直後に行われた啓太と優斗のやり取りも、やはり藍には何のことか分からなかった。

 間もなくして交差点に差し掛かり、啓太とはそこで別れることになる。だがそうなる少し前、ふと優斗が思いついたように言った。


「そう言えば、つい癖でこっちに帰ってたけど、俺はこのまま自分の家に帰るべきなのかな?」

「あっ……」


 漏らした疑問に、藍の足が止まった。啓太もまた、それを聞いて顔を曇らせる。


「気を悪くしたら悪い。やっぱり、自分がいなくなった後の家族を見るのは嫌か?」

「いや、別にそう言うわけじゃ無いんだけどな」


 デリケートな問題になりかねないので、啓太の言葉も慎重になってくる。優斗もどうしたものかと考えているようだったが、藍はその二人とは、少し違うことを思っていた。

 とても大事なことを、まだ優斗に伝えていなかったのだ。


「あの……ユウくん。ユウくんの家、あの後引っ越したんだ」

「……マジで?」


 声を上げたのは啓太。だが優斗も十分に驚いたようで、しばらくの間声も無かった。


「ごめん。本当はもっと早く言わなきゃいけなかったのに」


 これでは、家に帰るだの家族の姿を見だの以前の話だ。

 本当ならもっと早く伝えておくべきだったのに。そう思った藍だったが、しばらく黙っていた優斗は、やがて納得したように頷いた。


「そうか、あれから5年半も経ったんだよな。そうなるのも当然か」


 家族の引っ越しについては、思い当たる所があったらしい。だがそうなると、新たな問題が出て来る。


「さて、今夜はどこで過ごそうか?」

「気にするとこそこかよ。いや、それも大事だけど、その……家族に会いたいとか無いのかよ?」


 家族よりも今夜の寝床。そんな発言を聞いて、啓太が声を上げる。だが、当の本人はあっさりしたものだ。


「あんまりないな。うちの親、放任主義だったから。それに、会いに行っても、俺が見えないんじゃどうしようもないだろ」

「けどよ……」


 啓太はまだ納得がいかないようで、なおも食い下がろうとする。だがその様子を見ていた藍も、心中穏やかではなかった。

 啓太には悪いが、優斗本人がこう言ってるのだから、もうこの話題を終わりにしてほしかった。これ以上彼の前で、家族の話題を出してほしくなかった。


 気が付けば、ほとんど考えなしに叫んでた。


「帰る場所が無いなら、うちに来ればいいじゃない!」


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