第8話 『そうだ 壁になった理由実行しよ』
次の日、リディアは朝の支度を終え学園へと向かってしまった。
私には「万が一わたくし以外のものにあなたが見えたら大変なことになるから余計な行動はしないように」と釘を刺された。
だがしかし、私はその言葉を無視して現在学園に行けないかと四苦八苦している。
昨日はこの部屋を出たら廊下だろう、とかここを出たら庭だろう。なんてなんとなくの予測をして念じたら移動できたのだが
そもそも学園の場所とか知らない。ストーリーにもそんな詳細出てない。
「ん?いや待てよ……?」
ふと私は気づいた。そういや学園の近くに街があったよな……。それで攻略対象とデートイベントとか発生させてた記憶がある。何と言う名前の街だったか……。
私はふむ、と腕と顔の輪郭があれば腕を組み、顎に指を当てるようなイメージで考え込む。
そこを思い出せば学園へ近づけるのでは?どんな見た目の街だったかな……。
「えーと、煉瓦は色とりどりで街並みは……」
確か噴水がある広場みたいなところで、リゼと攻略対象が待ち合わせとかしたりするんだよね。よくあるシーンだ。
と言っても私が知ってるのはアルベルトのシーンのみなのだが、他のキャラのシーンは姉が熱く語ってくれた。
それでいろんなお菓子やケーキが置いてある店とかでデートして……
うんうん唸ってデートイベントのシーンを思い出してみる。
あのアフタヌーンティーみたいなの美味しそうだったなぁ。私も食べたい……。
あれ、そういや一度もお腹空いてないな?死んでたら当たり前なのかな……、でもお供え物とかあるし死んだ人も栄養必要だったりするのか。
なんてどんどん考えが別の方向へ向かっていく。
お供え物、お供え物か〜。いいなー……
そう思ってなんとなしに目を開くと──
「えっ」
目を瞑る前にいた部屋とは全く違うところに私はいた。
そこには長椅子がたくさん並べられており、窓はステンドグラスで煌めいている。天井は高く、壁は真っ白だった。まばらに人がおり祈りを捧げている。
私はなんとなく「教会」「礼拝堂」というワードが頭に浮かんだ。
「えっ、なんで?お供え物イメージしたから?」
めちゃめちゃびっくりである。小声で喋ったからかこちらを見る人は誰もいない。
というか今私の顔がある場所は高所なのである。祈ってる人達をを見下ろすような位置だ。……つまり、祀られているものの高さだった。
「こーれは罰当たりでは??」
慌てた私は急いで今いるところから離れようと、とりあえず外を思い浮かべた。この建物の外に出たいと念じる。
するとふわっと空気が変わる。
目を開くとそこは街中を少し見下ろせる位置だった。
「おっ」
街だ!そう思って下を見やった瞬間視点がぶれた。景色を見て思わず忘れてしまっていたセルフジェットコースターである。
一気に地面近くにまで降りた。
「あああ酔う……」
私が降りた所にはどうやら今は人がそこまでいないのか、人通りはまばらだ。
見える人がいたら良くないので上に視線をやり移動する。
「そういや、さっきの場所で下を見おろしても移動しなかったな」
この建物がなんなのか知りたいと思い、向かいにある建物に移動するよう瞼を閉じて念じる。
念じて目を開くと、無事移動できていたようだ。壁が白くとても綺麗なデザインの建物が見える。よくゲームなどで見る教会のようだ。
それに神父だろうか、これまたゲームなどでよく見る真っ黒な服で足下もすっぽり隠れる服を着た人が村人と談笑しているのが見えた。
「ふむふむ」
もう少し周りを確認したくて瞬きを何度もしながら周辺を見回す。
この視線移動?なのだがこのニ日である程度コツが掴めてきた。どうやら瞬きすると移動が止まるようで、場所を調整するのに何度も瞬きをする必要がある。お陰様で目が乾燥しない。
「あ!あれって」
少し離れたところに見覚えのある立派な建物が見えた。
ストーリーで出てきた魔法学園だ。
まさかこんな上手く行くとは!とテンションが上がる。
私は再び目を瞑り今見えた学園の壁に移動すると念じる。できれば高いところに。私がもしも見えてしまう人がいたら大変なので。
笑い声などが聴こえたので目を開く。少し離れたところに街が見える。そして歩いているストーリーで出てきた学園の制服をきた人達。どうやら問題なく移動できたようだ。
さて、これからどうしよう。当初の目的は他の建物にも移動できるのか、ということだったが無事目的は果たした。リディアを探したいが、見つかったら相当怒られるような気もする。
「…………推しでも見に行っちゃおっかな!」
少し悩んだ末、壁になった理由であろう 推しを壁から眺めたいを実行するときが来た。と思い私は行動することにした。
もうそれはるんるん気分だった。だって推しを目の当たりにすることができる。画面越しじゃない、生で。
一番の推しではないリディアでも画面で見た以上に麗しく素敵に見えたのだ。推しのアルベルトを見たときの衝撃がどんなものか楽しみで仕方がない。
心臓持たなかったらどうしようとさえ思う。というか恐らく持たない。
「見に行くって言ってもどこにいるかわからないんだけど……」
とりあえず私は学園を探索することにしたのだった。
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