第3話 『壁の中身はオタクである』
廊下や別の部屋などで使用人が話していた内容からしてここはブランチェット公爵邸らしい。
そしてブランチェット公爵の一人娘がリディア・ブランチェットのようだ。
私はこの名前を知っている。というか、思い出した。
何故なら生前遊んでいた乙女ゲームの悪役令嬢、それがリディア・ブランチェットという名前だったからだ。
乙女ゲーム「この癒やしは貴方とともに」は魔法が使える世界で平民の主人公リゼ・ホワイトが癒やしの魔法に目覚めたことにより貴族の養子に迎えられ魔法学園で七人の攻略対象と出会い、恋に落ちるという
王道中の王道ものである。
その攻略対象の一人が王太子、アルベルト・ティンバーレイクだ。
私はアルベルトの容姿が大変好みですぐに攻略した。
その際に出てきたライバル役がリディア・ブランチェットだった。
私はすべてのキャラを攻略していなかったが、一緒に暮らしていた姉が全キャラ攻略しており
また、ファンブックも熟読していたため、その設定のこともあって姉はリディアのことが好きだったようだ。
ゲーム上でリディアはアルベルト以外にも邪魔者として出てくるらしい。
だが、それは立場を弁えない主人公に対し他の攻略キャラの婚約者などのことを思い、主人公に口出ししていたという設定だった。
性格はプレイしていたときは高圧的で高慢なキャラだと思っていた。
だがよくよく知ると悪役令嬢にはないタイプなようで、人を認め褒めることはできるようだ。
他人にも自分にも厳しいところがあり
本人がいないところで褒めて、本人の前では厳しい態度を取ることが多いとか。なんでやねん。
故に勘違いが勘違いを呼び王太子もいろいろな噂を信じてしまって、断罪されるという少し可哀想な悪役令嬢だ。
本人がその癖を直さなかったのも悪いのだが……。
また設定では自身の侍従たちには好かれていたようで、リディアの友人であるグレース・アビントンにもわかりづらいが良い人だと評価されていたらしい。
その内容を聞いた私も主人公のリゼよりリディアの方が好きになってしまった。
推しはアルベルトだが、リディアも推せるのでゲームを攻略したあとは絵のサイトなどでアルベルトとリディアのカップリングを漁りまくった。
どうやら仲間はたくさんいたようで、アルベルトとリディアのカップリングイラストや小説が沢山あったのを憶えている。供給があり大変ありがたかった。
ここまで長々と話したがリディア・ブランチェット本人の顔を拝むまで確証はないが、ほぼ確定だろう。
「ゲームでの声も今日聴いた声と一緒だったはずだし……」
妙にドキドキしてきた。
まさか本当に推しを眺める壁になれるとは……。
さっきはなんて酷いんだと思ったが、これは嬉しいかもしれない。
──ガチャッ
そんなことを思っていると部屋の扉が開く音がした。恐らく部屋の主が戻ってきたのだろうとそちらを見やる。
「ふぅ」
予想通りリディアが軽くため息をつきながら部屋に入ってきた。あとから入ってきたアンナに一人にしてもらうよう伝えて扉が閉まる。
「……気分転換に本でも読もうかしら」
リディアはそうポツリと呟いて、本棚から本を一冊取りソファに座った。
どうやらあまりご機嫌ではないようだ。なにかあったのかな?
そんな考えをしつつも生のリディアの顔に私は心臓が激しくなっている。それはもうドコドコドンと。心臓ないのにね。
驚くほど綺麗だ。絶世の美女ってリディアのことを指すのではないか?
すごく好き。これは惚れた。
好こ〜!!と叫びたい……紛れもないオタクである。
そんなことを思いつついろんな角度からガン見していると、ふっとリディアが後ろを振り返った。
─バチッと目があう。
「エッ」
思わず間抜けな声が出た。
目が合った??この屋敷の誰とも目が合うことはなかったはずだが、もしかして……
「…………ッ」
リディアがみるみる表情を変えていく。
驚きや困惑、そして恐怖だろうか顔色が悪い。
「……顔……?」
リディアはそっと立ち上がりこちらを凝視している。私が見えてる……!?
「わ、私のこと見えるの!?」
「キャーーーー!!!!」
興奮で思わず話しかけたら絶叫された。
そしてそのままリディアは倒れたのだった。
2023/12/15 加筆修正
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