第1目標 ナンパを目指す
「ねぇ君。僕とお茶しない?」
「はい!行きます!!」
ちょっと現実逃避がしたくて。僕は町中で女の子に声をかけた。女の子もあっさりと了承してくる。
この出会いが僕の運命を大きく変えるとも知らずに、僕はナンパの成功を喜ぶのだった。
少し時間を遡って。僕が女の子に声をかける数時間前。
僕は実家から出て、高校に通うための新しい場所に引っ越そうとしていた。
「こちらでございます」
「……へ?」
親から聞いていた話では、安いアパートという話だった。でも、なぜか案内されたのは一軒家。僕は訳が分からず間違いなのではないかと訊いてみたが、どうやら間違えたのは僕の両親だったらしい。安いアパートの1つ上にあった一軒家を間違えて選んでしまったようだ。しかも、賃貸ではなく購入の契約で。
両親から聞いていた話では月に2万円の家賃を払えば良いって話だったんだけど、ローンとかの返済で毎月10万近く払わなきゃいけないみたい。
……え?だよね。急すぎない?流石に1月10万稼ぐのは無理だって。学校もあるんだから、毎日バイトをしてもきついよ。
「それでは私はこれで」
「あっ……行っちゃった」
案内をしてくれた人は忙しいらしく、帰ってしまった。残された僕は、異様に広くて豪華な家に目を向けることとなる。部屋が20くらいあって、中庭まであるみたい。ものすごく豪華ではあるよ。これを見ると毎月10万近いのは安いぐらいだと思うんだけどさ。
「……それでも、無理じゃん」
10万も払えるわけ無いじゃん。僕はそう思って、ソファーにもたれかかる。すでに契約は完了してるみたいだし、今頃無かったことにも出来ない。親に電話したり、バイトを探したり、色々やらなければならないことはある。
でも、全てが嫌になって、今日は一旦現実逃避することにした。ということで、
「行こうか。ナンパに」
僕は立ち上がる。
ナンパをしに行くんだよ!ナンパを!!これまで高校に入るために勉強ばかりしてきたけど、高校は入れることになったんだから休んで良いでしょ!精一杯遊んでやるんだぁぁぁ!!!!
僕は意気揚々と家を出る。勿論戸締まりはシッカリとしたよ。高い家を荒らされたら困るからね。
「確か、近くの駅が都会な所だったよね」
ここは住宅地だけど、電車に乗って数分で賑やかなところにいける。早速僕は行ってみた。
「……おぉ~」
僕の口から漏れる、感動の声。都会に来たって感じだね。地元とは全然華やかさとか煌びやかさが違うよ。ここなら少しチャラい感じでナンパしても似合うかも。
そう思いながら歩く。でも、あんまり女の子が見つからない。いないわけではないんだけど、男の人と一緒だったり数人のグループだったりして、ナンパするのには向いていなさそうな子ばかり。そうして見つけられないまま歩いていると、
「あっ。変なところ入っちゃったかな?」
辺りに先程までの沢山の人はいない。いるのは僕1人だけ。
こういう所って、イメージだけど怖いお兄さん達のたまり場になってる気がするんだよね。さっきまでのところに戻ろうかな。
そう思って、引き返そうとしたときだった、
「……ぅぅ」
誰かの声が聞こえる。怖いお兄さんではなく、少し高めだったから女の人かな?
ナンパに丁度良いかも知れないと思って、声の聞こえた方に進んでみる。するとそこには予想通り女の子が。
「ねぇ君。僕とお茶しない?」
「はい!行きます!!」
話しかけてみると、あっさりナンパは成功した。ナンパってよく断られるイメージだったから、肩透かしを食らった気分だよ。
女の子は少し変わった服装で先端に水晶の付いた杖を持ってる。聖職者っぽい神聖な雰囲気があるね。都会で流行のファッションなのかな?
なんて思ってると、
くぅ~~~~、
「あぅ!?……っ///」
可愛く女の子のお腹がなった。女の子は顔を真っ赤にして恥ずかしそうにしている。
僕の気遣いが足りてなかったかな。
「お茶じゃなくてご飯にした方が良いかな?」
「お、お願いします」
と言うことで予定変更。近くで野菜中心っぽいオシャレなお店があったから入ってみた。料金はアレだけど、デートってお金を使うものだよね。
「えぇ~と。……そういえば名前を聞いてなかったね。僕は前川遙人。君は?」
「あっ。遙人さんですね。宜しくお願いします。私はキャサリーです」
キャサリー!?
偽名かな?それとも、
「外国の人なの?」
「あぁ~。えっと。ある意味外国なんですけど………実は私、異世界から来てて」
「……ほぇ?」
突然のキャサリーちゃんの告白に、僕は間抜けな声を出す。
何かな、これは、都会で流行してる詐欺か何かなのかな?異世界から来たからお金がないので下さいとか言うタイプの。凄い斬新だね。
「あっ。そう簡単に信じられませんよね。……じゃあ、遙人さんはどこか怪我とかしてないですか?」
「怪我?肘にちょっと切り傷と打撲があるけど」
荷物を運ぶときにミスして怪我しちゃったんだよね。まだちょっとだけ右手は痛い。
それを聞いたキャサリーちゃんは、
「じゃあ、その怪我を見せてもらって良いですか?」
「え?まあ、良いけど」
僕は着ている服の袖をまくって、肘をキャサリーちゃんに見せる。
するとキャサリーちゃんは僕の肘に両手を向け、
「『ヒール』」
と口にする。すると、薄い緑色の光がキャサリーちゃんから溢れ、僕の肘の傷は、
「あ、あれ?治ってる?」