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第8話 歪んだ三角形

 お試し期間とはいえ西野花と両想いになったことは今や厳然たる事実だ。

 それだけはいかな元カノとはいえ変えることはできない。

 ということで、翌日から晴れてふたりきりで登校することにした。

 古歩にはもう筒抜けなので隠す必要も遠慮もいらない。替場もお役御免だ。

 気がかりなのは古歩の動向についてだった。

 危機感はあるが、だいたい両想いになったふたりに対して何ができるというのか。

 何も出来ない。出来るはずがない。

 最後に愛は勝つ。不安など払拭して堂々と行こう。

 いつもの待ち合わせ場所であるバス停まで近づくと、いつものように西野が待っていた。

 こちらに気づいて手を振ってくれている。

 嬉しそうだし、少しジャンプしているし、女子力高し。

 ここからは一対一。俺たちはここからひとつずつ前進していく。

 これからいったいどんな明るい未来が待っているのだろう。


「おはよう花ちゃん。昨日はありがとうね」


 気恥ずかしくてちょっと距離を置いた状態でだが、台詞は噛まずに済んだ。


「こちらこそありがとう。楽しかったー。逃亡に、花火に、突然の告白。あんなサプライズしてくれるなんて」

「サプライズ? あ、ああ、驚かせたくてね」

「いっぱい愛を感じたよ」

「はは……なんかそう言われると照れくさいな」


 それは君への愛じゃなくて、俺への愛だ。すまない。


「そうだね。照れるね。えへへ」


 嗚呼、それはそうとして、久しぶりの青春だ。

 こうなったら禁欲の日々にさよならして思い切り楽しんでやる。


「あれ、替場君は?」


 と、せっかくふたりきりになったのに余計な名前が出てくる。


「あ、そうだ。親友の替場は用事があるからもう来ないみたいだ。もう一生来ないみたい。だから今日からふたりきりになりそうだ。まったく付き合いの悪い奴だよ。あはは」


 些末な嘘をついて笑いかけたが、西野は何故か少し困った顔をした。

 さすがに一生来ないと言い切ったのはまずかったか。だしに使ったのがバレバレだったか。


「ごめん。今日もうひとりいるんだ。それだと二対一になっちゃうね」


 話を聞くとどうも知り合いを混ぜて二対二にしようとしていたらしい。

 別に俺としては西野が推薦するなら誰が来てくれても構わないが。


「全然いいけど、もうひとりって?」


 俺の問いに答えるように彼女が横に一歩ずれ、後ろに隠れていた第三者を披露した。

 見覚えのありすぎる姿を見て俺はどっと汗が噴き出す。

 一瞬にして手足もびっちょり。


「私の親友のミホボン」

「ミホボン……?」

「他校の子なんだけど途中まで一緒にいいよね?」

「親友……えっと、いつから親友なのかな?」

「昨日から」

「へー、親友ってそんな急にできるもんなんだぁ」


 俺が狼狽していると、その親友とやらが進み出て恭しく自己紹介をしてくれた。


「初めまして。古歩美穂乃です。よろしくお願いします」


 読んで字の如く古歩美穂乃、俺の元カノであった。

 一日も間を空けずして登場である。

 たちの悪いことにメインヒロインより登場回数が多い。そいつが初対面のふりをしてふたりの世界にまで侵入してきた。

 しかもこんなにも早く、堂々と正面から。


「くっ」


 すぐさま蹴散らし追っ払いたかったが忌々しいことにそれができない。

 元彼女です、なんて言えるわけがない。

 言ってしまったらなんでまだ親しくしてるんだという話になる。

 ばれたら確実に振られる。付き合った初日で終わってしまう。全てが水の泡。

 つまり俺の生殺与奪の権を彼女に握られてしまった。

 戦況は一気に不利。最もたちが悪いのはそれを計算してこの状況を作り上げた知略。


「よ、よろしく。古なんとかさん」

「呼び捨てでいいですよ」


 古歩が目を細めてにっこり微笑んだ。

 むかつくことにちょっと社交性の高いキャラを演じている。


「いや初対面なのにいきなり呼び捨てはできませんよ。何せ、初対面ですから」

「そのほうが呼びやすいですよ」


 古歩が小悪魔みたいな顔で悪魔みたいなことを言ってくる。

 素面のときは物静かなのだが、いざというときは女優張りに変貌するので怖い。


「なら古歩さんで」

「じゃあ私はりゅうくんって勝手に呼びますね」

「どうぞご自由に」


 まるで初対面のように挨拶を交していると、西野が首を横に倒す。


「あれ、ミホボンに流星君の名前教えてたっけ?」


 俺は無言で古歩を睨みつける。

 おいどうすんだ。いきなり怪しまれてるぞ。


「教えてもらったよ。相馬流星くんだよね。だからりゅうくん」

「そうだったっけ。りゅうくんかぁ。それいいね。私もそう呼ぼうかな」

「被らないほうがいいと思うけどな」


 俺にだけはわかるが古歩の目が笑っていない。たぶん嫌なんだろう。


「じゃあ別の呼び方にしようかな」

「うん。呼び方が一緒だと特別感がなくなるからそのほうがいいよ」

「あーそう言われると確かに。私だけが使う特別な呼び方があるほうがいいもんね。私だけの呼び方。りゅうちゃん。よしこれでいこう。いいよね、りゅうちゃん♪」


 古歩がさらに険しい顔をしている。しかもこめかみに血管が浮き出ている。

 お前が焚き付けたんだろうが。


「じゃあ三人の息もぴったりあったことだし行こーう♪」


 意気揚々と促されたので俺は光速で頷いておいた。

 俺としては古歩から出来るだけ離れていたかったが、何故かふたりで俺を挟む形となってしまった。

 そうして複雑な三人が、複雑さを隠したまま、揃って学校へと歩み始める。

 どうしてこうなった。

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