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第2話 よく現れるラスボス

 いつもの如く三人は合流して、坂の上にある校舎を目指し仲良く並んで歩く。

 平和な一コマだが、ここまで漕ぎつけるにもなかなかの苦労を要した。

 西野へ気のないふりを接近し、時間をかけ好感度を上げ、ライバルの株を巧妙に下げ、とにかく色々なことをやった。替場もその巻き添えを食らって親友に昇格と相成った。

 全ては『シン・恋人を作ろうプロジェクト』のため。

 しかし西野はもちろん替場も、こんな大事にした元凶の元カノのことを知らない。

 出来れば知らないままいてほしいところだ。


「ふたりっていつも一緒にいるよね。登校も下校も一緒で仲良し」


 こちらの画策など露知らず西野が呑気なことを言う。

 今日も彼女は視界に花のエフェクトを生むくらいキュートだ。


「気が合うんだよ。なあ我が親友よ」


 俺が言って背中を叩くと、替場は彼女に見えないところで白目を見せた。

 ちょうどふたりで彼女をサンドイッチしている状態なので可能な技だ。

 ちなみにこのフォーメーションにしているのも隠蔽工作の一環である。女の子と並んで歩くのは危険だ。


「親友かぁ。いいなぁそういうの。私ってよく転校してたからそういうのって憧れる。ふたりは子供の時からずっと一緒?」


 あまり根掘り葉掘りされたくはなかったが、聞かれた以上は冷静に対応しよう。


「いや実はそんなに長くない。あることがきっかけで一気に仲良くなったんだ」


 渦中の彼は再び変顔をしようとしていたが西野の視線が移ったので、慌てて真顔になる。


「ま、まあそういう感じだな。それでこうして仲良く登校してる。オレの家はすんごく遠いけど流星との固い友情のためわざわざこっちまできてやってる」


 嫌味を述べられたが俺はこっそり彼に向けて親指を立てる。


「あることって? すごく気になるー」

「それは男だけの秘密さ」


 これ以上つっこまれるとまずいので笑って煙に巻く。

 と、おしゃべりしながら歩道を占領していると、やや前方に着ぐるみをきた人が風船を持って立っていたので俺は後方にずれることにした。

 こんな朝っぱらからバイトとは熱心だなと思って通り過ぎようとすると、兎の着ぐるみがとおせんぼをしてきた。

 横にずれると、兎も揃って横にずれる。それからアンケート用紙とボールペンを差し出してきた。

 ノルマでもあるのか、かなり熱心だ。同情はしたものの学校があるので断ることにした。


「これから学校あるので、すみませんけど……」


 しかしなかなかどいてくれない。

 予想していたよりしつこかったのでだんだん苛ついていると、離れたところで他人事のように替場が手をひらひら振っている。


「まだ時間あるし書いてやれよー。西野さんのことはオレに任せろー」


 運悪く捕まってしまった俺を小ばかにしている。むかつく。

 しかしここでむきになってしまうと、どこかからスコープのようなもので見ている元カノにどう解釈されるかわかったものではないので、ぐっとこらえて了承する。


「はぁ、わかりました。すぐ済むんですよね?」


 兎が無言で頷き、ふたりが既に歩き出していたので俺は急いでアンケート用紙に目を落す。


「何のアンケートなんですか? えっとなになに……」


 言いながら上から順にざっと眺めていく。


 Q1 いま好きな人はいますか?


 これにはイエスと答えておいた。特定の名前を書かないのであれば問題ないだろう。

 次の質問は、


 Q2 はいと答えた方にお聞きします。その人とは西野花ですか?


 瞬間はっとして顔を上げると、眼前に兎の顔があった。


「りゅうくん、最近あの子とよく一緒にいるね?」


 俺は言葉を失う。変装までして奴が堂々と三人の前に登場してきた。

 着ぐるみの中に潜む狂気。

 これが件の元カノ、古歩美穂乃である。

 完全に油断していた。だいたいこんな時間帯にこんなバイトなんてあるわけがないのだ。いつからスタンバイしていたのか、頭を脱いだ彼女の髪は乱れているし汗もかいている。

 なんという努力家。しかしこの行動力こそが俺を苦しめている最大の要因でもある。


「美穂乃、なんでここに……」

「りゅうくんの通学路だから」

「答えになっていないぞ!」

「りゅうくんの行くところに私がいるのは当然だよ」

「そんな当然があってたまるか」


 相変わらずこいつは悪びれないし退くことを知らない。


「ねえアンケート、答えて」


 こちらの都合などお構いなしに古歩が迫る。

 拒否したかったが通学路で痴話喧嘩するわけにもいかないし、逃げたら学校まで追ってきかねない。俺は仕方なく言われ通りにするしかなかった。

 問二には『いいえ』としておいた。


「どうして嘘つくの?」


 すると真顔でさらに迫ってくる。ぐいぐい来て怖い。


「え、何が。なんのことだ?」

「わかるよ。りゅうくん嘘つくとき癖があるから」

「まさか顔に……いや俺にそんな癖はない。あってもそんなミスはしない」

「筆跡でわかるよ」

「筆跡でもわかるの!」


 本当だとしたらこいつはどれだけ俺のことを研究し熟知しているんだ。論文を書けるんじゃないか。いや書ける。こいつなら。


「線を書くときに少し揺れがあったから」

「さすが元カノ、よく見てんなぁ、って感心してる場合じゃない!」

「やっぱりさっきのあの子が新しい好きな子なんだね?」

「ち、違う。西野は一緒にいた替場が好きな子で俺はそれに付き合ってやってるだけなんだ。まったく仕方のない奴だよ」


 彼には申し訳ないが逆の説明をしておくことにする。


「隠さなくていいんだよ。いまのりゅうくんの反応を見て確信が持てたから。次はあの子がふたりの邪魔をしてくるんだね?」

「待て待て待て!」


 俺は動き出した彼女を羽交い絞めにして全力で止める。愛の力とは凄まじいもので、そのまま少し引きずられる。


「最近よく一緒にいるもんね。先週の日曜日は三人で映画館に行ってたし。その前は三人でペットショップに。そのときこっそり手を繋ごうとしてたけど失敗してた。あといつも太ももをよく見てるよね」

「ぜんぶばっちり見られてた……」


 警戒していたはずだがことごとく監視されていたことに戦慄する。


「最後にもうひとつ質問。いま好きな人と前の彼女、どっちが好きですか?」


 恐ろしいことを訊かれたが、答えは決まっている。


「前者だ」


 即答すると彼女は目に涙を溜めて鼻水まで垂らし停止したが、もう構わず先へ行く。

 項垂れている着ぐるみ姿にやや心が痛んだがアンケートの協力はもう終わりだ。

 去り際にしっかり釘も指しておく。


「俺の好きな子が誰だろうと今度は邪魔するなよ。俺たちはもうとっくに別れたんだからな」


 とても恐ろしいことに返事はなかった。

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