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悪役令嬢plus壁  作者: 緤 めぐみ
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第4話 『壁、回顧』



「わ、私のこと見えるの!?」


「キャーーーー!!!!」



 私の声にリディアは絶叫して倒れてしまった。

するとバンッと勢い良く扉が開きメイドが駆け寄ってきた。確かアンナと呼ばれていたメイドだ。



「お嬢様!?どうされたのですか!」



 アンナはリディアに駆け寄り、リディアを抱き起こす。リディアは顔面真っ青な状態で私がいる壁を指差した。



「か、壁が……」


「壁?」



 アンナはこちらを見るがどうやら私が見えていないようで、首を傾げている。

アンナの様子を見て私が見えてないことを察したのかリディアは困惑している。



「えっと……」



どう説明するのか黙って見守っていると



「……いいえ、大きい虫がいるように見えたの。でも勘違いだったみたい。騒がせたわね」



 リディアはそう言って抱き起こしてくれたアンナにお礼を言いそっと肩を押した。

アンナは「虫ですか?」とキョロキョロと部屋を見まわす。



「申し訳ございません、掃除が行き届いていなかったのかもしれません。他のメイドたちに強く言っておきます」



すぐ掃除しましょうか、というアンナにリディアは首を振り、気のせいだと思うから大丈夫。と伝えてアンナに下がるよう命じた。

アンナは心配そうにリディアを何度も振り返り部屋を出ていった。


 悪役令嬢と言う役割だが自分より下のものにもお礼を言えるのか。好きです。

それに、私が見えていない相手に壁が喋ったと言っても理解されないであろうことをすぐ察したのも、

予想外のことが起こっても冷静に判断ができるタイプということなんだろう、尊敬する。



「──わたくしにしか見えないのも何かの狙いなのかしら?」



 リディアが厳しい顔つきでこちらに向かって言い放つ。さすがに美人に睨まれると少し怖いな……



「狙いと言われても……私が見えたのあなたが初めてですよ」



「……戯言を聞く暇はないわ。痛い目を見たくないのであれば狙いと誰に指示されたのか今すぐ言うことね」



 リディアはそう言うとパッと掌の上に小さな炎を出す。そういえば魔法がある世界だった。

 初めて目の当たりにする光景なので思わず「おぉ…!」と感嘆の声が漏れた。

その声に私が慄いていると思ったのか、リディアは眉を顰め先程より大きい声で私に言った。



「吐きなさい!誰の指示!?なんの魔法を使って壁に顔だけ出しているの!」



 あっ、そうだ私今顔だけだった。魔法もなにも多分幽霊なんだが……。


 現実を思い出し自身が無表情になるのがわかった。いつだって現実は無情である。



「あのー……幽霊って発想はないんです?」


「…………………………」



 そっと提案するように私が自身を客観的に見た結果をリディアに聞いてみた。

それを聞いた瞬間リディアは怒った表情のまま固まってしまった。


 先程のごまかしで言っていた虫の話といい幽霊の話でこの反応といい……もしかしてリディアは虫と幽霊が怖いのだろうか?



「幽霊なんていないわよ!!」


「うわびっくりしたッ!」



 いきなり大きな声でリディアが目をカッと開いて叫んだ。

そんなこと言われても。



「変な魔法を使って、幽霊だなんだとほざいて……そんなことでこのわたくしが騙せると思ったら大間違いよ!──火球よ!我が敵を燃やしつくせ!」



 リディアは先程から出していた炎をより大きくして私の方へと投げた。言葉の通りまんま火球である。

 私は驚くとともに、自分の部屋燃やしちゃっていいんですか!??なんてことを頭の隅で思いながら来たる衝撃に目を瞑った。

咄嗟に避けれる判断など平和に過ごしてきた人間にはできません!



「ッ……!」


「なっ……!?」



 ……ん?痛くも熱くない……?

 いつまで経っても来ない衝撃にそっと目を開くとリディアは驚いた表情でこちらを見ている。

焦げた臭いもしない。何が起こったんだ……?



「……わたくしの魔法が……霧散した……?」



 なるほど霧散したのか。……なんで?

意味がわからず首を傾げる。首ないんだけどね。


「何をしたの……。」



 厳しい顔つきながらもやや顔色が悪くなったリディアはじりじりと後ろへと下がっていく。

私は慌てて首を振る。手があったなら両手も振っていただろう。



「何もしてませんしわかりませんよ!というか落ち着いてください。自分の部屋燃やす気ですか!?」



「……馬鹿にしているの?鎮火できるに決まっているでしょう」



 その言葉に私はこの世界の設定を思い出した。

たしか、魔法の属性は合計6つあり火、水、風、土。それから珍しいものが主人公の持つ光属性であり、癒やしの力。そしてもう一つ闇の力があったはずだ。


その中でリディアは水、風、土も使えたが最も得意だったのが火。

普通はどれか一つに特化してることが多いがリディアは自身の努力により得意なもの以外もある程度使いこなせるようになったと設定に記載があったはずだ。とても優秀であったと。



「えっ、流石リディア。4つ使えるんだ……」


「……予想できることだけど、教養がないのね。人の名前を軽々しく敬称もなく呼ぶなんて。図々しい」



 すごく刺々しい言葉だ。当たり前だけど。……というか



「これだけ優秀なのに悪役令嬢なんだ……」



何故なのか。優秀だからこそか?

努力で手に入れたものがあるからこそプライドが高く、リディアから見たらぽっと出の主人公は許せない存在だったのかもしれない。



「悪役令嬢?」



 私の言葉にリディアが反応する。私はそれを不思議に思って次の言葉を待つ。



「わたくしが悪役令嬢だから……、悪者だから狙いに来たの?あのリゼ・ホワイトにでもお願いされたのかしら?」



 んん?どういうことだろう。

時間軸的にはもう主人公のリゼは魔法学園に通っていて、すでにリディアが嫌がらせをしているのか?

だとしたら、主人公が選んだのは王太子のアルベルトルート?……でもリディアは他の攻略対象にも出てくるって言ってたしな、わからない。



「いいえ。リゼ・ホワイトにもあったことはないですし……、現状あなたとそのリゼ・ホワイトがどういう関係なのかもあまり詳しく知りません。

私が知ってるのはあなたが悪役令嬢で破滅してしまうってことですね。」



「破滅ですって?このわたくしが?」



 そうだ、私はリディアの未来を知っている!これを交渉材料にすれば敵意を向けられたとしても協力関係を築けるのでは!?

そう思った私は自己紹介からすることにした。



「はい、自己紹介が遅れました。私は安藤美那といいます。美那が名前 安藤が苗字です」


「…………」



 リディアは私の自己紹介を黙って聞いている。

私の様子を観察しているようだ。



「信じられないでしょうが、私は恐らく死んでしまいました。目が覚めたら壁になっていたんです。だから魔法とかではないと思います。先程のリディアさんの魔法が霧散したのも何故なのかわかりません」



「──それから、私はあなたを知っています。私が……ゲームの……って言ってもわからないですよね」



どう言ったらいいものか、と少し悩み普通に物語と言って伝えたほうが楽だなと気づく。



「……ええっと、物語で読んだ中にあなたは悪役として名前がありました。

主人公に対して酷いことをして最終的には王太子から婚約破棄をされ、平民落ちか行方不明になっていました」



 そう、リディアの最後は良くて平民落ちだった。良くてといっても公爵家から縁を切られ平民の人たちからも冷たくされて、一人孤独に過ごしたはずだ。


悪い場合は公爵家から縁を切られ家を出た後に誰かに襲われるという描写のあと、主人公たちにはリディアはその後行方不明と説明されていた。

これはもう殺されたも同然だった。



 リディアは黙って私の話を聞いていてくれた。

悪役令嬢なら「問答無用!」とか言って話を遮り聞いてくれることもないだろうに……。

良い意味で悪役令嬢らしくない。

私の中で好感度が上がるばかりだ。



「──物語にわたくしの名前があった、ね。にわかには信じられないわ」



 口元に手を当てるようにして考え込んでいるリディアの顔色は先程より何故か良くなっていた。

 ……あれ?案外すんなりことが進んでいるような気がする。普通ならもっと抵抗したり信じられないから罰します的なものになるかと思ったのに。



「まず、あなたの名前が珍しいわね。苗字があるってことは貴族なの?」


「あ、それは──……」


「──まあそれは些細なことね。次に目が覚めたら壁になっていた、というのは本当だったとして呪いかなにかかしら。死んだと言っても自分が死んだ姿を見たわけではないのでしょう?」


「……はい」



 自分の、屍を想像してゾッと背筋が凍った。考えたくない。本当はここは夢で私は眠っているだけだと信じていたい。



「あなたの話したその"主人公"はリゼ・ホワイトのことなのかしら」


「そうです、よくわかりましたね」


「あなたが"現状"私とリゼ・ホワイトの関係を詳しく知らないといったのよ」



 「予想はつくわ」と長い髪を後ろにはらい、なんでもないことのように話すリディア。


 さきほどのたったそれだけの言葉で予想できたのか。すごいなー、私だったらあまり人の話の細かい部分まで聞かないからわからなかったかも。


やはりリディアは賢い人だ。でも本当になんでこんなにあっさり話を聞き入れてくれているんだろう?と私は不思議に思うのだった。



2023/12/20 加筆修正

お読みいただきありがとうございます


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