第28話
「──あたしが、この物語の主人公。大丈夫、失敗してもやり直せる。だってここはゲームの中なんだだから」
そう言ってリゼは笑っていた。
私はそれを呆然と見ることしかできなかった。
……どうしてまだゲームの中だと、やり直せると思ってるんだろう……本当にここはゲームの中なのかって疑問に思わないんだろうか。
……リディア達は生きてるじゃん。システムじゃなくて自分たちの感情があってそれぞれ考えて行動している、生活している。
万が一本当にゲームの中だったとしても、リゼは……この人はあまりにも──
「人を馬鹿にしすぎてる」
主人公だから全部思い通りにならないはずがないと、信じて疑わないこの人を私は軽蔑した。この人は今私が大事にしてるリディアを殺すと言ったのだ。
「そんなこと、させてたまるもんか」
──正直、リゼがゲーム通りのキャラならリディアの破滅を阻止して尚且つリディアとリゼが平和に暮らせるように行動できたら理想だと思っていた。でも、そんなものはできないんだと理解した。
この人がこのままならそんな未来はありえない。
私は改めてリゼを見やる、この人の今後の行動とこの男爵家の行動を監視しなければ。
「始末するにはまずあのクソジジイに力を借りなきゃね……嫌だけど背に腹は替えられない」
そう言ってリゼは立ち上がり部屋を出ていった。
私はその後をついて行き、リゼが男爵と話す内容静かに聞くのだった。
◇◇◇◇◇◇
──1時間後
「うーん」
私はリゼと男爵の話を聞いて、なんともいえない気持ちになっていた。
男爵は以前から王室にコネを作りたかったようだ。それで癒やしの力を持ったリゼをいち早く養子に迎え入れアルベルトと仲良くなるよう、あわよくば婚約者になるように計画していた。
リゼはそれに乗じてアルベルトの婚約者になるためにはリディアが邪魔だと以前から話していたようだが、そもそもリディアは以前から悪評があったらしく男爵はそのままならリディアとアルベルトが結婚をすることはないと考えていたようだ。そのためリゼの話をさほど聞き入れていなかった。
(今後王妃になる人が悪評高いと国民から避難が殺到するもんね……)
けれど今回、リゼがリディアの様子が変わってきたことやどうやら社交界でもリディアが丸くなったと噂されているようで、男爵も自身が思っていたより状況が思うように進んでいないことに気づいたようだ。
男爵は少し考えたあとリゼにリディアの日頃の行動を観察するように伝えていた。それから計画を組むと。リゼはそれに頷いていたが──
「はぁ……計画するにしてもあれが使い物にならないんだ。どうするべきか……」
──そう男爵はリゼが去ったあとの書斎にて呟いていた。
もしかしたら男爵はリゼを捨て駒にするつもりなのかもしれない。どれだけ魔力が高く癒やしの魔法が使えてもそれのコントロールができず、勉強もできず、人にも慕われていない人物を庇うつもりはないのだろう。
(でも結局、男爵家が公爵家に手を出したら全員処刑は免れないはず……)
計画の全貌がわからなければリディアを守りきれない。それに今の私は体がないし不便さは……マシになれど変わりはしない。協力者を得ないとね
(予定を変更して暫くはリゼの家にいることにして、それから私が側にいられない分グレースとヴァン、あとグレンにも協力してもらえるよう動いてみよう)
グレンに関してはグレースにお願いして協力を得れるよう話してもらおう、ヴァンに関しては私から話しかけてみて……協力してくれるかはいまいちわからないがお願いしてみよう。
(でもこの話を信じてくれるかな?)
まだ計画の全貌がわからないし、実際行動に移す前段階でこんな話が出ていたと話しても証拠がない。グレースは気にかけてくれるかもしれないが、グレンとヴァンには納得してもらえないかも……。
(でも、実際に何か起こってからじゃ遅い)
私は今後もリゼの家に滞在することに決めたのだった。
◇◇◇◇◇◇
翌日、私は学園でリディアとグレースにいつもの中庭のベンチで話をしていた。
「あの女の家に暫くいる!?なんでよ!」
「しっ、声が大きいわよリディア。落ち着いて」
私がリゼの家に暫くいることに関してリディアは驚き、そして怒っていた。グレースはそんなリディアを宥める
「でも!」
「美那さん、何か理由があるのよね」
「理由は変わりませんが、私が思ってたより私のほしい情報を持ってるっぽくて〜」
「それなら別にわたくしの家から行き来すれば良いじゃない」
「移動も疲れるんですよ、無茶言わないでください」
私とリディアのやり取りにグレースが何か気づいたのか口を開こうとする。
私はリディアに知られたくなくてグレースに視線を送った。グレースはなんとなく察してくれたのか口を噤んでくれる
「今回みたいに学園では会えますし、報告もします。それに私も生徒会室に文字通り顔出しますから!」
「生徒会室じゃ話せないでしょ!」
「まぁまぁ良いじゃないリディア、美那さんの行動を引き止める権利は私達にはないわよ」
「それは……」
「ほら、教室に戻るわよ」
グレースはリディアの背中を押し無理やり移動する。リディアがまだ何か言っているがグレースは適当に流しているようだ。
その姿を眺めていた私にグレースは振り返り口パクで何かを言った。恐らく「放課後に」と言ったんだろう
私が頷くとグレースはにこりと微笑んでリディアを連れて行ってしまった。
(やっぱりグレースは頼りになるなぁ)
正直リディアにも狙われている可能性を伝えるべきかとは思った。その方がリディアはきっと動きやすいし護衛も増やせて安全を確保してもらえる。ただそれだと意味もなくなると思った。
証拠という証拠がない以上、相手が行動を起こした上でリディアの安全を確保しつつ捕まえるのが理想だと考えたからだ。確実に断罪するために。
ただ、リゼ本人が動く可能性は低いだろうから雇われた誰かがリディアに手を出そうとするはずだ。
その人を捕まえて口を割らせる、という王道のやり口しか私には思い浮かばなかった。
グレースがいればある程度の情報を手に入れることは可能だろうし、断罪したときにリゼとホワイト男爵が否定しても誰も二人の話を信じないという状況を作るのであれば、完璧な情報が必要になる──
(リゼたちが否定できない情報を手に入れるなら男爵家の使用人をこっち側に引きずりこみたいけど、こういうのって賄賂が必要だろうしな……)
ここはグレースに要相談だ。
私は色々自分なりに考えられるところを考えて、放課後になるのをリゼを観察したりしながら待つのだった。
◇◇◇◇◇◇
──放課後
約束通りグレースは中庭に来てくれた。
「先ほどぶりね、美那さん」
「はい、相談したいことがありまして」
そう言ってすぐに私は本題を切りだした。
リゼの家で見たリゼの様子や男爵とのやり取り、そして私の考え、グレースだけでなくヴァンやグレンの協力を得たいことを伝える。
「…………なるほど」
グレースはしばらく黙り込んで考えているようだった。
「お兄様はこちらで任せて頂戴。必要になったら美那さんの姿を見れるようにしてもらわないといけないかもだけれど」
「それはもちろん」
「それから使用人から情報を手に入れたいというところも任せてもらえるかしら?」
グレースが言うにはどうやら男爵家は人使いの粗さなどで使用人の入れ替わりが激しく常に募集をかけているとのことだった。
「こちらで用意した人を送り込みましょう。仕事ができる人間ならすぐに雇うでしょうから」
そう言ってグレースはニヤリと笑う。今までグレースを見ていて見たことない笑顔だと感じる。悪巧みとかそういうのを考えている顔なんだろうが、とても綺麗で格好良かった。
「でも、リディアに伝えないのはどうして?伝えたほうが割と事が早く終わるかもしれないわよ?」
「うっ……確かにそうなんですけど……」
リディアに知らせず、相手に行動させることで確実に断罪する、これも確かに理由の一つだ。
勿論伝えたからと言ってリディアが怖がるなんて思ってもない。……でも、それでも
「私はリディアさんに不安のない生活を送ってほしいです。たとえ本人が気にしない、怖がらないんだとしても話してしまえば頭の隅でリゼの顔を見るたびにその話がちらつくでしょうし、何より不快なはずです」
私の言葉にグレースは少しため息をついて「美那さんは本当にリディアが好きね」と微笑み、ならそれで行きましょうと言ってくれた。
「えっ、いいんですか?」
「ええ、いいわよ。──でもそうなると護衛はどうしようかしら……リディアに伝えないとなるとブランチェット公爵様に言って護衛を増やすこともできないし、なにより増やせたとしてもリディアがすぐに異変に気づくでしょうから」
「うーん……」
「まぁひとまず私の護衛を増やして誤魔化せばいいかしらね、もしお父様が私の護衛を急に増やして疑問に思ったとしても、お兄様にお願いすれば上手くやってくれるでしょう」
その言葉の意味がすぐにわからなくて私は少し固まった。
……あ、そうか。リディアとグレースは幼馴染で親の付き合いもあるってことか!もしグレースの父親にリディアの話をしたらリディアの親に連絡が行くかもしれないのだ。逆にグレースの父親がグレースの護衛を増やしたことを不思議に思って、グレースの周りに何かあったかとかリディアの親に最近何かあったか確認して調べようとするかもしれない。そうすると必然的にリディアにも話が行くはず
(しかもわざわざグレースが父親が疑問に思っても兄に任せれば良いと言うことは、グレースの父親はグレースがいくらリディアには伝えないでと言っても少なくともリディアの親には連絡する人だってことだよね)
それで結局リディアにバレたら意味がない。護衛を増やすことに関して親云々は考えてなかったな
……やっぱり一人で考えると限界がある。協力お願いしてよかった〜!
「ヴァンに関しては美那さん頑張ってみてくれる?もしも駄目なら私が出るわ」
そう言ってニコリと微笑むグレース。
あ、これは恐らくヴァンかアルベルトと弱み握ってる感じだな……
「わかりました、ありがとうございます!」
明日ヴァンに会うことにして私はグレースと別れてリゼの家に戻るのだった。
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